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学問の地平から 教員が語る、研究の最前線

第80回 数理シミュレーション学 工学部 数理工学科 高石 武史 教授

「面白い!」を追いかけることで研究の可能性を広げていく

工学部 数理工学科 教授

高石 武史Takaishi Takeshi

新潟大学理学部物理学科卒業。大阪大学大学院工学研究科電磁エネルギー工学専攻修了後に電機メーカー に就職。研究開発部門で働いた後、大学院時代から関わりがあった広島大学理学研究科の博士後期課程で「パターン形成」など数理シミュレーションの研究を手がける。広島国際学院大学工学部教授などを経て、2018年4月より現職。

大学時代は「物理学」を専攻していた高石武史教授ですが、現在は主に数理モデルや数理シミュレーションを中心とした数理学分野の研究に取り組んでいます。研究の面白さは「一見異なる現象の中に共通する仕組みを見つけること」と話す高石教授。現在は建築・土木など他分野の研究者と積極的に連携し、次々と新しい研究の可能性に挑戦しています。

研究の背景

「プラズマ」の研究から「パターン形成」へ

これから大学に入学しようと考える皆さんの中には、「大学ではどうやって研究テーマを見つけるのだろう?」と気になっている人も多いと思います。そこでまず私がどうして現在の研究活動にたどり着いたのか、昔のことを思い出しながら順番にできるだけ分かりやすくお話ししましょう。

大学時代、私は物理学科でプラズマ現象の研究をしていました。プラズマとは気体に高い熱やエネルギーが加わり、原子から電子が飛び出してイオンと電子が自由に動き回る現象で、自然界では雷、オーロラや太陽の表面などがそうですし、さらに蛍光灯の内部など身近な現象でもあります。大学院に進むと、研究手法として使っていた「数値シミュレーション」に興味を持つようになりました。これはコンピュータでリアルな現象を再現したり、予測したりする技法です。その後、当時世界最先端のコンピュータ・シミュレーション環境が整っていた広島大学で、国内や海外の第1線で活躍する研究者たちからの交流を通してたくさんの刺激をもらいながら研究を続けました。そこで出会ったのが「パターン形成」という、自然が生む美しいパターンなどはどうやってできるのかを数理モデルを使ってコンピュータ上で再現しながら、その背後にある仕組みを解明していく研究でした。

大学院修士課程修了後、一度は電機メーカーに就職しました。ものづくりの現場はとてもやりがいもあり、学部や大学院で学んだ知識も十分生かせたのですが、どうしても研究の面白さが忘れられず、最終的には博士後期課程に戻ることを決めました。その後、広島の大学で24年間にわたり学生に数学を教えながら、主にパターン形成に関する研究を続けてきました。

研究について

身近な現象を数理モデルで捉える

現在、私が一番力を入れているのは、材料の破壊(き裂が進む現象)をフェーズフィールドモデルという方法でシミュレーションすることです。この研究に取り組むきっかけは、海外から帰国した知人が教えてくれた「材料のき裂進展」のモデルでした。材料がエネルギーをできるだけ小さくするようにして割れていく様子を表すそのモデルは、面白いことにパターン形成でよく使われる「フェーズフィールド」という手法そのものでした。割れている部分と割れていない部分を、ひとつの変数でなめらかに表現する考え方です。ただし、材料の変形やき裂の場所をいろいろ変えながら「一番エネルギーが低い状態」を探すのは現在のコンピュータを使っても簡単ではありません。そこで「エネルギーが時間とともに少しずつ減っていくように方程式を書き直せば、計算がしやすくなるのでは?」と思いつきました。知人と一緒にアイデアを形にし、週末には先輩の研究室を借りて二人で集中して作業を進めました。すると2か月ほどで、実際にき裂がどんどん広がっていく様子をシミュレーションできるようになったのです。き裂の進展がモニターでリアルに確認できた時のうれしさは、今でも忘れられません。その後、粘弾性材料の破壊や、金属が水素で脆くなる現象など、さまざまな破壊のモデルを手がけてきました。

