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学問の地平から 教員が語る、研究の最前線

第84回 データサイエンス学 データサイエンス学部 データサイエンス学科 清木 康 教授

記憶と意味解釈を実現するデータベースシステムへの挑戦

データサイエンス学部 データサイエンス学科 教授

清木 康Kiyoki Yasushi

慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。データマイニングやマルチメディア知識ベース、セマンティック・コンピューティング、AIの研究に取り組み、「5次元世界地図システム(5D World Map System)」の開発を主導してきた。筑波大学、慶應義塾大学(SFC)を経て、2021年より武蔵野大学データサイエンス学部長・教授に就任。現在はデータサイエンス研究科長、アジアAI研究所長、通信教育部国際データサイエンス学部の学部長も務め、情報科学関係の国際会議の委員等も歴任している。

学生時代から人間の「知能」に魅せられ、データベースシステム研究一筋に歩んできた清木康教授。人間の記憶・想起の仕組みを情報システムに取り込み、コンピュータに「意味」を理解させるセマンティック・コンピューティングを追究しています。その成果の一つが「5次元世界地図システム」。環境分析や災害対応、海洋保全などに広く活用されています。武蔵野大学では「データサイエンスの楽しさを伝える授業で学生の想像力と創造力を伸ばしたい」と次世代を育てる教育に情熱を注いでいます。

研究の背景

学生時代から「知能」に関心を抱く

データサイエンスの研究分野は非常に広大です。その中で私の専門は「データベースシステム」と位置づけられます。特に知識ベースやデータマイニング(大量のデータから規則性・傾向・関連性など有用な知識を抽出する技術)を対象に、データベース上で高度で知的な計算を実現する仕組みの設計に取り組んでいます。私は高校生の頃から人間の「知能」に強い関心を抱いていました。人間はなぜ知能を持つのか。そのメカニズムはどのように働いているのか——。大学では工学部電気工学科に進学し、そこで出会ったのが人工知能、すなわち「コンピュータ」でした。当時(1970年代後半)はコンピュータサイエンスがまだ発展途上であり、コンピュータの性能、記憶は現在の水準から見れば低速で小規模でした。それでも、むしろその未熟さゆえに大きな可能性を感じ、コンピュータサイエンスの研究室に所属しました。ハードウェアのアーキテクチャ、オペレーティングシステム、ネットワークなどさまざまな領域がある中で、私は「知能」の探求のために「データベース」の研究を選びました。学部4年生の時、国際標準のデータベース言語であるSQL(Structured Query Language)を対象として、研究室の仲間と共に初めてその言語処理系を実現し、データベースシステムを構築しました。システムが無事稼働した瞬間の感動は今も鮮明に覚えています。その勢いのまま大学院修士課程・博士課程へと進み、以後一貫してデータベースシステムの研究を続けてきました。

近年、AIの急速な普及が進んでいますが、私の研究も本質的には「賢く計算するためのメカニズム」を探るものです。具体的には、情報システムを人間の記憶の仕組みに近づけることを目指しています。情報をどのように記憶・蓄積し、必要に応じて記憶想起するのか——そのプロセスをシステム上で再現・高度化することが、主な研究テーマです。

研究について

「意味」を理解することができるシステムを目指す

情報システムは多種多様な事象を広く記録・検索できる強みを持っています。しかし、その記憶や想起の柔軟性・精度は、いまだ人間の能力に及びません。そこで、人間の記憶・想起の仕組みを大規模な情報環境に適用し、より高度な記憶系を実現する研究を進めています。
現在のAIは人間の脳の働きにまだ遠く及ばない一方で、特定の分野では優れた能力を発揮します。私たちは今後、人間とAIがそれぞれの強みを生かして共存していく時代を迎えるでしょう。その中で私が取り組んでいるのは、コンピュータが情報に含まれる「意味(Semantics)」を理解できるようにする「セマンティック・コンピューティング」の研究です。人間は言葉を単なる文字列として処理しているわけではありません。状況・環境・文脈に応じて、同じ言葉でも複数の意味を柔軟に解釈します。例えば「ブルー」という言葉は、単に色を指す場合もあれば、信号の「進め」、海や空のイメージ、または「憂うつ」といった感情を表す場合もあります。このような人間特有の柔軟な記憶と理解の仕組みを、情報システムの中で実現することが私の研究の大きな目標です。

もちろん容易な課題ではなく、現在の技術では越えられない壁にぶつかることも少なくありません。しかし技術の進展とともに着実に前進しており、セマンティック・コンピューティング分野で複数の米国特許を取得し、世界中に研究パートナーが広がっています。そして意味を理解するコンピュータの研究を深めるほど、人間の脳の素晴らしさを改めて実感し、それがさらなる研究意欲につながっています。

時間と意味を加えた「5次元世界地図システム」を開発

セマンティック・コンピューティングの一環として、研究室のメンバーと共に、環境分析や災害情報共有、分析などに活用できる「5次元世界地図システム(5D World Map System)」を開発しました。これは通常の地図(2次元:平面)や3D地図に、「時間軸(4次元):時系列変化」と「意味軸(5次元):多次元的な意味空間」を加えた知識共有型のプラットフォーム。「5次元」化により、単なる地図ではなく、変化する地球環境を多角的に理解できるシステムとなっています。

▲セマンティック・コンピューティング、5次元世界地図システムの研究論文を公表する学術誌

このシステムにより、世界中に分散する環境データ、研究成果、画像・動画・音声などのマルチメディア情報を統合し、それらをグローバルに活用できる形で整理・提供します。このシステムの特徴は、分散した情報を一括して集約・共有・統合・探索・分析できる点にあります。さらにデータを自動解析して意味づけ(メタデータ化)し、異なる情報を組み合わせた「知識」として表現します。得られた情報は地図上で視覚的に表示され、外部発信も可能です。また、画像や音声などの感覚情報からの検索機能も備えています。

現在、「5次元世界地図システム」は国際機関や海外の大学・研究機関とも連携し、都市や海洋分野での環境分析・可視化に活用されるなど、地球規模の課題解決に貢献するデータベースとして注目されています。

今後の展望

美しいサンゴ礁を守るためのシステム稼働中!

