Amazonセラーの負担を減らせ! ECの課題解決に金融工学の視点で挑む学生起業家

No.035
アントレプレナーシップ学部
アントレプレナーシップ学科3年
畠中 詔摩 さん
※所属・内容は取材当時(2025年11月)のものです。金融工学の視点がAmazonセラーの業務を変える。「セラー管理くん」が生み出す事業者の成長時間
私は現在、株式会社Alphatiqueの代表取締役CEOとして、Amazon販売事業者向け業務効率化アプリ「セラー管理くん」を開発・提供しています。社名「Alphatique」は、金融における「アルファ(超過リターン)」と「ユニーク」を組み合わせたもので、私たちが独自の価値を生み出し、超過リターン (期待できる利益を上回ること)を追求したいという想いを込めました。私たちの目的は、いまや生活の中で当たり前となっているAmazonで商品を販売する個人事業主や中小企業の経営者たちが、日々の損益計算や在庫管理、確定申告などの煩雑な事務作業に追われ、本来注力すべき商品開発やマーケティングに十分な時間を割けていないという課題を、効率化ツールによって解決することです。
「セラー管理くん」は損益計算や在庫管理、広告分析といった煩雑な業務を一つのツールで効率化することのできるアプリです。特に、クラウド会計ソフト「freee会計」とのワンクリック連携による「財務データの自動送信機能」と、直近3ヶ月間の売上データから最適な発注量を算出する「在庫管理機能」に注力しています。これらは、私が中学生の頃からオプション取引(株価の変動に対する「保険」のような金融商品の売買)を始め、高校生時代にデリバティブ(株や為替などを基にした複雑な金融商品)の設計・運用に取り組み、大学では電力会社が電気料金の変動リスクを抑えるための保険商品の価格設計に携わるなど、長年にわたり実務を通じて培ったデータ分析の知見を、EC(Electronic Commerce/電子商取引)の現場に適用したものです。
開発は高校時代のプログラミング関係のコミュニティーを通じて知り合ったエンジニアと3名で進めています。私たちは友人関係というわけではなく、スキルと志向が一致したビジネスパートナーとして活動しています。将来的には、蓄積データを活用してActionable AI(アクショナブルAI/単にデータ分析結果や洞察(インサイト)を提示するだけでなく、その情報に基づいて即座に具体的な行動や意思決定を促す、あるいは自動的に実行に移すことができる人工知能システム)へと進化させる計画です。また、地方銀行や商工会議所との連携も視野に入れ、地方の中小企業が事務作業から解放され、商品開発に集中できる環境づくりに貢献したいと考えています。
金融理論をECの課題解決に。起業を決意した確信の瞬間
私がこの道に進んだ原点は、金融工学の理論がEC事業の在庫管理や需要予測にそのまま応用できるという気づきにあります。高校時代からオプション取引に取り組み、大学でも金融商品の価格設計に携わる中で、リスクとリターンの最適化手法が、欠品と過剰在庫のバランスを論理的に解く鍵になると確信しました。決定的なきっかけは、大学入学後、学部の教授を通じて出会った元Amazon社員であるメンター(学修相談員)との対話でした。多くの販売事業者が損益計算や在庫管理に追われ、本来注力すべき商品開発に時間を割けていない現実を知り、強い問題意識を抱きました。Amazon社内ですらその課題が解決されていないという事実は、私に大きな衝撃を与えました。「金融の世界で当たり前に使われている理論を、ECに応用すれば多くの事業者を支援できる」。この思いが起業の原動力となりました。
失敗への不安はほとんどありませんでした。若いうちであればもし失敗してもやり直しがきくだろうとの考え、心強いメンターの存在、そして「どんな状況でも一定のユーザーを獲得できる」との冷静な判断があったからです。アントレプレナーシップ学部を選んだのも、期待値に基づく合理的な選択でした。この学部はまだ新しく、受験生からの注目度はそれほど高くありませんでした。しかし、私が入学した時点では卒業生がまだおらず、実績も少ない状況だった一方で、調べるうちに学べる内容が非常に実践的であることがわかりました。有名大学や人気の高い類似学部と比べても、充実した学びが得られるのに、入学難易度はそれほど高くない。まさに「穴場」だと感じたのです。卒業までの学びの質と、卒業後にそれを活かせる可能性を総合的に考えたとき、トータルでリターンが高いと確信し、3期生として入学しました。今、日々の活動を通じて、その選択が正しかったことを実感しています。
ECに挑んで見えてきた景色。理論がリアルに変わる瞬間を追って
