11月24日、武蔵野大学経営学研究科は、有明キャンパスにて大学院FD活動の一環として「世界とつながる「税関」の仕事とは—国際協力と貿易の今」を開催しました。講師として、財務省参与で元WCO(世界税関機構)事務総局長の御厨 邦雄氏が登壇し、税関の基本的な役割から、経済安全保障、デジタル課税といった現代国際社会の喫緊の課題までを解説しました。
本講演会は大学院FD活動として企画されましたが、その内容が公共性を持ち、学生の将来的な職業選択への一助となることから経営学部の学生にも広く参加が呼びかけられ、多数の大学院生と学部生が集まりました。
アジア初の元WCO事務総局長が語る国際公務のキャリア
御厨氏は、1976年の大蔵省入省以来、長年にわたり税関・関税分野の国際的な仕事に従事。特に2009年のWCO事務総局長就任後は、2023年まで3期15年にわたって160か国以上を訪問し、国際協力の推進に尽力されました。2024年春には瑞宝重光章を受章し、2025年現在はウクライナ復興支援にも携わられています。
国際協力の最前線にある税関と国際機構の機能・役割
講演会ではまず、税関の仕事が「国家財政の基盤」「国内産業の保護」「貿易円滑化」「社会の安全確保」の4つの基本機能を持つことが示され、さらにWCOの役割としては、グローバルな基準(スタンダード)を策定するプロセスや、開発途上国におけるキャパシティ・ビルディング(能力構築)の現状についても説明がなされました。この国際協力の側面には、密輸動向の分析と国際取締の支援なども含まれます。
激変する国際情勢と貿易・税制の構造的課題
講演の後半では、近年の国際貿易を取り巻く喫緊の課題として、めまぐるしいグローバル化、サプライチェーンのあり方の見直し、経済安全保障、デジタル貿易への対応、環境保護、そしてトランプ関税といった、現代の国際社会が直面する具体的な問題に対し、日本がどのような視点で向き合うべきかについて、深い考察が提示されました。
国際公務や公的機関を志す学生への大きな機会
講演後の質疑応答では、貿易赤字の改善にかかるこれからの日本の姿勢やデジタルサービスへの課税対策についてどう考えるかという学生からの質問に対し、民間によるリスクテイクと人材育成政策の重要性、そして国際税制におけるデジタル課税のせめぎ合いが最大の課題であるとして、活発な議論が行われました。
本講演会は、参加学生に対し、関税の仕事が国際協力や経済安全保障に深く関わる最前線にあることと国際貿易の重要性についての理解を深め、国際公務や公的機関を含む将来の職業選択を考える上で貴重な機会となりました。
担当教員コメント
船越 洋之 教授
(経営学研究科 会計学専攻[修士課程]/経営学部 会計ガバナンス学科)
御厨先生の講演内容は、長年の国際公務の経験からなる説得力とわかりやすい語り口で税関の複雑な役割を深く理解させるものでした。
特に、紀元前からの歴史的役割から、最新のテクノロジーやデータを活用した水際での安全保障への貢献、さらにはウクライナ復興支援における税関改革協力といった具体的な事例の提示は、学生だけでなく、我々教員にとっても、国際公務や公的機関の仕事が国際協力と経済安全保障の最前線にあることを強く認識する機会となりました。
本講演は、大学院生だけでなく学部生も含めた参加者に対し、国際貿易の重要性とキャリア形成に関する多角的な視点を提供し、国際社会への貢献を目指す人材育成に大きく寄与する成果を得られたと思います。
大変貴重なご知見をご提供いただきました御厨先生に、深く感謝申し上げます。
関連リンク
- 世界税関機構(WCO)
https://www.wcoomd.org/ - 財務省:WCO(世界税関機構:World Customs Organization)
https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/international/wco/ - 経営学研究科 会計学専攻
https://www.musashino-u.ac.jp/academics/graduate_school/course/Accounting/major/ - 経営学部 (経営学科・会計ガバナンス学科)
https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/business_administration/