「5次元世界地図システム」の新たな展開として、海洋環境保全に特化した「グローバル環境知識ベースシステム」の構築に取り組んでいます。このシステムは、画像・映像・音声・位置情報・時間情報・行動データなど多様な情報を統合し、分野や地域を超えた知識の集約・共有・統合・探索・分析を目指します。世界各地で収集された海洋環境データを結び付けることで、海の状態や変化を広範な視点から把握できます。例えば、沿岸住民や研究者が撮影した画像を統合することで、森林火災や海洋プラスチック汚染などの課題に対し、地域と地球全体の両視点から対策を検討することが可能になります。

具体例として、サンゴ礁の健康状態を画像から自動分析し、判定結果を蓄積・可視化する仕組みを導入しています。これによりサンゴ劣化の進行状況や地域ごとの変化を直感的に把握でき、回復のための人的介入もシステムで総合的に判断できます。

▲5次元世界地図システムを活用し、世界各地から集まる画像データからサンゴ礁の健康状態を自動分析・可視化

今後はマングローブ林やサンゴ礁などの重要生態系を対象に、インドネシアやタイ、フィンランドなどの大学研究者と協力しながら実装を進めていきます。美しい海が大好きな私にとって、データサイエンスの力を海洋環境の改善につなげることは大きなやりがいとなっています。

▲Maldiveでのダイビング:珊瑚礁での珊瑚、熱帯魚生態系観察

教育

大切なのは「イマジネーション&クリエーション」

私はコンピュータサイエンスやデータサイエンスの「楽しさ」を学生に伝えたいと思い、日々教育に取り組んでいます。テクノロジーだけでなく、社会科学や人文科学の側からこの分野へ入ることも可能です。学問の基礎を学ぶことは大変重要ですが、それらはスタートラインに過ぎません。大切なのは、それらの知識を基に一人ひとりが想像力と創造力を発揮し、新しい方法や仕組みを生み出すことです。そしてそれはとても楽しい営みです。学生に「データサイエンスは楽しい」「武蔵野大学データサイエンス学部でしかできない経験ができた」と思ってもらえるよう、私自身もイマジネーション&クリエーションを大切にした講義・ゼミを目指しています。

通信教育部で「国際データサイエンス学部」をスタート

2026年4月、通信教育部に「国際データサイエンス学部」を開設しました。最先端のAI知識とスキルを身に付け、ビッグデータを分析し、グローバル社会で活躍する次世代データサイエンティストの育成を目指しています。全国・海外からの受講が可能で、翻訳システムにより英語・日本語のいずれでも学べます。また大卒社会人向けの4年次編入では、最短2年(学部1年+修士1年)で修士号取得が可能な計画です。「いつでも」「どこでも」「だれでも」「グローバルな」データサイエンスを学べる画期的な学部です。ぜひ多くの方に挑戦していただきたいと思っています。



▲タイの国立大学、モンクット王工科大学ラートクラバン校にて

人となり

趣味のテニスで「勝負カン」を養う

研究者として長く元気に活動するためには健康が不可欠です。私は研究者になりたての頃から約40年間、硬式テニスを続けています。今も週2回ほどコートに立ち、汗を流しています。テニスは単に楽しいだけでなく、研究者としてのメンタリティやコンペで勝ち抜く「勝負カン」を養うのに最適なスポーツだと感じています。

「ナベサダ」の旋律から新しいアイデアが生まれる

▲研究仲間とBlueNote Tokyoでの渡辺貞夫ジャズコンサートにて

論文執筆時にはジャズが欠かせません。特に渡辺貞夫(ナベサダ)氏の音楽が大好きで、コンサートにも足を運びます。新しいアイデアを考えたり、論文に集中したいときは彼の曲をBGMにすると、不思議と創造的な発想が浮かびます。代表曲「My Dear Life」を聴くと、自分の人生を大切に生きることの重要性を改めて感じさせられます。

「ビッグ・ヒストリー」で人類文明の本質を探る

最近は地球科学雑誌や宇宙科学雑誌、特に「ビッグ・ヒストリー」関連の書籍を好んで読みます。宇宙の誕生から人類文明の興亡までを俯瞰する視点は刺激的です。古代文明の崩壊要因の一つがイノベーションの停滞だったことを知り、人類の最大の価値は時代を変えるイノベーションにあると改めて実感しています。学生の皆さんにもぜひおすすめします。

読者へのメッセージ

データサイエンスは、単にデータを分析する技術ではなく、人間の脳や知的活動そのものを探究する学問です。特に、人間が持つイマジネーション(想像力)とクリエーション(創造力)がどのような仕組みで生まれるのかを解明し、それをコンピュータやAIで再現しようとする点に大きな魅力があります。

人間は過去の経験や知識を柔軟に結び付け、新しい価値を生み出します。この高度な知的活動を情報システムでどのように実現できるか——それが私の研究課題です。現在は特に、持続可能な自然や社会の実現に向け、自然環境・社会環境分野への応用に力を入れています。データサイエンスとAIを活用して、より良い未来を創る挑戦にぜひ一緒に取り組みましょう。武蔵野大学「データサイエンス学部」「国際データサイエンス学部」でお待ちしています。




取材日:2026年4月

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