FACULTY OF BUSINESS ADMINISTRATION

経営学部

HOME教育学部経営学部メッセージ

学部長・学科長座談会

武蔵野大学経営学部、良いよね。

目次

1

左から、鷹野宏行会計ガバナンス学科長、古川一郎経営学部長、渡部訓経営学科長
聞き手:
 それでは、本日はよろしくお願い致します。学部長と両学科長に、受験生や、大学をとりまくさまざまな関係者の方々に対して、メッセージを頂きたいと思います。
 
古川:
 といわれても、どうやって進めて行けばいいの?
 
聞き手:
 特段にテーマや段取りはないので、自由に話して頂けたら…
 
鷹野:
 なるほど。気軽に話していくのがよいですね。
 
聞き手:
 はい。楽しく話されている雰囲気も伝わればいいなと思っています。
 
古川:
 わかりました。気軽にね、世間話でもしているように…。自由闊達がうちのいいとこでもあるしね。じゃあ渡部先生、受験生が武蔵野大学の経営学科を選ぶ理由ってなんでしょう?

経営学科の魅力:リバタリアン・パターナリズム

2

渡部:
 いろいろありますけど、面倒見がいいというか、おせっかいと思われるぐらいに学生と近く関わるところは、魅力の一つなんじゃないかな。僕はそれを、リチャード・セイラー教授※1のリバタリアン・パターナリズム※2という言い方を借りています。リバタリアンというのは個人の自由意思の尊重、そしてパターナリズムというのは家父長的に少し個人の自由意志を時には抑えてでも関わる、というような意味なのですが、その両方を組み合わせた関わり方が上手にできているのかなと感じています。
 昔からある大きな大学って、自由放任ですよね。武蔵野大学はそうではない。じゃあ権威主義的になんでも細かく指示するかっていったら、もちろんそうでもない。若者が自分の意思でちゃんと選択できるように最後までおせっかいに導く、そういう関わり方がうちの魅力なんじゃないかなと僕は思うんですけどね。

古川:
 それはすごくよくわかる。
 
聞き手:
 確かに、一部の先生は、私生活の相談に乗ったりもしていますしね。教務担当の先生も、出席必須のガイダンスを設定して、丁寧に丁寧に履修について説明して、やってはいけないこともしつこく説明していますけど、でも最終的な判断は学生に委ねていますものね。しつこいくらいに、おせっかいなくらいに説明するせいか、履修ミスなんかもここ何年かでずいぶん減っています。
 
古川:
 でもこういう良さってさ、入ってわかるものだから、なかなか伝えにくいよね。
 
渡部:
 そうなんです、世の中にどう伝えるか…。リバタリアン・パターナリズムはぴったりなんですけど、ちょっと難しいかもわからない。我々の面倒見の良さがぱっと伝わるキャッチ―な言葉があれば…




※1アメリカの行動経済学者、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス教授(2019年6月時点)。2017年にノーベル経済学賞を受賞
※2個人の意思決定を尊重しつつ、同時に、個人の意思決定をより良い方向に導くことを許すという立場、考え方。;Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2003). Libertarian paternalism. American economic review, 93(2), 175-179.


会計学科の魅力:会計・簿記の技能を養う

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古川:
 鷹野先生、会計ガバナンス学科はどうですか? 経営学科と会計学科の違いなどは。
 
鷹野:
 簿記という、500年以上続くきっちりとした技能・技術をしっかり教育することをまず重視しています。ここが、おそらく経営学科と会計ガバナンスの一番の違いかもしれませんね。経営学科の1年次科目は概論的な部分から入ると思いますが、会計学科の場合には比較的少人数のクラスで簿記を学ぶことから始めます。
 
 
古川:
 会計ガバナンス学科の学生は、入学時点で、将来の目標が非常にクリアですよね。経営学科はそんなことないよね?
 
