学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第1回 古文書学
本学の教員は、教育者であると同時に、各分野の第一線で活躍する研究者でもあります。全10回の本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究とその分野の魅力を紹介していきます。
第1回 古文書学文学部 漆原徹 教授
科学的アプローチで、古文書学の再構築に取り組む
研究者としてのあゆみ
きっかけは『平家物語』
歴史に強い関心を抱くこととなった原点を振り返ると、小学校低学年の頃、児童向けの『平家物語』を手にしたことが大きなきっかけだったように思います。源平の戦いの描写に胸を躍らせ、武士の活躍に大いに興味を抱きました。その後、『平家物語』に対し、源氏側の視点で同時代を描いた作品だと勘違いし、『源氏物語』を購入してがっかりしたのをよく覚えています(笑)。
その後、中学受験を迎える頃には、中央公論の『日本の歴史』がすっかり座右の書になっていました。そこで読み込んだ内容に比べ、学校の授業や入試問題で求められる歴史知識がいかに表層的なものかというのを実感しました。その年頃で「教科書に載っていることはほんの一部に過ぎない」と理解できたことは、研究者の道を歩むのに大きく影響したと思います。
漆原徹 教授
調査対象との信頼関係の大切さを学んだ
学部・大学院時代
その後、大学で史学の道に進みましたが、当時は、大学が所蔵する貴重な古文書を、学部生でも気軽に手にとることのできる時代でした。また、当時の高名な先生にマンツーマンで指導していただく機会を得るなど、大変恵まれた学部・大学院時代を過ごしてきたと思います。
また、今では考えられませんが、個人が所蔵されている貴重な古文書を拝見できる機会があるとなると、すぐにどこでも行きました。教授に昼頃研究室に呼ばれて、「文書の調査があるから明日の正午に鹿児島に車で来なさい」と(笑)。そうすると、研究仲間と一緒に夜通し車を走らせて、現地に向かうわけです。
大抵の場合、訪問した旧家の方の第一声は、「まあ、一杯!」。こちらは疲労困憊で、お酒をご一緒する気分ではないのですが、でもそこを断ってしまったら、ご協力をいただけなくなってしまう。
でも、頑張ってそこできちんとお付き合いすると、当初予定していた以上の古文書を出してくださったりするのです。研究対象や協力者との信頼関係の大切さを、身を以て学びました。
漆原徹 教授

若手研究者時代に収集した資料

教科書に影響するような発見も
昨今、これまでの研究によって、歴史教科書の記述が変わったというような話題がテレビでも取り上げられ、私も歴史愛好家の方によく質問を受けます。
その場で発見に関わったものはいくつかありますが、代表的なところで、源頼朝の花押だと思われていたものが、後世の写しだと判明した瞬間に立ち会ったことがあります。
御家人に発給した下文で、高校の教科書などにも取り上げられる有名な古文書だったものを、若手研究者時代に他の先生方と直接目にする機会がありました。すると、本来は右筆が本文を起草し、将軍は花押を添えるわけですから、本文と花押とでは異なる墨が使われるはずなのですが、それが同じ墨で書かれていたのです。他の先生方も、「これはおかしい」ということになり、最終的に、一人の人間が書き上げた写しであるという結論になりました。
その後、その場での議論が定説として浸透していき、次第に教科書にも使われなくなっていきました。
今後の展望
古文書学を学ぶ人の必携書となる
一冊を書き上げたい
当面の目標としては、現在の研究をさらに進め、古文書ごとの紙の産地を特定し、さらにはその流通過程まで明らかにしていきたいと思っています。
また、当時の文献・記録などで示されている紙の名称が、現在残っている古文書の紙のどの種類にあたるものなのか、実はほとんどわかっていないのです。
データを積み重ねることで、ここをクリアにしていけば、より多くのことを明らかにできると思います。
そして、それらの知見も含め、古文書学の体系的な教科書を作りたいと思っています。これまでも、もちろん様式と機能についての概説的なものはありましたが、料紙論を加えたものはありませんでした。ぜひ、古文書に関心を持つ人なら誰もが手に取る一冊を書いてみたいですね。
漆原徹 教授
―読者へのメッセージ―
古文書学の魅力にぜひ目を向けてください
実は、古文書学は、古文書が世界一たくさん残されているという日本文化の特徴そのものを学ぶことなのです。
日本に紙の製法や公文書のあり方を伝えてくれたのは中国ですが、度重なる王朝交代で歴史的な文書の多くは失われてしまっています。
日本は、各地のお寺が文書保管機能を担ってきたこと、武家など先祖の由緒を重視する文化、そして何より紙の質が良かったことにより、未だに新たな発見が続くほどに、多くの古文書が受け継がれているのです。
みなさんの身近にも、埋もれてしまっている古文書があるかもしれません。ぜひその価値に目を向けていただけたら幸いです。
古文書は我々に過去を語るだけでなく未来を教えてくれる大事な歴史の史料なのです。
漆原徹 教授
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