研究活動

武蔵野大学附属幼稚園では、保育活動をより内容のあるものにするため、定期的に研究会を開いています。現在は本園の保育活動の一つの特徴である、「動物飼育」の問題に取り組んでいます。研究会の日は研究の内容や方法などについて、夜遅くまで熱心な討論が行われます。以下に、2014年度の研究発表の成果をご紹介します。

特色ある教育活動の一角を担う動物飼育体験

武蔵野大学附属幼稚園 主事 井上 悦子
教諭 内田 彩 景谷 裕香 鎌野 志穂
雲谷 悠 白井 裕子 徳光 貴子
中島 美菜子 長谷川 浩美
別府 涼子 渡部 なほ子

○冒険がいっぱいの武蔵野

本学院は、10万㎡という広大な敷地を持ち、深い緑と四季折々の花に覆われている。ここに学ぶ園児たちは、広いキャンパス内で草花を摘んだり虫を追ったり、自然の中で遊び、様々な体験をしている。本園は、浄土真宗本願寺派の幼稚園で、仏の心を大切にした宗教的情操教育が大きな特色である。

本園の教育目標を基本とする教育の大きな柱は、
  1. 万物の恵みに感謝して
  2. あたたかい心で関わり合って
  3. 仏様に守られて の3つを大切にしている。
動物飼育は暖かい関わり、また恵みに感謝に深く関わっていると考えて、昭和42年の開園以来、子どもたちに大事に関わらせてきた。

(1)春の恒例、動物たちとのふれあい教室

この園の子ども達が、心配なく動物飼育を楽しめる背景には、強力なバックアップ体制がある。

動物飼育 獣医師が年間を通じて飼育相談・診療を行うほかに、春には、保護者参加で、子どもたちが、動物ともっと仲良くなるために、獣医師から動物の気持ちを考えるきっかけを作ってもらったり、お世話の仕方を習って、これからの飼育の動機付けを行う機会を設けている。そのひと時は、獣医師による動物の飼い方のお話があったり、子ども一人一人がウサギやニワトリの抱き方を実際に経験する。子どものひざにタオルを敷き、ゆっくり動物を抱きしめると、最初は恐々だった子も動物の温もりに触れ表情が和らいでいく。この日は保護者も参加できるので、「今年はニワトリを抱きにチャレンジしに来ました」と言う方もいる。

これにより、今まで一緒に過ごしていた動物でも、もっと身近になり世話の仕方を自分なりに真剣に考えて、動物がどうしたら居心地が良くなるかを、自分の家族や友達と同様に考えるようになる。
雨には傘をさしてやる。台風の時は、段ボールで回りを囲い、ビニールシートで雨よけを考える。夏になったら、暑くないように、すだれをかけて工夫し、ウサギは、まず日よけの下に潜れるようにするが、ひどく暑くなれば室内に移動してエアコンにかけてやるように子どもたちが騒ぐ、等。

(2) 日常の世話

園児たちが飼育当番をしているのは、年中児は『ウサギ』、年長児は『ニワトリ』で当番はだいたい月1回まわってくる。

年少児は動物を可愛いと思ってもらうことを優先して、当番にはまだ参加しない。でも、上の学年がお世話をしているのを見ると自然と近寄ってくる。「子ども達が自分の力でお世話ができたと言う気持ちになれるように極力無理強いしないんです。」と言う保育者。
やらされているのではない分、子ども達の動物たちへの愛着は深い。学院内へ散歩に出たときも「ユキちゃん(ウサギの名前)にく~さ♪」と歌いながら道端の草を摘んでお土産に持ち帰る。登園途中で、母親と一緒に草花を摘んで来る。「家の子がウサギのプリン君のために草を摘んでいたので、遅れました」と一言。

年長さんは責任感をもって、命をまもる使命感に燃えて世話しているが、年少さんは、事務的にやりなさいとは言わなくても、お兄さんお姉さんのお世話を見よう見まねで一緒に参加するのを楽しんでいる。動物のそばにいることが居心地が良く、純粋に動物をかわいがっている姿が印象的である。また不安定な子どもたちは、とてもいやされて安定し、自分の居場所をみつけている。このような体験で、安定した幼稚園生活を送れるようになる子達が多い。先生が個別に寄り添えない状況でも、動物は必ず寄り添ってくれるので、「動物が待っていてくれる」と感じるのだろうと考えている。小動物と関わって良い日を過ごした子どもは、翌日に人参やキャベツの切れ端を袋に入れて、それを握り締めて登園する。子どもも保護者も小動物に癒しを求めていることが伝わってくる。

(3)誕生

動物が死ぬと、新しい動物を必ず手配している。
今年は、子どもたちがチャボの卵を孵したいと言い、獣医師と相談して、巣箱やひよこ用の水飲みなど工夫したところ、夏休みには4羽も孵り、2学期に子どもたちに見せるのが楽しみである。