聞き手:
 経営学科の場合は、確かに、ほとんどが将来の目標を決めないままに入学してくることが多いですね。

古川:
 ビジネスの世界で活躍したい、くらいの目標はあるんだろうけど、じゃあどんなビジネスでどういう風に活躍するかっていう目標まで考えられている学生は、経営学科の場合は少ないね。会計学科はしっかりしてるのにね。
 
鷹野:
 経営学科と比べると、学ぶ内容がわかりやすいからかもしれませんね。簿記や会計は、法律ではないけれども、それに準じるようなしっかりした制度であり技能ですから、受験生もイメージしやすいのかもしれません。学生も、さすがにどの企業にというところまでは考えていないでしょうけど、会計や簿記の技能を使って活躍したい、というイメージはあるようですね。資格取得も積極的に奨励していますしね。


経営学科と会計ガバナンス学科の響創

4

古川:
 ビジネスの世界でどう活躍するか、その「どう」の部分は違っても、広い意味で言えば同じ目標や夢を掲げているのが経営学科と会計ガバナンス学科だよね。今でもある程度のカリキュラムの開き合いはしているけれども、将来的にはもっと垣根を低くしていきたいよね。
 
渡部:
 僕は、経営学科と会計ガバナンス学科の間の垣根は低くしているつもりですし、低くあるべきだと思っています。僕がアメリカでビジネススクール※5に行ったとき、コア4科目というのがあって、会計も入っているんです。戦略…ここでいう戦略とは組織論やイノベーション・マネジメントも含む広い意味での戦略ですが、あとマーケティング、会計、ファイナンスの4つが必修科目だったんです。それくらい全部、大事にされていたんです。どこに重点を置くかは違っても、学部教育でもそうあるべきだと思っています。会計や財務がわからないと、戦略もマーケティングも上手くいっているかどうか評価できないし、ステイクホルダーに対するアカウンタビリティも果たしようがない

鷹野:
 最近は、コンサルティングを業務の一つにしている税理士や公認会計士も増えてきていますし、会計ガバナンス学科の学生ももちろん、戦略やマーケティングの知識は必要です。どちらの学科から見ても、両学科の垣根は低い方が良いですね。
 
古川:
 高瀨さん※6も、経営学科の学生が具体的に正確に簿記や財務諸表は作れなくてよいけれども、でも読めた方が良い、読めないのは良くない、と仰るものね。
 
渡部:
 現時点でもお互いに科目を開き合っているから、垣根は低いといえるけど、将来はもっともっと垣根を低くしていきたいですね。
 
聞き手:
 ただ、完全に自由に履修ができるわけではないので、受験生にはしっかりとどちらの学科を選ぶか検討して欲しいですね。ときどき、オープンキャンパスの相談会で、「どちらの学科に入っても、全ての科目、全てのゼミナールを選べるんですよね? じゃあどっちの学科を選べば良いですか」って相談に来られる受験生や保護者の方ももいらっしゃいますからね。
 
古川:
 選べないよね?
 
聞き手:
 だいたいの科目を履修することは制度上は可能ですが、4年間で卒業するなら、実態として全ての科目を履修するのは難しいですね※7。幾つか選んで、ということになると思います。

 
鷹野:
 そのあたりは確かに、我々ももっとPRしていかないと行けないですね。
 教育だけじゃなくて、研究なんかも一緒にやっていきたいですね。エリアマネジメント、これから大事な研究になりますよね。自分たちで言うと恥ずかしいですが、教育者としても、研究者としても、いまの経営学部には良い先生がそろっていますしね。
 


※5 1982年~84年、ペンシルヴェニア大学大学院ウォートンビジネススクールに留学。
※6 高瀨央(たかせひさし、経営学科教授)。「会計という切り口から企業やビジネスを理解する」ことを重視して授業を行っている。
※7 ゼミナールやフィールドワーク系授業を例外として、経営学科の学生は会計ガバナンス学科の科目を、会計ガバナンス学科の学生は経営学科の科目を原則としてほとんど履修できます。しかしながら、両学科とも必修科目や履修科目をそれぞれ設定していますので、経営学科に所属しながら会計ガバナンス学科の学生と同じように履修することはできません。

