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2015.12

法学部の受験をお考えの高校生・保護者の皆さまへ

武蔵野大学法学部長「有明日記」その1―ある日の教室風景から

法学部長 池田眞朗

「新世代法学部」を標榜して2014年に誕生した本学の法学部は、順調に2年目の冬を迎えようとしています。幸い、教員・学生の一丸となった努力によって、ここまでは目標通りの急速な発展を達成できていると申し上げられるようです。来年度の3期生を迎えるにあたって、私と学生諸君の日常を織り込んだ文章をお示ししましょう。これによって、わが「新世代法学部」の雰囲気を読みとっていただければ幸いです。

プロローグ

ご紹介するのは、二つの教室風景です。

まず一つは、2015年11月24日の有明キャンパス3-302教室。民法4B(法律学科2年生第4学期、債権総論後半、池田担当)の、最初の講義が終わった直後の大教室の風景です。半分近くの学生はすぐに立ち去らず、教室のあちこちに、10数人ずつくらいの学生諸君の輪ができています。一つの輪では、表彰の盾を持った女子学生を中心ににぎやかな笑い声が広がっています。もう一つの輪でも満足そうな笑顔での反省会でしょうか。リーダー格の男子学生のコメントにうなずく顔が。いや、その後ろでハンカチを目に当ててしまった女子学生も見えます。

二つめは、2015年12月8日の武蔵野キャンパス1101教室。法学2(法律学科1年生後期、金尾先生担当)の授業後の風景です。一人の男子学生が、にこにこしながら一枚の書類を持って教壇にやってきました。先生は、びっくりした顔をして、それから、今にも泣きだしそうに喜びました。たちまち学生の輪ができて、一人の男子学生が、ちょっと悔しそうにしながらも、しっかり祝福の言葉をかけています。

――これらの教室風景はどうしてでき上がったのか。まずは以下の1.2の説明をお読みください。

1 大教室双方向授業

2014年4月に1期生を迎えた法学部で、私は最初に法律学科150名政治学科100名の全員を対象にした「法学1(法学の基礎)」という授業を担当しました(注、二年目からは法律学科と政治学科の法学は別の授業になっています)。最初が肝心、と思った私は、金尾悠香先生の担当科目に共同担当者として加えてもらったのです。そこで私が始めたのが、長年かけて開発した、「大教室双方向授業」です。これは、約250人の受講者のいる大教室で、ハンドマイクを2本持って学生諸君の中に入って行き、彼らに質問をしたり会話を交わしたりしながら授業を進めるやり方です(ちなみに私はこの授業方法について法律学科の先生方を相手に「講習会」を開きました。共同担当の金尾先生はいまや免許皆伝の腕前です)。これをすると、後ろのほうの席で私語をしている学生がいれば私がすぐに飛んで行って質問するので、教室中が静かになって、緊張感のある授業ができますし、何より学生諸君が集中して学ぶことができます。法律学では、伝統的に教授が教壇の上からえらそうに一方的に講義をして学生諸君はそれを聞きながらノートを取る、などという授業が行われてきました。けれどもそれでは退屈です。「新世代法学部」ではそういうことはしないのです。しかも私は質問をしながら一人ひとりの学生の名前を憶えていきます。こういう授業をやっている大学はまだほかにはそうないと思います。さて、それを一年半以上続けるとどうなるのでしょうか?

2 完全4学期制の実施

最近、大学の4学期制ということがマスコミでも取り上げられています。けれども、わが国の大学、ことに法学部では、4学期制を採用したといっても、実際は試験がまだ前期後期の2回であったり、一部の教員が任意に4学期にしているだけというところも多いのです。それはことに法律学のほうの、主要科目の講義の分量が伝統的に通年4単位に適していて4学期に分けることが困難、ということが大きな理由です(この点、政治学のほうは、対応がしやすい科目が多いのです)。しかし本学法学部では、2015年4月からの全学の4学期制採用に伴い、法政両学科ともに(1年生の一部科目を除いて)完全4学期制を実施しました。

そこで私たちは工夫をしました。具体的な対処方針として、①政治学科では、4学期制のメリットを最大限に享受して、6月第2週から始まる第2学期に極力必修科目を入れないようにして、6月から9月までの語学研修などの海外留学やその他の学外研修を可能にすることにしました。②しかし法律学科では、基本法律科目を4分割するのは困難なことから、いわば4学期制を逆手に取って、「民事基本法先行集中学習カリキュラム」と名付けた最先端のカリキュラムを採用し、民法の物権法や債権法をすべて週2コマの集中授業として、民法財産法を2年生のうちに修了することとしたのです(他大学では3年生までかかるのが通例です)。これは、法律の学習が一つの系統樹のようになっているので、その幹のところに当たる民法を先に集中して学ぶことに合理性があり、またメリットがあるということから採用したものです。その結果、2年生の諸君は、一年間の半分は民法を週に4コマ学習します。

さて、それを4月から実施してきた結果はどうなったでしょうか?