EC領域での事業開発は、私がこれまで培ってきた金融工学の知識や経験を、次々とピースとしてはめ込んでいくような、胸の高鳴る挑戦でした。自分とはまったく別世界にあると思っていたECの構造が、金融工学で扱ってきた「データの動き」と驚くほど似ていると気づいた瞬間の興奮を今でも忘れません。「リスクとリターンを最適化する数理は、そのまま在庫と欠品のバランスにも使える」「過去の標準偏差は、需要変動のゆらぎを測る指標になる」。そんな既知のパズルピースで未知の領域のパズルを完成させていくような感覚でした。
その一方で、Amazon特有の異なるサービス間でデータをやり取りさせるAPIの仕様変更によって、想定していた処理の多くがそのまま適用できませんでした。実装の前提が崩れるたびに設計を練り直し、数えきれないほど試行を重ねました。そうしてようやくプロダクトが動き出した瞬間、そこにあったのは「困難を乗り越えた疲労」ではなく、「理論が現実に変わる手応え」でした。この分野には、まだほとんど埋められていないパズルが広がっています。そのパズルを金融の知見で切り開けると確信したとき、自分の進むべき道筋が明確になったと実感しました。
「セラー管理くん」で広げる、地域の価値とECの未来。安定運用と拡張性で、次のステップへとつなぐ
今後は、「セラー管理くん」を継続的に発展させ、EC事業者の業務基盤をより確かなものにしていくことを大きな軸としています。Amazonとの連携に必要な審査が完了し、これまでの「25社まで」という受け入れ制限が解除され、本格的な拡大に向けた土台が整いました。
リリース直後の2カ月間は、最大50事業者の範囲で運用し、プロダクトの安定性と操作性を徹底的に磨き込む予定です。そのうえで、利用環境が整い次第、営業やマーケティングも段階的に展開し、半年以内に1,000事業者規模へと拡大していく計画です。具体的には、freee株式会社との協働によってデジタル領域でのアプローチを強化しつつ、神奈川県庁のアクセラレーションプログラムを通じて、地方銀行や商工会議所など地域ネットワークとの接点を広げ、それらと連携しているEC事業者へ直接働きかけていきます。
また、在庫管理や財務連携に加え、蓄積されたデータを「セラー管理くん」に学習させることで、より高度な広告最適化やリスク分析を可能にし、EC事業者がより正確な意思決定を行えるような基盤を整えていきます。そのように広げていけば、今埋もれている地域の優れた製品やサービスを広く届けることができる。地域経済の活性化や消費者の生活の質向上につなげ、豊かな社会を実現させていきたいと考えています。
取材を終えて
今回の取材は、私にとって学生広報チームとしての初の取材・執筆でした。初めての経験ゆえに不明点が多く、資料を確認したり、関連情報を調べたりしながら、一つひとつ丁寧に進めました。畠中さんの活動内容は金融工学やEC業務の専門分野に及ぶため、取材には業界知識や専門用語を事前に勉強して臨みました。取材を通じて特に心に残ったのは、アントレプレナーシップ学部を選んだ理由として畠中さんがおっしゃっていた言葉です。「まだ注目度や知名度が低いが、内容を調べると質は高い。競争が少なく、少ない労力で大きな成果が得られやすい——つまり『期待値』が高い」という考え方に、強く感銘を受けました。これは起業やビジネスだけでなく、人生のさまざまな選択においても通用する、大切なマインドだと感じます。大学選択の頃からここまで期待値を計算して行動に移せる畠中さんの姿に、純粋に「すごいな」と感動しました。(橋本)
今回の取材を通して、「在庫をオプションとして考える」というように視点を変えることでこれまで意味がないと思われていたものや不利だと感じていたものも、新たな価値を持ち得るのだと実感しました。畠中さんの話を聞き、自分が学んでいる分野の知識も、使い方次第で全く異なる領域に応用できるのではないかと考えるようになりました。専門性は深めれば深めるだけ自分の可能性を狭めるものではなく、物事を捉え直すための視点を与えてくれるものなのだという気づきは、この取材を通して得た大きな学びです。また、理論を理解するだけでなく、それを現実の課題に結びつけ、試行錯誤を重ねながら形にしていく姿勢も印象的でした。少なくとも、畠中さんが進んでいる道は、待っていれば自然に得られるものではないと感じます。その姿勢は、今後の進路を考えるうえでの一つの指針となり、同時に誰もが参考にするべきものだと思いました。(脊戸)
取材・執筆:経営学科 1年 橋本 陽
人間科学科 2年 脊戸 柊真
関連リンク
- アントレプレナーシップ学部アントレプレナーシップ学科
https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/entrepreneurship/entrepreneurship/ - 株式会社Alphatique
https://alphatique.co.jp/