フレキシブルな組織

古川:
 確かに教員の質は良いと思います。若い先生方なんか特にね、教育も熱心だし研究もいっぱいやってる。でもそれだけじゃなくてね、この大学、意思決定がとにかく速いよね。大学全体もそうだし、経営学部もそうだよね。
 
渡部:
 そうですね。昔、この大学に来て何年かして、ファイナンシャルプランニング論っていう科目を設置したいと上申したら、あっという間に実現するんですよ。もう翌年、実現しました。
 
古川:
 うんうん、時代のニーズに合わせて本当に柔軟にいろいろ変えていくよね。もちろん全部が全部、成功というわけじゃないけど、イノベーションなんて失敗しないと成功できないんだから、正しい挑戦だよね。他の大学よりも、フットワークは凄く軽い。
 
鷹野:
 確かにそう思います。何年か前に、武蔵野大学が日本の私学として初めてクォーター制度を導入して少し経ったときに※8、他大学の先生からクォーター制度について教えてくださいとお願いされたので、プレゼンテーションしたんです。そうしたら、その大学の責任者の方が、「よくできましたね、うちの大学ではこんなことできません。もし無理矢理やったら、経営陣はみんな退陣させられちゃうかもしれない」と仰っていたのが、印象的でした。
 
渡部:
 そんなことがあったんですね。
 
鷹野:
 大学が全体的な方針をしっかり意思決定して、その枠組みの中で、学部…教授会が意思決定を行う。ガバナンスがしっかりしているんですよね。賛否両論はもちろんあるんでしょうけれども、武蔵野大学は、これからの大学のあるべき姿に近づいているのかなとも思います。
 
渡部:
 確かに、大学の経営と、大学での教育って、非常に明確に分かれていますね。本当に、「こういうことをやりたい」と言ったら、予算を作ってくれたり、時間を作ってくれたり、非常にフレキシブルな組織ですよね。


※8 4学期制度のこと。日本の多くの大学は、前期・後期や春学期・秋学期などの2学期制度を採用しています。武蔵野大学は、2015年より4学期制度を導入しました。

もっと知って欲しい

古川:
 ただやっぱり、少し前の話に戻りますけれども、リバタリアン・パターナリズムにせよ、組織のフレキシブルさにせよ、こういう良さって、学外にはなかなか伝えにくいよね。
 
聞き手:
 そうなんです。オープンキャンパスに来てくださいとしか言えないです。今回の座談会も企画の一つですけど、WEBを刷新して発信を増やす予定ですけど、文章だけではなかなか伝わらないですよね。
 
鷹野:
 会計ガバナンス学科であれば、公認会計士や税理士、あるいは簿記2級、1級の合格率のように、数字は出せますけど、それでもやっぱり良さの全ては伝わらない。経営学科はなかなかこれという資格もないから、なおさら難しいですね。
 
渡部:
 良さはたくさんあるし、自負もしているけど、ブランドと言われるまでには確立できていないんですよね。
 
聞き手:
 ぜひ武蔵野大学の経営学部をしっかりと調べて、共感できたら選んで欲しいですね。
 
古川:
 まだ2012年にできたばっかりだしね。受験生って、どんな風にうちのことを調べられるの?
 
聞き手:
 オープンキャンパス、受験パンフレット、あとは外部のイベントに教員が出演したことがありますし、いろいろあるので、リンクを表示させるようにしておきますね。
 
古川:
 それいいね。やっぱりオープンキャンパスがいちばん?
 
聞き手:
 はい、教員とか学生たちと、直に話して欲しいですね。
 
古川:
 引き続き、発信、プロモーションも頑張っていきましょう。
 
 
   

エリアマネジメントの可能性

渡部:
 さきほど鷹野先生がちらっと言いましたけど、我々が大事に育てようとしてる、エリアマネジメントというコンセプトも、もっとしっかり伝えていきたいですね。グローバルに活躍することも大事だけど、その足下のエリアやローカルをしっかり考えようよ、そこにいる様々なプレイヤーが響創しながら良い未来を創っていきましょうよっていうコンセプト。武蔵野大学の「世界の幸せをカタチにする」っていうブランドにも貢献したいし、経営学部のブランド、「響創」も大切にしていきたいですよね。
 