「何かが割れる」という現象は、実は私たちの周りにたくさんあります。ビルの壁のひび割れ、地面の地割れ、車のフロントガラスのひび……。普段は気に留めないけれど、ちょっと意識すると、いろんなところで起きていることに気づきます。そうした身近な現象を数理モデルとして捉えると、この世界の見え方が少し変わってきます。それがこの研究の大きな魅力だと私は思います。

他分野の研究者とのコラボレーション

▲OYAKI FARM

近年は専門分野の異なる研究者と協力しながらさまざまなフィールドでの研究にも取り組んでいます。例えば建築分野の研究者の方々と連携し、現場での実験を取り入れた共同研究を行っています。日本の伝統的な建築に見られる土壁は、環境負荷が小さい材料として再評価されています。私は建築家や構造設計の研究者が設計・建築した建物を対象に、強い暑さや寒さといった過酷な温度環境の中で、内部構造がどのように機能し、損傷や劣化を防いでいるのかを、数理モデルやコンピュータ・シミュレーションを駆使して「破壊」という視点から評価する研究を進めました。その成果が長野県の名物である「おやき」メーカーが開設した工場併設店舗「OYAKI FARM(おやきファーム)」(長野県長野市)のエントランスの解析です。この施設の土壁は建設残土を突き固めたもので、内部に空洞を設けることで、寒暖差の大きな信州の厳しい気候に耐える工夫が施されています。もし信州旅行の機会があればぜひ訪れてみてください。

さらに昨年からは、新たに河川制御に関する土木分野の研究プロジェクトにも参加しています。近年、気候変動の影響により全国的に豪雨の発生が増加しており、多大な被害をもたらしています。人間は自然災害を完全に防ぐことはできませんが、災害時の被害をできるだけ小さくする「減災」なら十分可能です。

私たちのプロジェクトは河岸に設置する突起状の構造物(拡縮構造物)を工夫することで、川の水流を整え、洪水の被害軽減を図る「減災」を目的として、実際の河川での検証も行っていきます。私は最適な構造物の設置箇所を決めるための大規模流体シミュレーションを担当しています。そのためにスーパーコンピュータによって膨大な水の動きを計算しながら、どのような形状や配置が最も効果的なのかを探っています。

今後の展望

他分野との交流を通して新しい可能性に挑戦

現在取り組んでいるプロジェクトを通して建築や土木など自分とは異なる専門分野の知見に接することは実に興味深く、私自身とても楽しく仕事ができています。そして何より自分のやっていることが現実の社会課題の解決につながっていく実感を味わえることは研究者としての大きな喜びです。
パターン形成の数理モデルとの類似性から始めた「材料のき裂進展」研究は、今後より幅広い現象の理解へと広げていきたいと考えています。

また河川に関する研究も大きな発展の可能性を感じている分野です。川の流れは一見すると不規則で複雑に見えますが、蛇行する川の形や流れの変化には、実は一定の法則性があります。流体の動きと地形の変化が互いに影響し合いながら新しい形を生み出していく様子は、パターン形成の観点から見ても非常に興味深い現象です。

物理から数理、さらに建築や土木の領域へ――私自身の研究は、興味をきっかけに少しずつ分野を越えて広がってきました。これからも「一見異なって見える現象の中に、数理によって共通する仕組みを見つける」という視点を大切にしながら、新しい研究の可能性に挑戦していきたいと思っています。

教育

「わくわく」とたくさん出会うために

私の研究室にはコンピュータ・シミュレーションに関心がある学生が多く集まっています。学生の研究テーマはじつに多彩で、例えば高校時代剣道部だった学生は『剣道の竹刀がどのように折れるか』、卓球部の学生は『卓球のボールの回転と空気抵抗』、またバンド活動をしている学生は『ライブハウスのPAスピーカーの音は場所によってどのように聞こえるか』をそれぞれ研究テーマにしていました。また有明キャンパス周辺の“ビル風”を風力計と国交省の3D都市モデルを使ってシミュレーションした学生もいました。

