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法学研究科長インタビュー

2021.09.21

武蔵野大学法学研究科長『有明日記』その7

アフターコロナの法学教育―武蔵野・法のさらなる進化

法学研究科長(前法学部長・前副学長) 池田眞朗

大教室双方向授業

上の写真は、2015年の武蔵野大学法学部法律学科の民法の授業風景です。全国の法学部でも類例のなかった「大教室双方向授業」を実践しているところです。そして私たちは、2020年度からのコロナ禍におけるZOOMオンライン授業でも、この「大教室双方向授業」の実現に努力してきました。画面には名前しか表示されていなくても、その向こうにいる学生諸君一人一人との対話を試みてきたのです。幸い、授業評価アンケートでは、そのやり方に大きな支持がありました。そして今、武蔵野大学法学部法律学科と大学院法学研究科は、「アフターコロナの新しい法学教育」の模索を始めています。
(法学研究科長『有明日記』は、法律学科と法学研究科の双方のページに掲載します。)
お待たせしました、有明日記の更新です。「新世代法学部」を標榜して2014年に誕生した本学の法学部は、完成年度入学の4期生が2021年3月に卒業し、史上最高の成果を残してくれました。さらに1期生の卒業生たちの華々しい成果もありました。2021年9月現在で、すでに1年半にわたって新型コロナ禍による遠隔授業が続きましたが、その中で、法学部法律学科と大学院法学研究科(ビジネス法務専攻)は、着実に「新しい法学教育」を模索し、その実証実験をしてきました。2022年度入試に向けて、受験生や保護者の皆さんに、また一歩先を目指している法律学科と法学研究科の最新情報をお伝えします。是非これまでの有明日記と合わせてお読み下さい。

「時代のトレンドを学ぶ」大学院までの一貫教育へ

大学院法学研究科は2018年4月に、法曹養成でも研究者養成でもない、ビジネス法務専攻として設置されました。そして、今年2021年4月からは、博士後期課程も設置しました。
ここでの新しい試みは、文部科学省の新事業に申請して、実務家教員を養成することも目的としたことです(社会情報大学院大学を主幹校とする「実務家教員COEプロジェクト」に連携校として参加)。さらに、学部生との関係で言えば、さまざまなゲストをお迎えして、大学院と法学部法律学科の特別共同授業を企画するようにしたのです。
これには大きな理由があります。本学の大学院法学研究科ビジネス法務専攻は、最先端のビジネス法務を学び、かつそれを教える人を養成するのですが、わが国の従来の法学研究科が、細かい解釈論に偏った理論研究をしていたのに対して、本学では、時代のトレンドを見据えた、ビジネス法務のイノベィティブな研究を中心に置いています。そしてそれは、まさに世の中の実務の動きに即して展開されていくものであり、法学部法律学科での、学理に偏することのない「マジョリティのための法学教育」の発想の延長線上にあるものなのです。したがって、その大学院教育の導入部分を学部生に聴かせることは、大きな意味のあることなのです(実際、法学部から企業に入った新入社員に最も求められるのは「初級法務」だとよく言われます)。
2021年度前期には、SDGsやESGに関する、法学研究科と法律学科の合同特別授業を2回にわたって実施しました(法学研究科は、その実績にもとづいて、SDGs実行宣言を6月に発出しました)

4年生で大学院の授業が奨学金で聴ける「科目等履修生」

ただそうは言っても、大学院進学までは、と考える諸君は多いと思います。そのために、昨年2020年度から、4年生が、しかも(人数に限りがありますが)2科目程度の法学研究科の授業を奨学金で聴けるという、「科目等履修生」+「ABC奨学金」の制度を始めました。ABCはAriake Business Challengersの略です。なお科目等履修生の制度自体は、広く外部の人々に公開されているもので、現在は他大学の院生や社会人の方々がリカレントやスキルアップの目的で学んでいます。
2021年度は、3名の法律学科4年生が、合計6科目の大学院の科目をこの制度で学んでいます(もちろん成績証明書に成績が付きますし、本学の法学研究科に進学した場合は履修済み科目としてカウントされます)。今後さらにこの制度を利用して新しい知識や経験を身に付けて社会に出て行く法律学科生が増えることが期待されます。

