研究内容 - たのしい製剤学

製剤学研究室では,医薬品粉体の分子物理化学的特性の評価と溶解現象の速度論的解析を基盤とし,分光学的解析手法と粉体工学的手法に基づいて以下の研究課題を推進している.

  1. 医薬品原末と医療用添加剤の分子間相互作用と製剤粒子設計
  2. 生体親和性有機・無機複合材料を用いた薬物送達人工骨システム開発

大学研究費プロジェクト

「非破壊計測法による医薬品製造工程管理技術の構築」

 従来の医薬品製造現場にリスクマネージメントの概念が導入されて,あらゆる現象に対して科学的根拠に基づく製造管理が要求されるようになってきた.本研究では,高い品質の医薬品を製造するために,製造プロセス進行中における,重要品質パラメータおよび品質に影響する特性のタイムリーな測定,ならびにプロセスの終了時点で受け入れ可能な最終製品の品質を保証するための製造工程の分析と管理,PAT(Process Analysis Technology)の実践を模索している.これらのなかで特に,近赤外分光法およびラマン分光法などを用いた非破壊・非接触・迅速分析法が最も注目されている.
無線近赤外分光器を用いたV字型混合機での混合均一性のin-Lineモニタリングと製剤特性予測

武蔵野大学特別研究プロジェクト

「生体親和性有機・無機ハイブリッドナノ粒子を用いた薬物放出制御」

 生体内では,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が常に行われており,そのバランスにより骨量が制御されている.我々は,破骨細胞の骨吸収機構を利用した,細胞制御型薬物放出システムの構築を検討してきた.本研究では無機材料としてハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム,生体親和性有機材料としてアルギン酸,PLGA,ゼラチンなどを用いた有機・無機ハイブリッド材料を開発した.それらに骨形成促進作用のある難溶性スタチン系薬物,シンバスタチンを内包させて,その放出挙動を検討し,時限薬物放出制御システムの構築を試みた.

生体医歯工学共同研究(受理番号2042)

「テラヘルツ分光法による共結晶含有製剤の原薬特性変化の医薬品製造工程における非破壊・非接触モニタリング」

近年,テラヘルツ(THz)分光法は,光と電波の中間領域の性質を持つTHz領域の波長を利用した,新しい結晶評価法として注目されている.一方,結晶性医薬品は,同じ物質でも結晶多形や結晶化度により物理化学的性質が異なり,製剤の安定性や体内動態に影響するため,製造工程中の結晶状態の管理は品質だけでなく,有効性・安全性の保持に重要である.このため,原末の品質評価は,粉末X線回折法(XRD)や熱分析などの手法により測定評価されているが,瞬時にその固体物性を評価することは困難である.分光学的手法は,非破壊・非接触で瞬時にその物性を評価できる点で有効である.特にTHz分光法は,その波長特性から,分子全体あるいは数分子の分子間相互作用を直接測定することが可能であり,固体分子状態の評価に適している.この手法は,分子状態の包括的把握と言う側面から,結晶多形状態や非晶質状態に加え,水和物などの溶媒和物の生成過程を時間分解で測定することができる,加えて,近年注目されている非晶質多形や共晶化合物の形成を観察することができる.また,イメージング法を併用することにより,結晶中の分子情報の時間分解能に加えて,空間的分解能を付加することができる.医薬品の薬効を支配する要因と一つである水への溶解度は,これらの粉体・固体の化学ポテンシャルに依存している,即ち,固体中の分子存在状態を直接観察できれば,溶解度を制御するとことに大きな福音となる.本年度は,これらの目的を達成するための試料としての抗高脂血漿薬アトルバスタチンカルシウム(AT)の結晶多形と非晶質の物理化学的特性の確認と評価をした.

武蔵野大学しあわせ研究所研究費

「子供や高齢者に優しい医薬品剤形の開発」

患者が薬剤を服薬する場合、経口投与薬が最も簡便で、確実な投与方法である。このため錠剤やカプセル剤はその最も子供や高齢者は、嚥下力が弱く固形製剤を嚥下することが容易ではない。このため、口腔内速崩壊型の錠剤やシロップ剤などが適用されている。本研究では、難溶解性の医薬品を様々な剤形に工夫して容易に患者に適用できる剤形を開発する。口腔内速崩壊剤、吸入ミスト型薬剤、チョコレート型薬剤、グミ製剤、肺内吸入粉末化製剤、軟膏塗布型製剤、皮膚付着型パッチ製剤などの様々な剤形を開発する。

製剤学講義

製剤学研究室は学部教育として,「物理薬剤学」(2年生後期),「製剤学」(3年生前期),「製剤学実習」(3年生前期),「薬学総合演習」(4,6年生),「卒業研究」(4-6年生)を担当.

 「物理薬剤学」の講義の到達目標は,基礎物理薬剤学の範囲をカバーする基礎的な部分で,

  1. 医薬品及びその製剤の物性を理解するために,相平衡,溶液の性質,溶解度及び溶解速度に関する基本的知識.
  2. 医薬品及びその製剤の安定性に関する理解を深めるため,化学反応速度論、反応速度に影響を与える諸因子に関する基本的知識.
  3. 薬物と製剤材料の性質を理解し,医薬品開発に応用するために,それらの物性に関する基本的知識.
これらの製剤に関する物理化学的原理を基盤に製剤の機能を理解を目指す.

 「製剤学」の講義の到達目標は,物理薬剤学で養った基盤をもとに安全で有効な製剤調製する能力の養成を目指して,製剤に関する物理化学的原理や生物薬剤学で養った医薬品の有効性,安全性を確保するための基礎薬学な根拠をもとに安全で有効な製剤を実際に作り,かつ有用に使用することのできる薬剤師の役割の習得を目指す.

 「製剤実習」では,これまでに学んだ物理薬剤学や製剤の原理や知識を基に,医薬品を調製するために必要な基本的な技能と態度を学ぶものであり,このなかで,6人グループ制で実習を行った後,各自が理解を深めるため,その結果を発表・討論を行う.

すべての講義・実習では,毎回,薬剤師国家試験問題のプリントを配布し,薬剤師国家試験に対応した形態としている.