 
鷹野:
 3、4年ほど前に、私と渡部博志先生※9と何人かで、話していたんです。当時はエリアマネジメントという言い方はしていなかったかもしれないけど、地域って大切ですよねって。グローバルとか国際っていう冠がつく経営学が非常に人気かもしれないけれども、どの大学もそこを目指す必要はなくて、地域に密着しながら地域に貢献できる、そういう人材を育成するのも大切だよね、と。地元密着型で、地元に凄く貢献していて、その企業が無いと地元のビジネスはもちろん、お祭りとか町内会とかコミュニティも立ちゆかない、そういう企業に勤めるのもすごくやりがいがあるでしょうし、「世界の幸せをカタチにする」ひとつの道筋ですよね。
 
古川:
 その通りだよね。エリアマネジメントも響創も、まだ生まれたてのコンセプトだと思うから、これからどんどん育てていかないとね。研究はもちろんだけど、教育でもね。アクティブラーニングとアクティブリサーチのかけあわせもいいね、これも響創だよね。地域やエリアの課題解決を、教員が研究するし、学生が一緒に授業やプロジェクトとして取り組んでいく。グローバルに活躍する人や組織を増やしていくためには、やっぱりエリアやローカルも大切にしないといけない。姜さん※10なんかいろいろ研究しているし、例えば僕も、墨田区で活躍している知り合いが多くいるんだけれども、中にはサポートや、若者ならではの新しい視点を欲している人もいる。そういう人たちのニーズにも応えていきたいよね。
 
渡部:
 地域やエリアとのコラボレーションは、本当に、学生の教育にとっても鍵になりますよね。これからAIがどんどん進歩してきて、世界はどんどん広がってきて、世界のありかたは大きく変わる。人、組織、社会の組み合わせが広がっていく。エリアや地域の考え方も変わっていく。AIが出てくると、活躍するために必要な能力なんかも変わってくるかもしれませんし、未来に向けて柔軟に考えて行くことは大切かもしれないですね。
 
古川:
 そうそう、そうだよね。コミュニケーションの力とか、優しさとか、誠実とか、そういった側面が注目されるようになるかもしれない。ときどき、いろいろな大学生たちのいろいろなプレゼンテーションを聞いたり評価したりする機会があるんだけど、すごく冷たいなって印象を受けることがあるんだよね。何か課題があって、そのソリューションを提案するんだけど、課題についてはよく考えてるかもしれないけど、ソリューションを受け入れて実行している人たちに目線が向いてないと感じることがある。
 
鷹野:
 提案だけすればいいって、そういう簡単なものじゃないですものね。変化には痛みも伴うでしょうし、これまでやってきたことの思い入れもある。その点、武蔵野の学生は、個人差はあるんでしょうけど、優しい子が多いですから…。
 
古川:
 数学はもしかしたら苦手かもしれないけど、優しい、誠実、みんなのことを考えられる、そういう響創の資質を持っている子を大事に育てていきたいね。数学とかはこれからAIが助けてくれるわけだから。コミュニケーションとか優しさ、それから生み出される響創の精神は、本当に世界を変えるかもしれない。
 
渡部:
 仰る通りですね。では私たちは、「武蔵野の経営学部を出た学生は、響創できる子が多いね」って、そういうブランドをつくっていかなきゃいけないですね。響創できるかどうかって、書類や面接で簡単に見えませんからね。


※9 渡部博志(わたなべひろし、経営学科准教授、キャリア開発部長)。組織設計や組織コミュニケーションを研究している。実務経験があり、キャリア開発部長として全学のキャリア開発支援にもにも携わっている。
※10 姜雪潔(きょうせっけつ、経営学科准教授)。地域やネットワークにおけるビジネスの在り方やマネジメントについて研究している。

キャリアの多様化

5

古川:
 そうなんだよね。特に大企業って、どうしてもたくさん応募があるから、入社試験※11やTOEICなどの資格である程度は選別しないといけない。そうすると、良さを分かって貰える面接までたどりつけないこともあるね。
 