法律学科1期生の大活躍(司法試験、司法書士試験、公認会計士試験に合格、次は不動産鑑定士)と4期生の成果

さて、前回の有明日記6では、2018年(平成30年)3月に卒業した法律学科1期生で、法科大学院に進学した諸君が、初めての司法試験に臨み、3名中2名がストレートで合格したことをお伝えしました。そして、司法試験と並ぶ難関試験である司法書士試験にも、合格者が出たことをお伝えしました。法律学科1期生は、すでに平成31年の公認会計士試験で合格者を出しており(合格者は法律学科に在籍しながら本学の育成プログラム会計士コースで研鑽)、これで難関資格試験の3冠を達成したことになります。ただ、法律の関係する難関士業資格としてはもう一つ、不動産鑑定士試験がありますので、今度はその合格者を出して4冠を達成したいと思っています(法律学科には、東京都不動産鑑定士協会の寄付講座として「不動産評価論」を置いています。これは鑑定士試験の基本科目でもあります)。
そして2020年度は、法学部法律学科完成年度(開設4年目)に入ってきた、我々が「パイロット・エイジ」と呼んで指導してきた諸君が4年生になり、進路の成果が問われる年でした。その彼らが、有明日記6に書きましたように、法科大学院入試で、史上最高の合格者数をたたき出してくれました。2020年度法律学科の法科大学院入試合格者は、一橋1、東北2、慶應義塾4、早稲田6中央8、千葉1、都立大1、明治1、法政1、学習院1(延べ26名)となりました。初の一橋合格者を含めて国公立5名、私立上位3校(慶應・早稲田・中央)計18名、総計26名(すべて延べ人数)のいずれも史上最高となりました。なお実数で9名が法科大学院に進学し、これも史上最多となりました。
さらに宅地建物取引士試験ではコンスタントにここ数年20名程度の合格者を出しています。

あの人は今―2018年度宅建合格2年生のその後は?

さて、下の写真をごらんください。2018年度の宅地建物取引士試験に2年生で合格した8名の諸君(つまり上記の2021年3月卒業の「パイロットエイジ」の諸君です)の、民法の教室における表彰式の風景です。この人たちの中から、3名の上記法科大学院進学者が出ました(慶應1名、早稲田1名、中央1名)。またその他の諸君も、不動産関係等に希望通りの進路を得ています。ことに、この学年の就職組は、全国で多くの学生諸君が新型コロナウィルスの蔓延によって不自由な就職活動を強いられたのですが、写真の中の、大手不動産販売会社に就職したM君の場合は、3年生を終える段階、つまり2020年の春休みに入ったところで内定が出たので、コロナ蔓延の前に就職活動が終えられたということです。やはり、資格は人生設計に役立つのですね。

2018在建士合格表彰式

「法律を学んで人生を変える!」―コロナをどう克服するか

もちろん、わが法律学科では、さまざまな資格試験を突破させることが教育の第一の目的ではありません。開設以来、「マジョリティのための法学教育」を標榜して、いたずらに学説などを覚えさせるのではなく、このルールは誰の何のためにあるのか、こういうルールがないと人はどう困ってどう行動してしまうのか、を学ばせる、「ルール創り教育」に力を入れてきました。そして、各自の目的に沿って、法律の学びを生かして進路を切り拓いて行くことを教えてきたのです。法律学科のモットーは、「法律を楽しく学んで人生を変える」です。資格試験も、その進路を選ぶために活用すればよいのです。
それで、問題はここからです。せっかくしっかりと上昇気流に乗せて、7期生を2020年4月に迎えたところで、新型コロナの蔓延で、昨年一年間、そして今年2021年度前期は、ほとんどがZOOMなどによる遠隔授業になりました。昨年、7期生として法律学科に入った一年生諸君には,友人との交流など、期待していた大学生活が送れず、さぞつらいこともあったかと思います。そして8期生(第二次パイロットエイジです)が入学し、現在に至っています。
ではどうやって彼らの教育を充実させることができるか。私は、逆にこの遠隔授業だからこそできることをして、対面授業では得られない付加価値をつけるべきと考えました。その一つが、前期の大学院法学研究科と法律学科の合同授業なのです。ZOOM授業の場合には、対面と違って教室の規模による収容人数の制限がほぼなくなり、複数学年の同時視聴が可能になるのです。オンデマンドで好きな時に視聴できるやり方は、繰り返して何度も学べるという利点はありますが、同時性、共時性という点では、ZOOM授業に劣ります。ゼミなどは対面に戻しやすいのですが、大教室の遠隔授業でも、各教員が状況に応じて最適な教育効果の上がる授業方法を模索・選択すべきでしょう。また、本学でも実施しているワクチン接種がいきわたれば、冒頭の写真のような大教室対面授業も復活できる日がくると思いますが、私は、教室人数を減らし、対面と遠隔のハイフレックスで授業を行う準備もしています。

