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法学研究科長インタビュー

2023.07.10

武蔵野大学法学研究科長『有明日記』その9

大学院法学研究科の成果と法律学科の「第二次発展計画」
―「アフターコロナ」の再飛躍を目指して―

法学研究科長(前法学部長・前副学長) 池田眞朗

大教室双方向授業

上の写真は、2015年の武蔵野大学法学部法律学科の民法の授業風景です。全国の法学部でも類例のなかった「大教室双方向授業」を実践しているところです。そして私たちは、2020年度からのコロナ禍におけるZOOMオンライン授業でも、この「大教室双方向授業」の実現に努力してきましたが、やはりオンラインでは作り出せない「その場の雰囲気」と「すべての出席学生の集中力の向上」というものがあります。それが、対面授業全面再開が実現した2023年4月から久しぶりに戻ってきました!
また、大学院法学研究科は、「ビジネスマッチング方式」による、教員・院生の合意による遠隔・対面授業の選択を継続しています。法学研究科では、今後もこの方式を、新型コロナの収束の有無にかかわらず継続採用します。したがって、法学研究科では、学部から入学した院生は対面で、業務のある社会人は遠隔で、というハイフレックス授業も始まっています。学部も、大学院も、「アフターコロナ」の飛躍を目指す日々が始まりました。2021年度から取り組んでいる、SDGsやESGを取り込んだ、「新しいルール創り教育」の実践も成果が形になり始めています。
(法学研究科長『有明日記』は、法律学科と法学研究科の双方のページに掲載します。)
大変お待たせしました、有明日記の1年以上たっての更新です。ようやく、法律学科には「法律学科らしさ」が戻り、大学院法学研究科は、法学研究所叢書を発刊するなど、成果を世に送る、充実の時を迎えました。ただし、法律学科は、この機会に原点に立ち返って、わが法律学科は「新世代法学部」を標榜して2014年に誕生した本学の法学部は、完成年度入学の4期生が2021年3月に卒業し、一橋、慶應、早稲田、中央などの法科大学院に延べ26名合格という、史上最高の成果を残してくれました。1期生、2期生、3期生からはすでに5名の司法試験合格者が誕生し、うち1期生の2名は弁護士としての活動を始めています。
一方、大学院法学研究科ビジネス法務専攻は、2018年4月からまず修士課程を開き、2021年4月からは博士後期課程も開設しました。本年2023年度は博士課程の完成年度になりますが、幸い博士後期課程も、実務家教員養成をうたっていることもあって毎年複数の受験者があり、現在3年間で5名の在籍者となっています。
前回の有明日記に既報のように、法学部から大学院法学研究科博士課程まで整った本学では、2021年度から多彩なゲストスピーカーを招いて、法学研究科と法律学科の共同授業を複数回開始し、SDGsESGを取り込んだ、「新しいルール創り教育」の実践を始めています。また大学院のほうでは、その「新しい法学教育」を実現させる有力な方法として、社会構想大学院大学とタイアップして、実務家教員を養成する「実務家教員COEプロジェクト」を2019年度から遂行中です。さらに、科目等履修生制度に力を入れ、そのうちの一部には、法律学科4年生が奨学金を得て大学院の科目を履修できる制度も創設されています。
2023年度のアフターコロナの授業の開始に際して、常に一歩先を目指している法律学科と法学研究科の最新情報をお伝えします。是非これまでの有明日記と合わせてお読み下さい。

法律学科のLSSP(第二次発展計画)について

世の中は、変革の時代に入りました。今日は、端的に、武蔵野大学法学法律学科の最発展のための計画と、法学研究科の研究の進展のご報告をします(これまでの法律学科と大学院法学研究科の歩みについては、是非前回の有明日記8までをお読みいただけますと幸いです)。
武蔵野・法では、この機会に反省をしました。一つには、開設当初に目指した「マジョリティのための法学教育」が、法科大学院合格や宅建合格などの指標を追っているうちに、その分野ではかなりの成果を上げたものの、理想を追いすぎて、教育レベル設定が高くなりすぎたのではないか、という反省です。
それぞれの異なる目標を持った、多様な学生諸君が、皆、「楽しく学んで人生を変える」実感を、それぞれの形で実現して、武蔵野・法に来てよかった、と思って卒業してくれることが最大の目標であることを再確認したいと思います。高等学校の進路指導の先生方に、信頼していただいて、良い生徒を送っていただけることが最大の目標であることを再確認したいと思います。
私は、法律学科の専任教員に対して、LSSP(LはLawで、SSPはSecond Step Planです)を提案しました。入学後の学習の指導もこれまで以上に細やかに行って、一人ひとりの学生が充実感、満足感を持って卒業まで漕ぎつけられる、という教育こそが、サステナブルな教育であると思います。そのうえで、法科大学院合格などのいわば「偏差値以上」の実績が維持できるというのが、オンリーワンでナンバーワンを目指す、武蔵野・法の真価となるべきでしょう。
そのうえで、武蔵野・法が求める人材を再度書いておきます。

