学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第26回 国際経済学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第26回 国際経済学グローバル学部 グローバルビジネス学科 渡邉 賢一郎 教授
国際金融の最前線で得た知見を次世代に伝える
今後の展望
金融危機に対するアジアの抵抗力を高めるために
今や多くの日本企業がアジア諸国を生産拠点やマーケットとしてビジネスを展開しています。今の日本経済は、近年のアジア経済のダイナミックな成長にけん引されているといっても過言ではありません。また、グローバル・サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から販売までの一連の流れ)の深化により、アジアのどこかの国で障害が生じれば、それは直ちに日本にも波及します。したがって、わが国の重要なパートナーであるアジア各国が金融危機に対する抵抗力を高め、安定的に発展することは日本経済の持続的な成長にとっての生命線でもあります。
これまでの経歴と研究成果を活かし、現在は国際協力機構(以下、JICA)の外部専門家として、ベトナムやミャンマーなどアジアの発展途上国での金融制度や決済システムの近代化に必要な日本の技術や経験を伝える知的支援にも取り組んでいます。現地を訪問するたびに高度成長期の真只中にあるアジア各国のエネルギーを感じ、国づくりやビジネスに取り組む人々の熱意から良い刺激をもらっています。

コロナ禍で渡航できなくなったことや、ミャンマーでの軍事クーデター発生など、不測の事態もありましたが、日本がアジアの国々と協力して様々な課題に取り組んでいくことは重要であり、自分の行動や研究がそうしたプロセスに少しでも貢献できればと考えています。
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▲JICAの専門家として訪れたミャンマー中央銀行

教育
世界の出来事がどのように自分と関係しているか?
私は武蔵野大学でアジアを始め世界中から集まった留学生を相手に授業をしています。授業では世界の様々な場所で起こっている出来事が、自分たちの生活にどのように関係するのかを具体的に理解してもらえることを常に意識しながら話しています。ビジネスや金融の現場を知らない学生にとって、その関係性を理解することが国際的な金融・経済・ビジネス問題に幅広く関心を持つ入口になるからです。
JICAの仕事でアジア各国の人々と接すると、日本への留学経験者がたくさんいました。彼らは口をそろえて「日本で多くのことを学び、素晴らしい経験をした」と話してくれ、とても協力的でした。こうした日本サポーターがアジア各国の重要なポジションにいることは日本とアジアの良好な関係を支える礎です。留学生たちには大学での学びを母国や世界の舞台で役立ててほしいと願いながら、日々の授業に臨んでいます。同時に自分自身の研究や実務活動を進める上で、留学生たちから良い刺激をもらっています。
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▲ゼミ生と東京証券取引所で学外授業

人となり
アウトドア派からインドア派への転身
若い頃は休日にスキーやゴルフなど、スポーツを楽しむことが多かったです。また、世界各国で仕事をしていたということもあり、プライベートの旅行や仕事の合間などでアドベンチャーな体験を楽しみました。たとえばアマゾン川でのピラニア釣り、タンザニアのセレンゲッティ草原での野生動物観察(ジープのタイヤがパンクして猛獣が闊歩する草原の真ん中で立往生したことも)、ナイル川源流行など。そうした旅ではあまり観光客が来ない地元のレストランを食べ歩きするのも楽しみの一つでした。
最近は体力の衰えもあって、読書や映画、観劇などすっかりインドア派に転身。昔からミステリー小説が好きで、アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、ヴァン・ダインなど海外著名推理作家の作品はほとんど読破しました。彼らの作品は作家と読者の知恵比べでもあり、作家が周到に張り巡らした伏線を読み解いた時の満足感は格別です。近年は綾辻行人など日本の新本格派と言われる作家の作品を愛好しています。実は自分でもミステリーのトリックやプロットを考えていまして、いつの日にか自作のミステリー作品を出版するのが夢です。
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―読者へのメッセージ―
学生の皆さんは大学卒業後の長い職業生活の中で多くの人々や仕事との出会いがあると思います。そうした出会いを何となくやりすごしてしまうのではなく、出会いをひとつのチャンスととらえて自分自身のキャリアの可能性を広げていくことが大切です。私もエコノミストとして、研究者として数多くの人々と出会ってきました。その出会いがなければ現在の私はなかったとつくづく思います。

出会いを活かすためには、ふだんから自身の関心領域を広げ、アンテナを高く張り巡らすように心がけることが大切です。留学生とも積極的に交流してください。若い皆さんの可能性は未来に向けて、そして世界に向けて大きく広がっていくと思います。
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取材日:2022年8月