渡部:
 大企業とか有名企業に入れば幸せとは限りませんからね。鷹野先生が先ほど仰った通り、小さくても働きがいのある企業はたくさんある。
 
古川:
 働きがいもそうだけど、世界トップシェアを獲得しているとか、世界に名だたる中小企業だってたくさんありますよ。
 
 
渡部:
 実はですね、僕、リンダ・グラットン※12さんが書いた『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』っていう書籍が印象に残っていて、この本は2025年という近い未来の世界が説明されているんですけど、そこではグローバルとローカルという2つのフレームが重要なんですよ。どれだけグローバル化が進んで、大企業同士の統廃合が進んでいっても、世界は完全に1つにはならない、ローカルの世界は残るんです。ここでいうローカルは、私たちの言うエリアのコンセプトに近いですね。グローバルの世界では、画一的で均質的な制度や商品が支配力を高めるかもしれないけど、ローカルの世界では一人一人の個人に目を向けたような、カスタマイズされたようなものはしっかり残るんだと思うんです。「大企業、グローバル、それらはもちろん価値はあるけど、それだけじゃないんだ」と、そのポテンシャルを我々が体系立てて世に示さなければいけませんね。
 
古川:
 そうだね、今の話を聞くと、やっぱり世の中は変わっていくね。世の中の実態の変化に、人間の考え方がついていってないだけで。だって、毎年毎年、同じ事を繰り返す方が楽だものね。その点は、うちの大学、特に内の学部は、どんどんどんどん変えていくからね。ついていくのも大変だけど、受験生や学生からしたら、武蔵野大学は良い選択肢になると思う。大きな大学、歴史のある大学にはできないことをたくさんチャレンジしているから。今年だって、シラバスの書き方を大きく変えたしね、若い先生が音頭とって。なかなか大きな大学だとできないよね。
 
渡部:
 反対はされないにしても、冷ややかに反応するかもわかりませんね。
 
鷹野:
 1学年数百人を超えるような学部だと、おそらく大規模な改革はムリでしょうね。武蔵野は、経営が220人、会計ガバナンスが90人ですから、良い状態で変化を続けられていますよね。
 
古川:
 90人だと、けっこう密な関係になるよね。
 
鷹野:
 名前と顔は一致してきますね、大学ではなかなかないことですよね。両学科あわせて、300人という規模は、魅力的ですよね。大学全体としてはグローバル化の波にきちんと乗って、語学を伸ばそうと頑張っていますが、経営学部の学生は語学が苦手な学生も少なくないので、そういった子たちのニーズ……マーケティングを勉強したい、起業や開業を勉強したい、会計を勉強したい、税理士や会計士になりたい、そういったニーズにも目を向けることができますからね。もちろん、英語を勉強したければ、留学も推進していますしね。



※11 年の就職活動の傾向として、多くの企業が選考時に論理的思考や言語能力などの基礎学力を測定する試験を課していることが多い。
※12 ロンドン・ビジネススクール教授。組織変革、人的資源管理などの世界的権威。

6

新時代の学び方

渡部:
 私は留学もしたし、国際関係の学内の仕事もしましたけど、単純な語学の価値はゆっくり減っていくと思うんです。語学だけで世の中を歩いてこられた時代は終わる。スマートフォンで翻訳できる時代が近づいている。だから、翻訳のエキスパートになるような場合はともかく、そうでないなら、語学を使って何をできるかが大事になってくると思うんです。ですから、経営学や会計学だったり、教養だったり、そういったことをもっと学生には学ばせてあげたいですね。
 
古川:
 そうそう、そうだね。そのためには、大教室で大勢を相手に教える授業形態も変えていかなければならないよね。教科書とか動画授業とか世の中にどんどん増えているから、それらを活用しながら、教育も変化していかなければだよね。
 
渡部:
 経営学科は、《経営学基礎》という科目の授業を全部、撮影して、動画授業の試みを始めましたよね、昨年度から。あれは、どうなんでしょう?
 
