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学問の地平から 教員が語る、研究の最前線

第91回 政治心理学 法学部 政治学科 山﨑 新 准教授

有権者を取り巻く情報と政治意識の関係を捉える

法学部 政治学科 准教授

山﨑 新Yamazaki Arata

明治学院大学法学部政治学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。武蔵野大学法学部政治学科講師を経て、2026年4月より現職。専門は選挙制度、投票行動。

私たちは選挙で一票を投じる時、さまざまな媒体から情報や知識を得て、意思決定を行います。今、その情報源は多様化し、特にインターネットやSNSからの情報は、その功罪を含めて大きな議論を呼んでいます。選挙や有権者の政治意識に関心を持つ山﨑先生は、世論調査などの結果を元に、近年の情報環境の変化と政治意識の関係、若年層の政治意識に注目した研究に取り組んでいます。

研究の背景

政治的知識のリソースに起きた変化

選挙制度や人々の投票行動に興味を持ったきっかけは、アルバイトで塾の講師をしていた大学生・大学院生時代にさかのぼります。高校3年生に「政治・経済」を教えていたのですが、生徒たちの政治や経済に関する知識不足が強く印象に残りました。彼らが2年後(当時)に有権者になったら一体どうなるのか、という危惧も含め、選挙や有権者の政治意識に関心を抱くようになったのはその時です。

大学院時代は「有権者の政治に関する知識」を中心に研究していました。政治に関する知識のリソースには、教育、マスメディアなどがあり、かつて政治への関心が高く知識もある「政治的に洗練された有権者」は、新聞に対する接触が大きな要素の1つでした。ところが近年の調査では、そうした人の情報源としてインターネットの割合が増え、マスメディアとWEBメディアやSNSなどインターネット上の情報の両方に接触するようになったことが示唆されています。現在は、こうした情報リソースに起きている変化に目を向けて研究を行っています。

研究について

インターネットの台頭と有権者の政治意識

今関心を持っているテーマは、大きく二つあります。一つ目は、めまぐるしく変化する情報環境と有権者の政治意識に関する研究です。
政治に関する知識のリソースとしてのメディアは、近年大きく変容しています。特にSNSの台頭により、人々が得る情報の経路や内容が変化していることから、そうした情報環境と政治意識の関連を解明することが、現代政治を説明する上では必須になると考えています。

政治に関してインターネット、特にSNSを情報源とすることには、いくつかの問題があると考えています。まず、自分の好きな情報だけを受け取る「選択的接触」が起こりやすいという問題です。フィルターバブル(アルゴリズムによって自分に興味のある情報や似た意見だけが届けられること)やエコーチェンバー(集団の中で自分に似た意見を繰り返し聞くことで、その意見が強化・増幅されてしまうこと)による極化の危険性はよく指摘されている通りで、現在のアメリカや世界の情勢を見ると、そのような影響が出てきていることが示唆されているかと思います。

もう一つの大きな問題は、フェイクです。私たちは今、フェイク情報を完全に避ける術を持ち得ておらず、今後フェイクは“所与のもの”として考えていく必要があります。さらに、ネット上の情報がフェイクかどうかを判断する際、従来は「マスメディアが報道しない=フェイクかもしれない」と考えるのが一般的でした。ところが最近SNS上では、ネット上の情報を新聞やテレビが報じていないと、「フェイクかもしれない」ではなく、「マスメディアが情報を隠している」とする言説が飛び交っています。こうした時代において、有権者がどんな経路で、どんな内容の情報を得て、どんな政治的判断を下すのかに興味を持ち、注目しています。

SNS世代の政治意識の特徴を探る

研究テーマの二つ目は「若年層の政治意識」です。今、社会には、新聞やテレビ(ニュース番組)をほぼ見ない、つまりマスメディアから得る情報が極端に少ない世代が誕生しつつあります。彼らは政治や選挙に関する情報をもっぱらネットから得ることになりますが、一つ目の研究の紹介でも触れたように、SNSを通して目にする情報は質も量も偏りやすいという性質を持ちます。そうした情報源をメインとする世代が、有権者としてどんな特徴を持つのかを考えることは、今後の政治状況を捉える上で有用だと考えています。
また、私の担当科目「選挙特殊研究」では、江東区選挙管理委員会との連携プロジェクトに取り組み、毎年区内の新有権者に対してアンケート調査を実施しています。その調査に絡めて、授業を一緒に担当している髙橋侑生先生と興味を持っているのが「シルバーデモクラシー」という概念です。