先輩が後輩を教える場面を作る

もうひとつ、武蔵野の各学部・学科では、1年生の補習授業というものが実施されています。しかし、その中で、「先輩が後輩を教える」形を模索して実現しているのは、おそらく法律学科だけのようです。つまり、1年生の法律必修科目について、理解を深め、留年者を減らす等の目的で前期の終わりと後期の初めに実施されている補習授業なのですが、昨年から法律では、(法科大学院修了者など)その年の司法試験を受け終わった法律学科卒業生にこの補習授業の講師を依頼しているのです。こうして、先輩に教わって力をつけたから、今度は自分が後輩に、というシステムを確立させたいのです。というのも、法律学は何より人と人のコミュニケーションの学問だからなのです。
同様の趣旨で、2021年度後期の法学研究科の法律学科への特別公開授業は、まず2021年9月25日に『起業ビジネス法務総合』で、卒業生で起業家の野村泰暉君にお願いしました。かつて有明日記では、「さらに、わが法律学科は、法曹や公務員など、既存の社会の仕組みを支えていく人たちを輩出するだけではありません。独自の感性で想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティビティ)を磨いて、新しい仕事を開発していく、起業家志向の学生も育てたいのです」と書きましたが、それを実現してくれた第1号が野村君なのです。
勿論、こういう連環を続けて行くためには、毎年、講師になれる適格者を輩出しなければいけません。一定数の法科大学院進学者や起業志望者を育成し続けなければならないのです。ただそれが教員の努力目標になるのであれば、これも結構なことと考えるわけです。

新しい法学部・法学研究科の教育とは―「規範的判断力」の涵養

現代は、「情報社会」を通り越した「知識社会」と言われています(Society5.0「超スマート社会」の考え方を調べてみてください)。そうすると、法学部教育も、二つの面で変わらなければいけないと考えられます。一つは、「文理融合」という言葉に示されるように、法律学が、文系の、しかも法律解釈という狭い領域を教えるだけのものでは足りないということです(したがって、前掲の野村君の講演タイトルは、「理系×法律学科で学んだ私の目標、スタートアップを軸に社会課題を解決する」なのです)。世の中の動きを理解する広い知識をもって、人々が幸福になれるルールを作る力をつける、そういう教育が今こそ必要なのです。第二点は、経団連と大学人で作った上記Society5.0の研究会が示した、「規範的判断力」の強化を、法学部と大学院法学研究科が担うということなのです。その研究会は、これからは大学院教育が必須であるとし、かつ文系の教育の質保証を求めて、望ましい社会のありかた、社会における公正、などを考えられる「規範的判断力」が重要だと指摘しました。これこそが武蔵野の法律学科と大学院法学研究科の目指すものなのです。

ピンチをチャンスに変える、立ち位置を変える

以上のように、我々の目指している方向は、現代の世の中が必要とし、望んでいる方向と合致しています。そして、私がいつも申し上げるように、武蔵野大学法学部法律学科は、人生を変えられるところ、ピンチをチャンスに変えられるところ、そして高校時代の君の立ち位置をいっぺんに変えられるところです。ただしそれも君の意欲次第です。ただ待っていてもチャンスはつかめません。今、チャンスをつかみに行動したい君、「楽しく学んで人生を変える」をモットーとする武蔵野・法に是非来てください。
①法学部法律学科WEBオープンキャンパス模擬授業、卒業生在校生インタビュー Part.1(模擬授業)
https://www.musashino-u.tv/others-ch/1548/

②2法学部法律学科WEBオープンキャンパス模擬授業、卒業生在校生インタビュー Part.2(インタビュー)
https://www.musashino-u.tv/others-ch/1554/

