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空き家問題を次世代の学びへ。都市再生をテーマにした絵本制作と、受賞までの軌跡

No.039

工学部
建築デザイン学科4年

野中 菫 さん

※所属・内容は取材当時(2025年12月)のものです。

空き家問題を全ての世代に知ってもらうために

私は、所属する建築デザイン学科の「絵 de けんちく」プロジェクトで「かわるもの かわらないもの」という子ども向けの絵本作品を制作し、「第21回『家やまちの絵本』コンクール」で、都市再生機構理事長賞を受賞することができました。

この作品は、アヒルがもともと住んでいた家を離れ、時間とともに荒れて空き家になっていた場所をもう一度リフォームして、新しい家族のリスとともに暮らしをはじめるストーリーです。
建築デザイン学科では多くの都市問題を学びましたが、私は都市再生に興味があり、中でも特に空き家問題に関心を持っていました。空き家問題を全ての年代の方に伝えたいという思いで、この絵本作品の制作に取り組みました。絵本では、都市再生でかわっていく街や空き家の再生とアヒルとリスのかわらない友情の対比を描いています。かわるものを大切にしながらかわらないものも守っていこうというメッセージを込めました。

芸術に関心を持ち、学びを社会に届けるために絵本を制作

もともと絵に苦手意識がありましたが、大学生になって絵で表現する楽しさに目覚めました。空き時間に好きな服のデザインを描くうちにその表現の世界へ惹かれ、大学3年時に受講した「絵 de けんちく」プロジェクトで課題を構造的に捉えるデザイン思考を学んだことが、大きな転機となりました。この学びを自身の専門である都市分野に還元したい。そう考えて、絵本の題材に選んだのは身近な社会課題である「空き家問題」でした。「難解な都市課題を都市の未来を担っていく子どもたちにも親しみやすく伝えたい」という一心で絵本制作が始まりました。

制作において特にこだわったのは、読者への伝わりやすさでした。物語の舞台となる湖や森の情景は当初から明確に思い描いていましたが、風景の広がりと読みやすさを追求するため、一度は縦構図で完成させた絵をすべて横構図へ描き直しました。複雑な課題も、丁寧に分解すれば必ず伝わるという想いを胸に、最後まで作品と真摯に向き合い続けました。

試行錯誤を重ねた日々が自分の力に

物語の構想から製本までの約2か月間絵本に向き合い、先生と試行錯誤を重ねながらわかりやすさを追求し、何度も修正をしました。とくに構図に関しては既存の絵本を20冊ほど読み込み、構図を参考にしながら修正を繰り返したので、一番時間を割いたと思います。それゆえ、1から作り上げた作品が1冊の絵本として形になった瞬間は、大きな達成感がありました。

そして伝えたかった空き家問題のメッセージが読者へしっかりと届き、コンクールで評価されたことが本当に嬉しかったです。学びも多く、自分の力になったと強く感じています。

“楽しい”という純粋な気持ちが原動力

恩師をはじめとする多くの方々の支え、そして自分が積み重ねてきた努力が正当に評価されたという経験は、私にとって大きな自信となりました。改めて制作過程を振り返ると、常に“楽しい”という純粋な気持ちを原動力に、好奇心を持って最後まで向き合うことができたと感じています。

絵本制作を通じて常に自問自答してきたのは、「都市課題という重いテーマを、いかに深刻になりすぎず、かつ真っ直ぐに届けられるか」という点です。複雑で重い社会課題であっても、より多くの人々の心に届くよう、真摯に伝えていく努力を続けたいです。

絵本作品と野中さん
授賞式の様子

高円宮妃殿下久子様に作品をご覧いただいている様子
妃殿下との記念撮影の様子
MU展での展示

取材を終えて

都市再生や空き家問題は専門家や行政などの固い議論の中で語られがちなテーマですが、野中さんの絵本は未来を担う子どもたちの視点で理解できる形へ翻訳し、同時に友情という大切なものも伝えている作品でした。野中さんの柔らかい人柄が「絵本」という柔らかい表現方法でさらに引き出されていたと、取材で実際にお話しして強く感じました。しかしその背景には構図を全て描き直す決断や20冊以上の絵本を読み込んで研究した姿勢があり、地道な積み重ねの一つひとつが実った結果が今回の受賞へ運んだと感じました。(清水)

今回の取材を通して特に印象的だったのは、難しく感じてしまう社会問題を絵本という形で伝えている点でした。また、自分が学んできたことや興味のあることを都市分野に還元したいという想いと、空き家問題をすべての年代の人に知ってもらいたいという想いを感じました。社会問題は多くの人に知ってもらうことが解決への第一歩だと感じているので、野中さんの取り組みが、社会問題について考えるきっかけになり、社会の未来をつくる土台となるのではないかと感じました。(原)

取材・執筆:人間科学科 2年 清水 理子
政治学科 2年 原 愛佳

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