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医療AIの限界に挑む-AIの信頼性の追求と、誰もが健康に暮らせる社会へ-

No.047

データサイエンス学部データサイエンス学科3年

遠藤 一護 さん

※所属・内容は取材当時(2026年6月)のものです。

AIは完璧ではない―医療AIの盲点へ迫る研究

私は、現在、データサイエンス学部で医療分野におけるAI活用について研究を行っています。直近の研究では緑内障について、眼科医が手作業で作成した病変部位の「面積情報」をAIに学習させることで診断精度が向上するかを検証しました。先行研究では性能向上が報告されていましたが、複数の病院のオープンデータを統合して検証したところ、性能向上には寄与せず、むしろ低下するという「ネガティブな知見」が得られました。これは、病院ごとに撮影機器や撮影環境が異なるため、AIが不要なノイズまで学習してしまうという、クロス施設における医療AI実用化のボトルネックを示した結果です。この成果をまとめた論文が工学・情報分野の国際学術誌「IEEE Access」に掲載されました。

また「AIを活かした新しいウェブサービス、モバイルアプリの開発」をテーマにしたハッカソン「全国学生対抗 Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」にも参加し、医師の事務負担を軽減する「カルテ補助AI」を開発。優秀賞を受賞しました。

※プログラミングや改良を意味する「ハック」と「マラソン」を組み合わせたもので、短期間にチームでアイデアを形にし、成果物を開発・発表するイベント

AIの可能性への憧れ―「当事者だからこそ介入できる」逆境から見出した挑戦

そもそもAI活用に興味を持ったのは、中学3年生のときでした。当時流行っていたYouTubeでAIの歩行シミュレーション動画を見たことをきっかけにプログラミング教室に通い始めました。教室では、機械学習やデータ分析に用いるプログラミング言語である「Python」の基礎文法を学んでいました。プログラミングには情報科学だけでなく数学的な話など、他分野の知識も必要になってくるため、学ぶたびに自分の視野が広がっていく楽しさを感じました。そして「自分が寝ていても進捗が生まれ、人間の能力を拡張できる」というAIの可能性に惹かれ、研究への興味が芽生えていきました。志望大学を決める際、1年次から研究室に入ることができ、早期から本格的な研究に取り組める環境に魅力を感じ、武蔵野大学データサイエンス学科への進学を決めました。

緑内障研究に取り組み始めたのは、大学1年生の冬にコンタクトレンズを作る際、自身に緑内障が見つかったことがきっかけです。担当医から「視野検査はその日の体調によって結果が変わることがある」と説明を受け、健康な日には異常が見えにくい一方で、体調が悪い日には緑内障として診断される程度の視野欠損であることを知り、「もっと正確に診断ができる方法はないのだろうか」と疑問を抱きました。患者として検査の曖昧さを実感した経験があったからこそ、より早期かつ厳密な診断方法を追求し、より信頼できる医療AIの実現に貢献したい――その思いが、現在の研究の原点になっています。

また「全国学生対抗 Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」への挑戦は、医師や看護師といった医療従事者をはじめとして、開発するシステムが「誰にどんな需要があるか」を自分の頭で能動的に考える力を鍛えたいという思いから始めました。

「誠実さと厳密さ」で掴んだ論文掲載と、仲間と共に突き詰めた開発の面白さ

緑内障の論文は、採択までに2度の不採択と厳しいフィードバックを経験しました。論文を国際学術誌「IEEE Access」に掲載するためには内容が厳密かつ正確である必要があります。フィードバックでは、論文で主張していることが、記されている実験の結果だけでは厳密とはいえないとの指摘を受けました。そのため、これまで報告されにくかった「ネガティブな知見」も、誇張せず誠実に伝えるための方法を模索しましたが、非常に難関でした。そこで、査読者からのフィードバックを「そのまま直せるもの」「こちらの考えを説明して理解してもらうべきもの」「新しく実験をして確かめる必要があるもの」に整理したうえで論文のアップデートを行うことにしました。新しく実験をして確かめる必要があるものについては、今まで積み重ねてきた実験結果の中に、すでに解決のヒントがないか考えながら、追加の検証に取り組みました。情報収集をし直し、実験を繰り返し、完成した論文が掲載されてプレスリリースとして発信されたときの達成感は忘れられません。掲載後に論文誌学会からの出演依頼をいただいたり、指導教授から「論文は一本出して終わりではない。これからも研究を頑張っていきましょう!」と激励の言葉をいただいたりしたことも、大きな励みになりました。

「カルテ補助AI」の開発では、医療現場を深く知らない立場での課題設定に苦戦しました。コンテスト中に医療従事者の方々から直接話を伺い、医師・看護師間の情報共有におけるカルテの重要性を知ったことで、既存の優良なカルテをAIが推薦し、医師が編集・補正するシステムを考案するに至りました。AIの生成内容には誤りが含まれることがあるため、正確性を担保しながら実用的なバランスをとることをとくに意識しました。

研究を「層」として深め、誰もが健康に暮らせる世界へ

今回掲載された論文では、医療機器や撮影環境によってAIの性能に差が生じることがわかりました。今後は、その差を補正していくにはどうしたらよいのか明らかにできるような研究を進めていくつもりです。そして、2本目・3本目と論文発表を重ねて深く掘り下げ、研究の幅を「面的」に広げるのではなく、深化を図ることで「層」として厚みのある内容にしていきたいと考えています。

自動運転や医療など、人の命に関わる分野では、AIの「判断に至るまでの経過が見えにくい」という特性が原因で実用化・認可が進みにくい現状があります。だからこそ、AIによって導かれた結論の透明性を高め、発展途上国や地方の個人経営病院など、機器環境に格差がある場所でも等しく信頼できるAIの構築に取り組んでいきたいと思います。

単なるIT化ではなく、真の業務フロー改善によって医療現場の逼迫を減らし、世界中の誰もが健康に暮らせる社会に貢献したい。そして将来は、自分の研究や仕事を通じて「この人のそばで働きたい」と魅力的な人材が自然と集まる、「人が人を呼ぶ」ポジティブなサイクルを生み出せる研究開発者になることが、私の目標です。

国際学術誌「IEEE Access」に掲載された際の福原 義久講師との写真
「Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」 優秀賞受賞時の写真
データサイエンス学部未来創造研究発表会にてポスター発表する様子
2026年3月開催の「アイフルデータハッカソン」にも参加。優秀賞受賞時の写真

取材を終えて

取材を通して、遠藤さんが幼い頃に見たプログラミングの動画をきっかけに興味を持ち、その思いを原動力として現在までデータサイエンスの道を歩み続けてこられたことを知り、興味を大切に育みながら挑戦を重ねてきた軌跡を感じました。

また、遠藤さんの「人や現場を知ること」から研究を始めることを大切にされているというお話が印象に残りました。私は薬学部での実務実習を通して、医療従事者の方々が患者さん一人ひとりと真摯に向き合いながら、多くの業務を担っている姿を目の当たりにしました。一つの判断や作業が患者さんの安全に直結する医療現場だからこそ、その負担を軽減し、より良い医療を支える技術には大きな意義があると考えています。現場の課題を理解し、その声に耳を傾けながら研究を進める姿勢こそが、安心する医療の実現につながるのだと感じました。医療現場に寄り添い、誰もが安心して医療を受けられる社会の実現に向けて挑戦を続ける遠藤さんの今後のご活躍を心より応援しています。

取材・執筆:薬学科 6年 清水 涼夏

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