③法律学科池田ゼミZOOM夏合宿紹介
https://www.musashino-u.tv/academic-ch/1449/

関連リンク

【法学部・法学研究科NEWS】
2021.06.29 法学研究科は2021年6月に法学研究科SDGs実行宣言を行いました
https://sdgs.musashino-u.ac.jp/news/grad_law_sdgs/

2021.06.19 ダイハツ工業による法律学科・法学研究科ESG関係合同特別授業を行いました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20210619-01.html

2021.01.21 法律学科の1期生2名が司法試験に合格しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20210121-01.html

2020.12.28 法科大学院合格者数最終発表  国立・私立とも史上最高を更新しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20201228-03.html

2021.02.03 法律学科1期生が司法書士試験に合格しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20210203-01.html

【法学部・法学研究科EVENTS】
2021.03.02 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第3回「高齢者とビジネスと法」Onlineフォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210302-00000591.html

2021.02.16 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第2回 担保法制Onlineフォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210216-00000584.html
 
2021.02.02 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第1回Online電子契約フォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210202-00000570.html
 
 

池田眞朗教授1

池田 眞朗 Masao Ikeda
【プロフィール】
1949年生まれ。博士(法学)(慶應義塾大学)。2020年3月まで、本学副学長・法学部長。現在本学大学院法学研究科長。専門は民法債権法、金融法。現在日仏法学会理事、ABL協会理事長。慶應義塾大学名誉教授。

フランス国立東洋言語文明研究所(旧パリ大学東洋語学校)招聘教授、司法試験(旧・新)考査委員(新司法試験民法主査)、国連国際商取引法委員会国際契約実務作業部会日本代表、日本学術会議法学委員長、金融法学会副理事長等を歴任。

動産債権譲渡特例法、電子記録債権法の立案・立法に関与。主著の『債権譲渡の研究』(全4巻)で全国銀行学術研究振興財団賞、福澤賞を受賞。2012年民法学研究功績により紫綬褒章受章。

【最近の著作・論考】

【著書】
『ボワソナードとその民法〔増補完結版〕』(慶應義塾大学出版会、2021年)
『スタートライン債権法〔第7版〕』(日本評論社、2020年3月、本学2年生民法3Aから4Bの指定教科書)
『プレステップ法学〔第4版〕』(編著、弘文堂、2020年3月、本学1年生法学1の指定教科書)
『民法Visual Materials〔第3版〕』(編著、有斐閣、2021年3月、本学2年生民法3Aから4Bの指定参考書)
『民法はおもしろい』(2012年、講談社現代新書、本学法律学科入学前教育の推薦書)
『新標準講義民法債権各論〔第2版〕』(慶應義塾大学出版会、2019年)
『新標準講義民法債権総論〔全訂3版〕』(慶應義塾大学出版会、2019年)
『民法への招待〔第6版〕』(税務経理協会、2020年)
『民法的精義』(朱大明=金安妮他訳による上記『民法への招待』の中国語版)(清華大学出版社、2020年)

【論文等】
「新世代法学部教育の実践―今、日本の教育に求められているもの①~⑥」 書斎の窓(有斐閣) 643号~648号(2016年1月~2016年11月)
「民法改正案債権譲渡部分逐条解説―検討と問題点」慶應法学(慶應義塾大学法科大学院)36号(2016年12月)
「日本法学教育史再考―新世代法学部教育の探求のために」武蔵野法学 (武蔵野大学法学部)5・6号(2017年2月)
「民法改正法の解説と施行までの留意点」税経通信(税務経理協会)72巻13号(2017年11月)
「日本の金融法制の現状と展望―金融イノベーションと規制の観点から」(中国清華大学国際シンポジウム講演記録)SFJジャーナル(流動化・証券化協議会)16号(2018年2月)
「日本民法典の発展過程――ボワソナード旧民法典から二〇二〇年施行の債権関係大改正まで」二宮正人先生古稀記念『日本とブラジルからみた比較法』信山社 2019年7月
「民法(債権法)の全体像とその改正の概要」税経通信 2019年12月号
「行動立法学序説―民法改正を検証する新時代の民法学の提唱」法学研究(慶應義塾大学)93巻7号(2020年9月)
※2017年度の国立小樽商科大学の入学試験では、池田先生の著書『民法はおもしろい』(2012年、講談社現代新書)が現代国語の問題に使用されました。

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