(1)世の中の動きに敏感な人

法律は、世の人々を幸福に導く学問です。ですから、世の中の動きに関心を持てない人は、法律学を学んでも伸びません。ことに、この進展の速い時代には、当然、法律も以前よりも変わるスピードが速くなります。それだけ、新しいルール、新しい法律を制定する必要が、また市民同士でも新しい契約(これもルールです)を考えだしていく必要が、どんどん大きくなってくるわけです。

(2)想像力と創造力のある人

ひと昔前の法学部生は、長い間机に向かって、権威とされる学者の本を読み込み、覚えたことを答案に再現できる学生が優秀とされたのです。しかし、現代では、それだけの学生はあまり役に立ちません。そうではなくて、時代の新しいニーズに応えて適切なルールを創り出せる人材が求められているのです。つまり、学んだことの正確な再現の能力よりも(それもある程度は必要なのですが)、時代のニーズに対応できる「想像力」と「創造力」が求められるのです。私は、もう20年以上前から、法律の学生に一番足りないのが想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティビティ)であると論じてきましたが、まさにそういう時代が到来しているのです。

(3)「ルール創り教育」の重要性を理解してくれる人

そうであれば、法律の条文を覚えたり、学説を暗記したりなどという学習よりも、このルール(法文)は何のための、誰のためのルールで、それがないと人はどう困るのか、どう行動してしまうのか、という観点からの学びをしっかり身に付けて(池田「行動立法学序説」〈注1〉参照)、自分が卒業して入って行く社会の構成員をより幸福にできるルールの創り方を学ぶことが大切になるのは当然なのです。

(4)英語力を伸ばす気持ちのある人

そして最後は、この「英語力」のお話です。法律は日本語ができればいいのだと思っている人がいれば、それは間違いです。英語力は、就職一般に必要なだけでなく、公務員試験も最近は「英語加算」といって、TOEICなどのスコアが良い人はそれが試験に加算されるのです。法科大学院入試でも、英語加算があります。つまり、法律を専門として就職するのにも、資格試験等を受けるのにも、英語は必要なのです。受験段階で英語力が高いことがもちろん一番いいのですが、武蔵野大学には、年に数回、TOEICの受験料を補助する制度があり、全学部学科の中で、この制度を使ってのTOEIC受験を最も推奨し、一番多くの学生が受験しているのが法律学科なのです。
以上、武蔵野の法律学科は、「目標」を持って入学する人には、それを支援する仕組みが整っています。ぜひ、「夢」や「目標」を持っている人の受験を期待しています。

大学院法学研究科(ビジネス法務専攻)の研究成果

一方、大学院法学研究科修士課程・後期博士課程は、充実の時を迎えています。2023年3月には、武蔵野大学法学研究所叢書第1巻として、一部学外の弁護士さんなどの寄稿も加えて、13本の論文を掲載した、池田眞朗編『SDGs・ESGとビジネス法務学』(武蔵野大学出版会)を上梓しました。現代の喫緊の課題にいち早く取り組んだ論文集として、他大学や著名弁護士事務所等からも注目されています。

さらに、2023年7月末には、武蔵野大学法学研究所叢書第2巻として、23年2月末に本学で実施したシンポジウムの収録を中心とした、池田眞朗編『検討!ABLと事業成長担保権』(武蔵野大学出版会)を出版します。こちらは現在わが国の民事法学者やビジネス法務の関係者の最大とも言っていい関心事である、担保法制の改正に関する議論をまとめたもので、収録されているシンポジウムは、金融庁、経済産業省、財務省近畿財務局の方々の報告に、学者や弁護士の報告や論稿を加えたもので、このような顔ぶれでの「ビジネス法務学」研究の実践は、日本では他に類を見ないものとなりました。

武蔵野大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻は、金融・担保関係、SDGs・ESG関係、高齢者法関係(9月刊行の武蔵野法学19号に本年3月実施のシンポジウムが収録されます)の3点を重点研究ポイントとしてきましたが、これらについて、武蔵野の大学院法学研究科がわが国の研究拠点として着実に認識されるようになりつつあります。

大学院法学研究科の先進的な試み

その他、わが大学院法学研究科の先進的な試みとしての、実務家教員の養成プロジェクト、科目等履修生の積極的な募集(ことに起業ビジネス法務総合)と法律学科4年生の奨学金(授業料相当)を得ての大学院科目履修、ビジネスマッチング方式での履修方法の選択(教員と院生の合意で遠隔授業等を選べる)、などについては、これまでの有明日記No8までをお読み下さい。
以上、法律学科も法学研究科も、「オンリーワンでナンバーワン」を目指してたゆまぬ努力を続けたいと思います。
〈注1〉池田眞朗「行動立法学序説―民法改正を検証する新時代の民法学の提唱」法学研究(慶應義塾大学)93巻7号(2020年)57頁以下。

関連リンク

【法学部・法学研究科NEWS】
2023.03.17 法学部政治学科の学生6名が「江東区明るい選挙推進委員・教養講座」で研究成果を報告しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20230317-04.html

2022.12.06 司法試験合格者による学長報告会を行いました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20221206-02.html

2022.09.09 法律学科卒業生3名が司法試験に合格しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20220909-02.html