聞き手:
 まだ慣れない学生も多くて、不満の声もありましたので、今年度も動画とか問題集の改善に取り組んでいます。でも、90分の授業をまるまる撮影するのではなく、3~20分くらいで動画を細かく区切ったので、学生もおおむね受け入れてくれたみたいですね。
 
古川:
 これからますます、デジタルネイティブの若い子たちが入ってくるから、慣れないとか抵抗感とかは減っていくだろうから、いち早く始めて試行錯誤してることは今後、強みになるよね。
 
渡部:
 授業部分を動画化して、教室ではより少ない人数でコミュニケーション、インタラクションをとりながら教えたり、学んだりしていく。この響創的学び※13をもっともっと増やしていきたいですね。
 
鷹野:
 会計ガバナンス学科は、経営学科より学生数が少ないので、いくつかの科目で実現できていますが、やっぱりもっと増やしていきたいですね。
 
古川:
 そうですね。15人くらいで学ぶゼミほとどはいわなくても、40人くらいの授業を増やしていきたいですね。
 
聞き手:
 設置年次の関係でまだ開講されていないんですが、40人上限の授業も経営学科は20個ほど用意しています。
 
古川:
 40人か、また授業のやりかたを新しく考えないといけないな。私たち教員も大変だよね。頑張りましょう。


※13 響創的学び=教員・学生・社会が学び合い教え合いながら成長していこうという経営学科の理念。詳しくはこちら(学科紹介:教育理念:響創的学び)。

響創的学び

渡部:
 ところで、経営学科の1年生の科目では、毎回、席替えをするじゃないですか。あの作業って大変だと思うんですけれども…
 
聞き手:
 大変ですね。1年でだいたい50回分の座席表を作ってますからね。
 
渡部:
 でも、その労力に見合いますね。学生同士、よく話すようになりますものね。
 
古川:
 そうそう、僕も赴任してきたばかりの頃は、なんでそんなことわざわざやるんだろうって思ってたのよ。座席指定にすると私語をする学生が減るから、そのためなら1回座席指定すればいいだけなのにって。でも毎回、座席を変えて、学生同士でディスカッションをさせていると、雰囲気が変わるね。
 
聞き手:
 変わりますね。もう今の学生は、グループワークやディスカッションへの抵抗が大きく減ったみたいですね。
 
古川:
 そういう新しいチャレンジ、小さい工夫だけど大切だよね。
 
聞き手:
 授業の一環として、20人くらいのグループを作って、全員で全く同じ作品を大量生産しなさい、というテーマでやらせています。なかなか上手くいかないようですね。授業前は「簡単だろう」みたいに言うんですが、いざやるとぜんぜんできない。そこで、「分業ができてなかったね」「早く終わらせた人が他の人を手伝わないで遊んじゃってたね」と反省の授業をやると、みんな楽しそうに勉強しています。
 
古川:
 そういう体験型の学びも増やしていきたいよねえ。授業で学ぶだけじゃなくてさ、小さな会社や工場にいって、どういう体験してどういう苦労してどういうことを考えながらビジネスしているとか聞いた方が、勉強になるだろうし、教室に戻ってからもきっと一生懸命勉強するよね。
 
聞き手:
 増やしていきたいですね。今後の課題とさせて頂きます。
 
鷹野:
 そういう授業があると、勉強もそうですけど、将来への意識も変わってきますよね。話を少し戻しますが、例えば町内会とかお祭りの会計の仕事って、みんなやりたがらないわけですよ。じゃあどうしているかっていうと、「仕方が無いから、私やります」のような、利他的な人に頼りっきりなんですね。でも、その仕事がないと、町内もうまく運営できないし、御神輿の修理もできない。企業でどう活躍するかも大切ですが、エリアやローカルに貢献できるような人材の輩出も我々のミッションの一つだと考えているので、そのためにはいまどんな人が縁の下の力持ちのように貢献していて、あるいはどんな人がどんなことで困っているか、学生が知ることは大切ですものね。そういう接点は増やしたいですね。
 
古川:
 なるほどね。世界の幸せをカタチにするためには、本当に身近なところだって考えないといけないですよね。東京は世界有数の都市だって言うし、実際に便利なところですけれども、いくらでも課題はあるものね。そういう課題を解決していく人、それは絶対に必要ですよね。人材が足りないところは、世界にまだ山ほどある。


