
御手洗スタジオ 課題 2
「目の見えない5人のための集合住宅」
1. 原佳央理
アリスは目が見えなかった。病を抱えていたアリスは、小さな頃いつもキラキラした目で世界を見ていた。しかし徐々
にその視界が狭まり、学校で学び始めて5年ほど経った頃にはコインの大きさまでしか見えなくなり、18 歳を迎え
た時、その視界は完全に閉じてしまった。それでもアリスは毎日がとても楽しかった。アリスは目が見えなかったが、
太陽の明るさや暖かさを感じ取ることができたし、遠くから聴こえてくる小鳥のさえずりや、木陰を抜けて肌を撫で
ていく涼やかな風、お姉さんが作ってくれる焼きたてのアップルパイの香ばしさを日々感じられることがとても嬉し
かった。こうしてアリスは全身、五感を使って自分の身体と世界との距離に一つ一つ驚きながら、生の喜びを感じて
いるようであった。そんなある日、3つ上の姉がアリスに言った。「とても素敵な場所を見つけたの。私たちの暮らす
家を作りましょう!」町の喧騒を抜けた先に大きな公園があり、その公園に面した住宅街の中にその土地はぽつりと
残されていた。それはとても不思議な場所。巨大な木が覆いかぶさるように立ち、大きな木陰を作っていた。姉に連
れられ、初めてその土地を訪れたアリスは、今まで触れてきたどの世界よりも多くの何かを感じ取っていた。想像を
膨らませ、アリスはとてもワクワクした。姉と暮らす家には友達も沢山訪ねてくるだろう。庭を鳥やリスなどが集ま
る場所にもしたい。ここで大好きな楽器を奏でたり、夕陽を感じながら彼と一緒にアールグレイを飲んだりするのも
素敵かもしれない。二人はこの土地をとても気に入った。そして二人だけで暮らすには勿体ないと感じ、アリスのよ
うに目の見えない人たちが、共に豊かに暮らす集合住宅にしようということとなった。こうしてここに、目の不自由
な 5 人が暮らす家ができた。住人は一人で入居する場合もあればアリスと姉のように、身体に不自由のない家族やパ
ートナーと共に入居する場合もある。目の見えないアリスや住人にとって世界に一つしかない最高の家であることは
勿論のこと、それは同時に身体に不自由のない住人にとっても心地よく、豊かな場所となった。
2. 小林由芽
2. 小松香穂
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