(4)動物が亡くなった時

命の大切さを教えるためにも、かわいがっていた動物との死別は貴重な体験である。ウサギのマロンは「聞き耳頭巾の劇」をしたクラスに飼われていた。世話していた子たちは、毎日マロンに声をかけて、返事が聞こえたという子たちで、「聞き耳頭巾」をかぶったら動物の言葉が聞こえるかもしれないから、その頭巾が欲しいというほどかわいがっていた。

その子どもたちは、お日様の向きによって、お部屋のマロンのケージを必ず向きを換えて過ごさせてあげていた。水は一日に何回も換えるほど大事にしていた。ある時、マロンの絵を皆で描いて作品展の準備を初めた一週間後に亡くなってしまった。ガンだった。お朝拝の日にマロンが動物病院から帰ってきたので、保護者や子どもたちともお別れをした。先生も泣いたが、幼いながら泣いていた子が見られ、心が揺さぶられたんだなぁと、思った。その後、以前お世話をしていた卒業生や保護者達が、訪ねてきたこともあり、それだけマロンは子どもたちと深い関わりをもっていたんだなぁと思った。亡くなった後、この子たちはウサギを飼おうとはしないまま年長になりチャボの世話を担当していったが、ウサギを飼い始めた年少さんを手伝ったりもしたが、マロンへの思いが強いのだと感じた経験だった。

また、こんなこともあった。「今もバックス(フェレットの名、イタチ科の小動物)いますか?」と小学校高学年の卒園生が尋ねてきた。このフェレットは、十数年前から職員室で飼われていて、愛らしい姿が子どもたちの癒しになっていた。友だちとの関わりがうまくいかないと必ず黙って餌をやりに来る子が絶えなかった。卒園しても『むさしのだいがくふぞくようちえん ばっくす さま』と本物の切手を貼って手紙を送ってきた子どももいた。卒園してから何年たってもその子の心にバックスが残っていてくれたことは嬉しかったが、残念ながら卒園生の尋ねてくる3ヶ月前に死んでしまったところだった。バックスが死んだのは誕生会の朝で、最初はそのことを話すのをためらったのだが、ひとつの命が終わった日と、頂いた命に感謝する日が重なり何とも言えない思いがあり、結局、お誕生会の前にお別れ会をした。

(5)教職員との関わり

すべての教員が、子供への動物の意義を理解して世話をがんばっているうちに愛着を感じるようになる。しかし中には、幼稚園ではじめて動物に関わる人も見られる。特にチャボが苦手な先生は、最初に怖くてさわれないため、日直の時に庭で散歩しているチャボを小屋に戻す方法が分からずとても困ったが、年長の担任になり、春のふれあい教室で子供にチャボを抱かせる指導に関わったため、今は素手で抱くことができるようになり、チャボはかわいいと感じることができるようになった。

 (6)保護者との関わり

何年も前から幼稚園がお休みの日には家に連れて帰ってお世話をしたり、夏など長期の休みのときには親子で幼稚園に来て先生と一緒にお世話をする『ふれあいボランティア』をしている。動物の世話、小屋の掃除、餌水やり、そのほか、野菜の収穫などを親子でおこなう。その時は、保護者に感想日誌をつけてもらうと、「世話ができて嬉しかった」という言葉が大変多い。

また、父母の会からの援助で多くなったものが動物飼育に関するケージ、キャリーバック、トイレコーナー、などだが、保護者自身がより便利な物や古い道具を交換してくれるなど、関心が増してきたことが大きな変化である。これは動物ふれあい教室の時、保護者が子どもに動物を抱かせる援助をしながら、一緒に参加し獣医師の話を聞いたための変化と考えている。

○動物飼育は、人間の基本になることを学ぶこと

幼稚園の庭や保育室にはたくさんの生き物を飼っている。様々な動物飼育を通して生きている物への愛情を育み、優しい気持ちが育つようにしている。小動物を愛情を持って世話をすると、小動物はいろんな反応を返し、ひとりでは生きていけない、必ず自分を頼ってくれる。そのことで、ウサギやニワトリに頼られるかけがえのない大事な自分、自分を肯定的に受け止められるのではないか。命は大切だと学ぶのもそうだが、もっと自然なこと『人と人との関係を作ること』を学ぶのが動物飼育の基本ではないだろうか。例えば、自分と同じ境遇で動物のことを考えられるようになり、他者に対して共感の気持ちが持てるようになる。動物飼育は『命をいとおしみ、友達に手を差し伸べられることができる子ども』『楽しさや喜びを分かち合うことができる子ども』本園のこんな子どもに育ってほしいと思う願いに切り離すことのできない大切なものと言える。

本園の動物飼育について、日本教育新聞(2014年9月22日付)で紹介されました!

日本教育新聞2014年9月22日

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