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トレインメッセージ

Message136:「一計百案」 答えを探さず 考えを尽くす

掲出期間:2015.8.1〜8.31

伊藤 泰彦  ITO Yasuhiko
武蔵野大学 工学部
建築デザイン学科 教授
東京工業大学工学部建築学科卒業。同大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了、修士(工学)。北川原温建築都市研究所勤務、東京藝術大学等で教育研究設計に携わり、平成20年より本学准教授、平成26年より教授。









動画01

― 伊藤先生のご専門や研究内容を教えてください。

伊藤 :私の専門は、広く言うと「建築デザイン」です。
私はいま、建築デザインから派生する3つの活動に従事しています。

まず、こどもの建築教育です。日本建築学会でのこどもの教育事業を通じて、教育の実践の中でこどもと建築の関わりの可能性を、学術的に探ろうとしています。小学校では、衣食住の中で、衣や食は家庭科の教育にたくさん盛り込まれていますが、住教育は住まいを題材にするので、子どもの家庭環境まで見えてきてしまいます。個人情報という観点などから、日本は住教育への取り組みが、諸外国から遅れていると言われています。もっとわれわれ専門家が子どもに住教育をしていく必然性を考えて活動していくことを考えています。

次に、都市・地域の景観です。岩手県遠野市の町と町家に関わる活動や、東京郊外のまちづくり事業に参画し、歴史や文化を踏まえた地域再生を実践的に研究しています。

そして、「バイオミミクリ空間の試行」と称して取り組むデザイン研究です。これは、生き物の形を題材に新しく独創的な空間デザインを、制作を通じて研究しています。人間が作り出すものは合理的だが、生き物が作り出すものは人間にとっては不合理。そのなかで、我々が普段作り出さない空間を作り出していこうというものです。例えば、まつぼっくりやアリなどを参考に取り組みました。アリでいうと、アリの巣という空間は、人間が構築的に作る空間とまったく違っていて、いわゆる引き算の空間、複雑性もあるので、そんな複雑性を融合したような作品を制作しました。




動画02

― 先生の最近の研究での関心や発見を教えてください。

伊藤 :最近、イギリスの地理の教科書を見る機会がありました。地理学の初等教育のための教科書です。ページを開くと、「平面図とは何か(What is a Plan)」からはじまり、住宅・街区・地域・産業・気象と展開していきます。その基盤になっているのが、平面図。平面図という建築図面表現で、地理を学ぶのです。「建築を」教えるのではなく、「建築で」教える一つの事例といえます。それだけ、一般市民に建築が身近な存在とも言えるでしょう。ただ、日本では、建築は一般の方に身近な題材になっているでしょうか?そのあたりの垣根を越えて行きたいですね。

建築は、大学でいうと、本学では工学部ですが、美大や家政系大学の中にも建築が学べる学科があります。どの大学・学部に行っても、建築を題材に学ぶときには、歴史文化から人間工学、使い方、構造のような理系のものから、美学的な要素、いわゆる人・文・芸術といった学問への広がりがあります。そういった幅広い中で、問題を発見したり解決できるような総合力を身につけてほしいなと思います 。




動画03

― ご専門の建築デザインを学ぶ魅力を教えてください。

伊藤 :建築は、いわゆる用・強・美すなわち人文・理工・芸術の要素を複合した総合学問です。幅広い見識や実践力が求められ、ハードルが高いように思えますが、その一方で、実は自分の得意なことで突破口を作れる世界です。いろんなことに興味を覚えるチャンスがありますし、そのなかで自分の強みを再確認すると、自分の立ち位置もクリアになって、専門性を発揮できる、ということに気づけることも建築デザインの魅力だと思います。また、専門家ではない全ての人が建築ユーザーでもあり、実学としての醍醐味もあります。




動画04

― 現在の仕事に至るきっかけや経緯、教育・研究以外の職歴など先生が築いてこられたキャリアについて教えてください。

伊藤 :私の叔父が建築家で、幼少期から仕事を見ていたことが、関係していたのかもしれません。その当時は建築を仕事にするとは思っていませんでしたが、その後、ものづくりができる、作った仕事が形として残るところに魅力を感じ、建築学科に進学。恩師や学内外の仲間に恵まれました。設計コンペにチャレンジしたり、学生ながら住宅設計の実務をしたりしました。実家が家を建てる際、説得して設計した家です。

その後、北川原温さんという建築家のもと、公共・民間・個人住宅まで幅広く設計実務に明け暮れる日々を過ごします。その北川原さんに声掛けいただき、東京芸大で研究・設計プロジェクトに携わりました。

大学時代の恩師・仙田満さん(建築家)も、研究と設計実務を横断する実学の方です。2人の建築家の共通点は、絵でコミュニケーションを図ることでした。私のコミュニケーションの原点と思っています。

― ご実家を自ら設計されたのですね。

伊藤 :当時何も知らなかったので、一つ一つ勉強しながら、同時に怖さも知らないんですね。一つのチャンスだと思って、周りの人にいろいろ教えてもらいながら、工事監理といって現場も見ながら作りました。決して大きな住宅ではありませんが、両親がこれからどう過ごすのか、若い自分なりに考えながら設計しました。建築とアートが違うのは、他人のお金と他人の手で、他人が使うものを作るのが建築。住宅にしても、私の作品というよりも、住まい手である両親のものという認識で作りました。




動画05
 

― これから社会に出ていく学生に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。

伊藤 :学生たちに、「一計百案」という言葉を伝えています。1個のプランに対して、100個の案を出すという意味でしょうか。この言葉は、学生時代に恩師から授かった言葉です。とにかくたくさんのことを考え尽くしなさい、いろいろな角度からあるいはいろいろな可能性に向けた検討をし尽くしなさい、ということです。また、たくさんあればいいというわけではなく、同時に、安直に答えを求めないということでもあります。最近は、インターネットで検索してすぐに答えが得られる時代になり、一種の社会問題化しています。便利な社会になっている一方で、情報の真偽を疑う、新しい考え方を自分なりに構築する力が失われているように感じます。思考力・判断力・批判力の欠如です。デザインは、唯一絶対の答えがない世界。学生にも、建築デザインを通じて、その思考法を培ってほしいと接しています。

また、本学の工学部には「プロジェクト」という授業があり、建築デザイン学科ではコアになっている特徴的な科目ですが、8人の教員がそれぞれ自分の興味のあるテーマでカリキュラムを組んでいます。1〜4年生まで様々な学年の学生が選択して履修できます。そのカリキュラムのなかで、普通の科目とは異なり、グループワークや、上下の人間関係を作ることも必要です。私のプロジェクトでは、バイオミミクリ空間についても課していまして、自分は生き物の専門家ではありませんので、自分のなかに答えがない中で、学生と一緒に答えを探すというのは、私にとっても発見が多いですし、学生にとっても普段の授業とは違う活動になっているのではと思います。バイオミミクリ空間について考える中で学生が持ってきた「魚のうろこ」は、時間が経つと臭くなるわけですが、そこでどう対処するか、想定外の奮闘があるのも、学生にとっては勉強になるわけですね。