楽しそうに研究に取り組む学生を見るのは教員として大きな喜びです。学生たちには新しいことを知る楽しさ、わくわくする気持ちを大切にしてほしいと願っています。

“わくわく”とより多く出会うコツは、苦手意識を持たないことです。もちろん誰にでも“苦手”と思うことはありますが、すぐに嫌いになる必要はないと私は思っていて、折に触れて学生にもそう伝えています。たとえ今難しく感じても、いつか“面白さ”に気づくタイミングは必ず訪れるはずです。自分の将来の選択肢を狭めないためにも、ぜひ「苦手であっても嫌いにならない努力」をしてみてほしいと願っています。私ぐらい年を重ねてもわくわくする体験は尽きないのですから。

どこでも「メモ」のススメ

ちょっとアナログなアドバイスなのですが、学生たちには「メモ」を取る習慣を勧めています。自分自身は電車に乗っている時やお風呂に入った時など、ふとした時に面白いアイデアを思いつくことがあるのですが、帰宅すると忘れてしまって残念な思いをしたことが度々あります。他の作業が途中に入っただけでも忘れてしまうことはありますので、気づいた時にメモを取る習慣は大切だと思います。手と目を使って確認したことはしっかり頭に残るはずですから。

人となり

「聞く」&「吹く」を通して音楽を愛しています

趣味は音楽鑑賞で、学生時代から買いためたCDが数百枚あります。最近はさすがに置き場所に困るようになり、増やさないように気をつけています。いろいろなジャンルの曲を、その日の気分で眠る前に聞いています。月に1度くらいはコンサートで生演奏を楽しんでいます。

また、聞くだけに留まらず大学院時代から楽器演奏をたしなんでいます。特に尺八やサックスなど「吹く」楽器がお気に入りです。なかなか練習時間が取れないので上達しないのが悩みなのですが、一人で吹いていてもそこそこ満足感を味わえますし、他の人と一緒に演奏できる機会があればもっと楽しいです。

▲サックスを構える先生
▲尺八は研究室で1曲披露してくださいました

子どもの頃から電子工作マニア

音楽以外ではコンピュータや電子工作が趣味です。小学生の頃は『子供の科学』という雑誌に掲載されていた回路図を参考にラジオなどを作っていました。故郷の新潟県長岡市には、当時一軒だけ電子パーツ屋さんがあって材料はそこで手に入れていました。広島に住んでいた頃には社会人の方のIT勉強会に参加し、開催の協力をしたこともあります。自分にはないスキルを持った工作仲間と交流するのはとても刺激的でした。

最近はネットにつながる小さなコンピュータ(いわゆるIoT機器開発用の電子部品)が簡単に入手できるようになったので、コロナ禍の際には血中酸素濃度を測る装置を作ったりしていました。ただ最近は加齢による視力低下で、細かいはんだ付けが難しくなってきたのが残念です。

▲先生が作った血中酸素濃度を測る装置。濃度に応じて招き猫の腕が動く仕組み
▲手の動きを読み取って、それに合わせたメッセージが表示される装置。
メッセージは先生が好きなスターウォーズのネタで“May the force be with you”,“I have a bad feeling about this”などがある

読者へのメッセージ

研究というのは、時には予想外の方向に広がっていくものです。私自身も物理から数理へ、そして自然のパターンから破壊現象へ、と進んできました。今後も「これ、面白いかも!」と思ったものを追いかけながら、専門の壁を越えて新しいつながりを見つけていきたいと思っています。受験生の皆さんも、大学に入ったらぜひ、自分の「なぜ?」を大切にしてください。き裂も、川の蛇行も、最初は小さな疑問から始まっています。その疑問が、いつか大きな研究の流れになるかもしれません。大学という自由で恵まれた環境を存分に利用してそれぞれの「面白さ」を追求していきましょう!




取材日:2026年2月

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