真の生涯学修時代の始まり

渡部:
 その通りなんです。日本の人材は、中央官庁と大企業に集まりすぎていて、そこで能力や熱意を持て余してしまうようなことが多々あるんです。能力や熱意に見合わない仕事しかできずにいる。それは本当にもったいない。そういう人たちが、身近な課題にもっと目を向けて、最初から地域とか中小とかに入っていれば…。
 
鷹野:
 そうしたら、今の日本の課題はもっと減っているかもしれませんね。でも、どうしてもみんな、中央官庁や大企業をまずは目指して…となってしまいますものね。
 
古川:
 まだ今は、そういう価値観があるよね。でも10年経ったら変わるから。絶対に潰れないって言われてたような会社だって、潰れちゃう時代なんだから。大人が現在の価値観や常識を若者に押しつけて、素直な子がそれに従って頑張っても、10年経ったら「あれ、こんなはずじゃなかったのに」ってなりかねない。AIが日進月歩のこれからは本当にそういうことがきっと起きやすい。頑張って勉強しても、AIはそれをあっという間に吸収しちゃうだろうから、AIに追いつかれないようにしなくちゃならない。そのときに大切なのは、学び方だよね。一生勉強し続ける、姿勢や態度。これを教育理念の一つにしている我々は、そんなに悪くない方向を目指してるよね。
 
聞き手:そうですね、そう思います。
 
古川:
 これから長寿命化がどんどん進んでいくと、70歳じゃなくて80歳になっても活躍しなければならない時代が来る。今はもう60歳で定年で、あとはどうやって毎日過ごしていけばいいかわからないなんていう人もいるけれども、60歳で定年になったらもういちど学び直して、もう一度活躍する、そんな時代もくるかもしれない。本当の意味での生涯学修の時代がくるよね。
 
鷹野:
 大学や大学院で学び直した65歳と22歳が、一緒に就活をして一緒に働く、そういう世界ってできたらいいですよね。
 
古川:
 できたらいいですよね。いまの60代なんて人口が多いもんだから、たまたま上手に出世できなくて会社で居場所を失っちゃったけど本当はものすごく優秀、なんてひと少なくないからね。若い人は手伝って貰ったらいいと思う。
 
渡部:
 私も同じことを感じていて、私の同級生にも、同期との競争には負けちゃったから社長にはならなかったけどもの凄く優秀だからしばらく会社には残る、でも後輩が社長になったときに仕事を頼みにくいだろうから退職するんだ、なんていう人がごろごろいるわけですね。やっぱり日本だと、先輩に仕事をお願いするのって難しい。だからそういう人たちがもう一度勉強しなおして、また別の場所で活躍する。そういう風になるのはいいですよね。ただやっぱり、勉強はしないといけないですね。


7

古川:
 そうだね、変化が激しいからね。50年前に、50年後がこんな風になるなんて思いもしなかった。iPad Proとかびっくりするくらい高性能で、10年前だって予想できなかったよ。変化が激しいならなおさら、いま学ぶことだけじゃなくて、学び続けることを考えないとね。
 
渡部:
 私が最初に1995年に前職でコンピュータを導入したとき、インターネット通信用設備まで含めて2000万円かかりました。それほどの大金を投じたのに、静止画像を1つ見るためだけに30秒ぐらい待ったんですよ。でも今じゃ、30秒あったら動画がダウンロードできちゃいますよ。こういう変化の激しい社会にいることを、私たちは意識していきたいですね。
 
鷹野:
 2019年度から経営学研究科を作りまして、いまは会計学専攻だけ設置されていますが、経営学専攻もやがて設置して新しい器になれたらいいですね。若い学生と、人生の先輩方とのコラボレーションの場所。あるいはいろいろなバックグラウンドを持っている方々が出会う、マッチングの場所。そういう風な未来を、私たちは考えていきたいですね。