これら1、2の答えが、最初に紹介した教室風景になるのです。

3 11月24日有明キャンパス

まず11月の有明キャンパスです。その日は、11月12日に実施した、第3学期の民法4A(債権総論前半)の期末試験について、成績優秀者の発表をしました。本学では、ABCDの評価の上にS(90点以上)という評価があります。私の試験は、毎回60分の試験時間ぎりぎりいっぱいまでかかる多数の問題を出しますので、途中で出ていく学生は一人もいません。今回のメインの問題は、M子さんと恋人のU夫君の会話の形の文章問題で、事業に失敗した父親が、母親と離婚することにして自宅の土地建物をM子さんたちに残そうとするという、かなりレベルの高い問題(離婚といっても家族法の問題ではなく、債権総論の詐害行為取消権という制度の問題です)だったのですが、結局144名中23名がSという好成績でした。

盛り上がったのはある意味4学期制の賜物で、1学期はS、2学期は安心してしまったらD、という一人の女子学生が、3学期に奮起をしてSを取り返したのです。その学生Kさんを、私は盾を作って表彰しました。

それで終了後に、おめでとう、よかったね、その盾見せて、などというグループがあり、優秀者名簿に何人もが載ったグループもあり、その中で、問題を読み違えてSを取り損なった女子学生がくやしくて泣き出したり、という騒ぎになったのです。

この教室風景を見て、私は強い手ごたえを感じました。たかが民法の期末試験一つでこれだけ学生たちが盛り上がる大学は、そうないと思います。

私が彼らに願っているのは、一つでも多くの「成功のドラマ」を体現してもらうこと。この大学のこの法学部に来てよかった、と思って卒業してくれることなのです。11月24日の教室風景は、まずその一歩を感じさせてくれるものでした。

4 12月8日武蔵野キャンパス

12月2日に、宅地建物取引士の試験の合格発表がありました。法律学科1年生のU君が金尾先生に見せに来たのは、その合格証だったのです。宅地建物取引士は、毎年多くの合格者が出るとはいっても、立派な資格試験であり、大学1年生で受かるのは素晴らしいことです。

実は私と金尾先生は、前期にこの宅建の資格のことを教室で話して、1年生の諸君に受験を呼びかけていました。ただU君は、夏頃までその気がなく、それから勉強を始めたのですが、金尾先生にも受験することを黙っていたのだそうです。彼はその理由を、先生にサプライズがしたかったから、と答えています。それを聞いて私は、やはりうれしい手ごたえを感じました。

大学の1年生です。相手は4月からまだ半年と少し、大教室で週1回会うようになっただけの教員です。マスプロの大学ならまず顔も覚えてもらっていません。そしてそんな関係なら、「先生にサプライズで報告がしたかった」などとは決して思わないでしょう。さらに、彼にいさぎよくおめでとうと声をかけたのは、私も金尾先生も前期から期待をかけていたN君。私もすでに半年でかなりの1年生の顔と名前を一致させて覚えているのです。これが武蔵野大学法学部法律学科の教室風景なのです。

エピローグ

ちなみに宅地建物取引士については、法律学科2年生からも複数の合格者を出しました。ただこれは私に言わせると、先に述べた「民事基本法先行集中カリキュラム」の成果を考えれば当然のことなので、来年は新3年生と新2年生で大量の合格者を出したいと思っています。というのも、宅地建物取引士は、不動産業に必要な資格であると同時に、司法試験などを目指す人には、自分の実力を測る物差しにもなり、また不動産関係以外の分野の一般企業就職を目指す人たちにとっては、就活で民法などの学習をしっかりやってきたという証拠として示せるものになるからです。

そのうえ、私にはうれしいエピローグがありました。2年生で今回の宅建試験に合格したT君とWさんは、先の11月24日有明キャンパス302教室で私が民法4Aの成績優秀者を発表した、そのリストの一番上に、98点のトップタイで名前があった二人なのです。偶然とはいえ、大学の期末試験の成績と、資格試験の結果が見事に完全にシンクロしたわけです。

私の持論は、「資格は予備校で取るものではない。まず大学の授業の成果で取るものだ」ということです。大学の期末試験でよい点数を取れば、資格試験の合格も当然についてくる。それを証明してくれたT君とWさんには大感謝です。

以上、1期生と2期生の「サクセスストーリー」の第1章を紹介しました。続きは、3期生となる皆さんも加わって、一層素敵に綴ってほしいと願っています。

池田眞朗教授1

池田 眞朗 Masao Ikeda
【プロフィール】
1949年生まれ。博士(法学)(慶應義塾大学)。2020年3月まで、本学副学長・法学部長。現在本学大学院法学研究科長。専門は民法債権法、金融法。現在日仏法学会理事、ABL協会理事長。慶應義塾大学名誉教授。

フランス国立東洋言語文明研究所(旧パリ大学東洋語学校)招聘教授、司法試験(旧・新)考査委員(新司法試験民法主査)、国連国際商取引法委員会国際契約実務作業部会日本代表、日本学術会議法学委員長、金融法学会副理事長等を歴任。

動産債権譲渡特例法、電子記録債権法の立案・立法に関与。主著の『債権譲渡の研究』(全4巻)で全国銀行学術研究振興財団賞、福澤賞を受賞。2012年民法学研究功績により紫綬褒章受章。
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