2022.05.31 法律学科1期生から弁護士が2名誕生しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20220531-02.html

2021.12.24 法学研究科長がクメール語翻訳版民法教科書出版の記念講演を行いました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20211224-04.html

2021.11.08 法律学科卒業生が不動産鑑定士試験に合格しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20211108-02.html

2021.06.29 法学研究科は2021年6月に法学研究科SDGs実行宣言を行いました
https://sdgs.musashino-u.ac.jp/news/grad_law_sdgs/

2021.06.19 ダイハツ工業による法律学科・法学研究科ESG関係特別授業を行いました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20210619-01.html

2021.01.21 法律学科の1期生2名が司法試験に合格しました
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2020.12.28 法科大学院合格者数最終発表  国立・私立とも史上最高を更新しました
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2021.02.03 法律学科1期生が司法書士試験に合格しました
https://www.musashino-u.ac.jp/news/20210203-01.html
 
【法学部・法学研究科EVENTS】
2021.03.02 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第3回「高齢者とビジネスと法」Onlineフォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210302-00000591.html

2021.02.16 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第2回 担保法制Onlineフォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210216-00000584.html
 
2021.02.02 法学研究科博士課程開設記念連続フォーラム(オンライン)第1回Online電子契約フォーラム
https://www.musashino-u.ac.jp/event/20210202-00000570.html
 

池田眞朗教授1

池田 眞朗 Masao Ikeda
【プロフィール】
1949年生まれ。博士(法学)(慶應義塾大学)。2020年3月まで、本学副学長・法学部長。現在本学大学院法学研究科長。専門は民法債権法、金融法。現在日仏法学会理事、ABL協会理事長。慶應義塾大学名誉教授。

フランス国立東洋言語文明研究所(旧パリ大学東洋語学校)招聘教授、司法試験(旧・新)考査委員(新司法試験民法主査)、国連国際商取引法委員会国際契約実務作業部会日本代表、日本学術会議法学委員会委員長、金融法学会副理事長等を歴任。

動産債権譲渡特例法、電子記録債権法の立案・立法に関与。主著の『債権譲渡の研究』(当時全4巻)で全国銀行学術研究振興財団賞、福澤賞を受賞。2012年民法学研究功績により紫綬褒章受章。2023年春の叙勲で瑞宝中綬章受章。



【最近の著作・論考】

【著書】
『SDGs・ESGとビジネス法務学』〔武蔵野大学法学研究所叢書第1巻〕(編著、武蔵野大学出版会、2023年)
『検討!ABLと事業成長担保権』〔武蔵野大学法学研究所叢書第2巻〕(編著、武蔵野大学出版会、2023年予定)
『債権譲渡と民法改正』〔債権譲渡の研究第5巻〕(弘文堂、2022年)
『ボワソナード』(日本史リブレット)(山川出版社、2022年)
『ボワソナードとその民法〔増補完結版〕』(慶應義塾大学出版会、2021年)
『スタートライン債権法〔第7版〕』(日本評論社、2020年3月、本学2年生民法3Aから4Bの指定教科書)
『プレステップ法学〔第5版〕』(編著、弘文堂、2023年3月、本学1年生法学1の指定教科書)
『民法Visual Materials〔第3版〕』(編著、有斐閣、2021年3月、本学2年生民法3Aから4Bの指定参考書)
『民法はおもしろい』(2012年、講談社現代新書、本学法律学科入学前教育の推薦書)
『新標準講義民法債権各論〔第2版〕』(慶應義塾大学出版会、2019年)
『新標準講義民法債権総論〔全訂3版〕』(慶應義塾大学出版会、2019年)
『民法への招待〔第6版〕』(税務経理協会、2020年)
『民法的精義』(朱大明=金安妮他訳による上記『民法への招待』の中国語版)(清華大学出版社、2020年)

【論文等】
「新世代法学部教育の実践―今、日本の教育に求められているもの①~⑥」 書斎の窓(有斐閣) 643号~648号(2016年1月~2016年11月)
「行動立法学序説―民法改正を検証する新時代の民法学の提唱」法学研究(慶應義塾大学)93巻7号(2020年9月)
「民法改正案債権譲渡部分逐条解説―検討と問題点」慶應法学(慶應義塾大学法科大学院)36号(2016年12月)
「日本法学教育史再考―新世代法学部教育の探求のために」武蔵野法学 (武蔵野大学法学部)5・6号(2017年2月)
「民法改正法の解説と施行までの留意点」税経通信(税務経理協会)72巻13号(2017年11月)
「日本の金融法制の現状と展望―金融イノベーションと規制の観点から」(中国清華大学国際シンポジウム講演記録)SFJジャーナル(流動化・証券化協議会)16号(2018年2月)
「日本民法典の発展過程――ボワソナード旧民法典から二〇二〇年施行の債権関係大改正まで」二宮正人先生古稀記念『日本とブラジルからみた比較法』信山社 2019年7月
「民法(債権法)の全体像とその改正の概要」税経通信 2019年12月号
※池田先生の著書『民法はおもしろい』(2012年、講談社現代新書)は、これまで、国立・私立の2校の大学の入学試験で現代国語の問題に使用されました。

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