広がるキャリア、広がる経営学

古川:
 大企業だけじゃなくてね、地域とか社会に貢献している、優良なちっちゃい企業や進路にも目を向けたいね。
 
鷹野:
 全学の方針としては矛盾しているようですが、両立しますよね。大企業で活躍できる子もいれば、人数が少ない方が活躍できる子もいる。両方に目配せしていきたいですね。大人の常識とかなんとなくで選ぶんじゃなくて、しっかり選べるようにサポートしたいですね。
 
古川:
 そうそう、若者にはやっぱり幸せになって欲しいもん。中小企業でもさ、総理大臣賞を貰っちゃったとか、皇族の方が工場に見学にいらっしゃったとか、そういう誇らしい企業だってあるんだし。
 
鷹野:
 例えば病院の経営なんかも、これから変化が生じるところかもしれませんね。現状、十分に優れた制度があって、優れた技術があって、優れた経営をしていて、だから従業員…お医者さんや看護師さんに限らず事務スタッフまで含めて、従業員の待遇も良い。でも、やっぱり変化があるかもしれない。
 
渡部:
 これから高齢化が進んで患者さんがどっと増えると、確かに変化が必要ですね。
 
古川:
 もう既に医療と経営が別れているような医療法人もあるけれども、お医者さんが医療も経営も頑張っているようなところもまだまだありますからね。医療と経営が別れていても、どっちかが変な風に主導権を握ってしまっていたり…経営の観点から見直すことは可能だよね。
 
渡部:
 病院、健康、福祉は、経営学が貢献できる場所になりますね、きっと。資格とらないといけないということはあるけれども…。
 
古川:
 病院経営には、医学、薬学、看護学だけじゃなくて、経営学や会計学だって今後は必要になってくるよね。保護者が病院関係者ですっていう学生も経営学科にも少なくないし、そういう流れを反映しているのかもね。
 
鷹野:
 病院、中小企業などのいわゆるキャリアもそうですし、町内会やお祭りなどコミュニティにも、経営学や会計学は広がるポテンシャルがありますね。


変化する意思

聞き手:
 ではそろそろ、まとめに入ってください。
 
古川:
 身内を褒めるのってちょっと居心地悪いんだけどさ、いま、経営学部には、変化の先端を担うような若い先生が集まってるよね。僕や渡部さんなんかはもう見守る側だけど、鷹野先生もまだまだ若いし、それよりもっと若い先生方が中心となって変えようとしている。時代を意識しながら変化している学部、というのも私たちの売りなのかな。
 
鷹野:
 本当に、変化が過激なくらいですよね。
 
渡部:
 頼もしい先生が多いですよね。しかしそういう話は、私たちではなく、もっと若い人たちの方が良かったかも知れませんね。
 
古川:
 そうだね、若い先生にもやってもらおう、座談会。
 
鷹野:
 高校の生徒さんたちなんか、ベテランの先生より若い先生、なんなら大学生に来て欲しいって、そういう風に感じるみたいですし、若い先生がたを前面に出した方が当然いいと思いますね。
 
聞き手:
 じゃあ若手でも対談します、ありがとうございます、企画が一つできました。…それはともかく、他の若手の先生方とも良く話すのですが、古川先生や渡部先生、鷹野先生のことを「本当に柔軟だよね」って噂してます。どんどんアイデアをくれるし、提案したら「いいね、とりあえずやってみよう。やってだめだったら変えよう」って協力してくれるから、チャレンジできるんですよね。若手だけじゃなくて教員全体が変化を意識してるなあって思います。
 
鷹野:
 みんな、新しいことをやりましょうっていう学部です。
 
古川:
 反対せずに、若い人のやることを我々は見守るつもりです。今後も変わっていく、そういう意思があるんだっていうことでまとめましょう。今後も変化を続けていきましょう。

話者
経営学部長     :古川一郎(ふるかわいちろう)
経営学科長     :渡部訓(わたなべさとし)
会計ガバナンス学科長:鷹野宏行(たかのひろゆき)
 
聞き手
経営学科専任講師     :新津泰昭(にいつやすあき)
会計ガバナンス学科特任講師:榮田悟志(さかえださとし)


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