学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第18回 社会学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第18回 社会学
アントレプレナーシップ学部 アントレプレナーシップ学科 高松 宏弥 講師
外国人との地域共創が幸せな社会をつくる
今後の展望
社会を生きる人びとを元気にする研究を
西川口では、中国人の起業家をきっかけに衰退していた地域に活力がよみがえりました。外国人を「地域を一緒に盛り上げる主体」「地域社会の担い手」と捉えることは、「よそ者」として排除することよりずっと社会全体にとってプラスに働くのではないか。そうした視点は、研究を通じて今後も広く発信していきたいと思っています。一方で、日本で暮らす外国人の生活や教育には多くの課題があり、その現実を変えていくことも必要です。改善すべき問題だけを論じるのではなく、外国人の存在が社会にどうプラスに働くかという議論も同時に行っていくことこそが、社会を変える力になると私は考えています。

研究者としての私の出発点には「社会を良くしたい」というモチベーションがあります。起業家にインタビューをする中で感じるのは、彼らがみな「社会の価値を創造すること」を目的として活動しているということです。社会を良くする、世界を幸せにする研究という点では、外国人の研究と起業家研究には相通じるものがあるのかもしれません。社会でみんなが幸せになるためには、限られたパイを奪い合うのではなく、社会の幸せのパイそのものを大きくしていくことが大切です。社会が直面する困難から目を背けず、また、将来を悲観することなく、より多くの人が幸せになり、世界の平和に寄与するような研究をしていきたいと思っています。
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教育
社会学が「モヤモヤ」を言葉にする手助けに
アントレプレナーシップ学部(EMC)は2021年度に誕生した新しい学部であり、教員のほとんどが実務家というユニークな学部です。私がこれまでいた研究環境では、研究者はどちらかというと「引き」の目線で、観測者の立場から研究対象を観ることが常でした。ところが、EMCの先生方は実社会と密接に繋がり、当事者としてアクションを起こします。だからこそ学生が「ことを成そう」とする時、すぐにサポートすることができる。そうした社会との繋がりの強さがこの学部の最大の魅力だと思います。起業には私も以前から興味があったのですが、EMCに着任してからは同僚の先生方によく「逆にどうして起業してないの?」と言われています(笑)。いずれは私も起業し、研究者としての知見やアイデアを活かして社会をより良くする事業に取り組むことも考えています。
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EMCの学生は、社会に対して「何かを変えたい」というモヤモヤした思いを持っている学生がとても多く、みんなとてもアグレッシブですね。ただ、その思いを形にするには、「モヤモヤを言葉にする」という作業が必要になります。その手助けになるのが、私の専門である社会学の学びです。

社会学は「自分が生きやすくなるための学問」とも言われ、学びを通じて、自分が抱えている悩みや疑問がほかの人にも共通するものだと知ることができます。さらに、自分が置かれている社会状況がなぜ生じたのか、その原因を学ぶこともできます。EMCの学生が社会学を学ぶことは、自分の“モヤモヤ”の学問的裏付けを理解し、論理的に説明できるようにする力を養うことに繋がります。起業家を目指す学生のモヤモヤは、いわば新しいビジネスの種。社会学は、その種の発芽を助ける栄養素になり、学生の未来に役立つものになると思っています。
人となり
故郷で感じた「生きづらさ」が研究の原点
社会学や地域研究に関心を持ったきっかけは、自分自身の生い立ちにあります。私が生まれ育った北海道函館市は、観光地として人気の街ですが、急激な人口減少や地域経済の衰退、離婚率の高さなど、さまざまな社会課題を抱えている街でもあります。そうした状況を目の当たりにし、地域の課題の根底にある要因が知りたいと考えたのが、最初のきっかけでした。また、片親の家庭で育ったということも社会学への興味に繋がっているように思います。経済的にあまり裕福ではなかったこともあり、幼いころから度々友達の家庭とのギャップを感じることがありました。EMCの学生と同じように、私自身も何かしら社会へのモヤモヤや生きづらさを感じていた、ということですね。その生きづらさを自分の力で解消したい、それも、同じようなモヤモヤを抱える人たちも生きやすくなるような解消法を考えることができたらとても幸せだなと考え、社会学の研究者の道に進みました。
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少年時代から20年来のスワローズファン
昔から、母の影響でさまざまなジャンルの音楽に触れてきました。ロック、ジャズ、レゲエ、何でも聞きましたね。その中でも、高校時代から今まで続けているのが合唱です。中学の音楽の先生に勧められて始めたのですが、人間の声を重ねあわせてハーモニーを作り出す瞬間がめちゃくちゃ気持ちよくて、すっかりクセになってしまいました。今はコロナ禍で制限が多いのですが、所属する合唱団では、オンラインで練習したり、チャットツールを使って練習状況を共有したりしながら、工夫して活動を続けています。

もう一つハマっているのが、プロ野球の東京ヤクルトスワローズ。2001年に日本一になったのを機にファンになり、20年間応援しています。シーズン中は毎晩試合中継を観ながら、食事をし仕事をするくらいスワローズ愛は強いです(笑)。最近特に応援しているのが清水昇投手。気合いが前面に出るタイプの選手が好きなんです。昨年は、2001年当時守護神だった高津臣吾監督がチームを率いて20年ぶりの日本一になり、とても幸せな1年でした!
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―読者へのメッセージ―
今、世界では、外国人労働者を「自分たちの仕事が奪われる」とネガティブに捉える人は少なくありません。しかし見方を変え、「たくさんの文化に触れることができる」「一緒に地域を盛り上げる仲間が増える」と考えることができれば、もっと多くの人々が幸せになれるはずです。研究を通じて現代社会の構造や現状を理解し、その上でベターな解を導き出して、みなさんと共有していきたいと思っています。

また、アントレプレナーシップ学部は、外から関わることでもさまざまな経験や知見が得られる場です。学部の理念に共感してくださる方、社会をより良くしていきたいと考えている方は、ぜひ私たちの学部の仲間になっていただきたいですね。
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取材日:2021年12月