シルバーデモクラシーは、「有権者に占める割合が高い高齢者に向けた政策が優先される現象」とされ、「少数派の若年層はないがしろにされている」という批判を込めて使われることの多い言葉です。しかし「高齢者向けの政策」や「若者向けの政策」は、本当に存在するのでしょうか。

たとえば私が学生に「君たちが考える“若者向けの政策”ってどういうもの?」と聞くと、よく「教育の無償化」という答えが返ってきます。しかし、多くの学生は保護者に学費を払ってもらっていますから、無償化は若者よりも保護者世代にメリットのある政策です。それは果たして“若者向け”と言えるでしょうか。あるいは「高齢者への社会保障をカットして、若者世代の負担を減らす」という政策はどうでしょう。たしかに社会保障費の負担は減るかもしれませんが、将来年金や医療保険が手薄になる可能性があるので、早くから自力で老後資金を蓄えておく必要があるかもしれません。生涯を通して考えれば、社会保障をしっかり受けられる社会の方が、負担が軽く済む可能性もあります。

“高齢者向けの政策”は本当に若年層の不利益になるのか。“若年層向けの政策”の真の受益者は誰か。そうした検証を抜きにして語られるシルバーデモクラシー論は、単に世代間対立を煽るだけのものに過ぎません。若年層の高齢者層に対する意識、若年層に普遍的な政治的行動や意識はあるのかなどを含め、アカデミックに検証してみたいと思っています。

今後の展望

10年間の世論調査から変化の実態を捉えたい

新聞社が毎年実施する世論調査に関わり始めて今年で10年を迎え、この記事で紹介してきたテーマに関する質問への回答データも蓄積されています。今後、そうしたデータを分析し、成果を公表していきたいと考えています。また、その実態解明の過程で、政治意識研究に貢献できる発見があればと思っています。

▲先生の著書

この世論調査では昨年、情報環境と投票行動に関する興味深い変化が見られました。主にインターネット上で政治的情報を得ている人たちの投票行動について、一昨年までは一貫して「インターネット以外から情報を得ている層に比べて、実際に投票に行く人の割合が低い」という結果でしたが、昨年初めてそのバランスが変わり、インターネットから情報を得ている人とそうではない人の差がなくなったのです。こうしたダイナミクスはとても興味深く、10年調査を続けてきてよかったと実感しています。おそらくこの先私たちを待っているのは、「全ての有権者が少なからずインターネットを使う」時代です。そうした時代の政治や選挙では、一体どのような状況が生まれるのか、興味を持って追い掛けていきたいですね。

教育

“覚えた上で考えること”の重要性を伝える

先に紹介した「選挙特殊研究」のほか、「日本政治論基礎」「政治心理学」などの授業を担当していますが、各授業で学生に強く伝えているのは、今後の社会では“考えること”がより重要になるということ、そして世の中に対する関心を持つことの大切さです。
これまで企業や社会で“大卒の付加価値”として考えられていたことの多くは、今後AIに代替されていきます。AIが発達した社会でも、人間がやるべきことは多く残されていますが、それを支えるのが考える力であることは言うまでもありません。
考えることの土台になるのは、記憶や知識です。よほどの天才でない限り、人は自分の経験、記憶、知識から帰納的に物事を考えます。つまり、記憶や知識をどれだけ蓄積しているかによって、考えられることの幅が変わるのです。「わざわざ記憶しなくてもスマホで調べればいい」という人もいますが、逐一調べていては非効率ですし、考える力の土台が築けません。“覚えるべきことは覚え、その上で考える”というステップを大学生のうちに学んでもらうため、講義の内容を前提としてどう考えるかを問う課題を出すよう意識しています。

また、1年生の「初年次ゼミ」では、世の中に関心を持つきっかけづくりとして、最近気になったニュースを一人10分間プレゼンしてもらっています。ニュースに目を向け、背景や関連する出来事を調べ、分かりやすく人に伝える。その一連の流れを通して、社会の動きを意識する習慣を身に付けてほしいですね。私も、政治の分野に限らず面白いと思ったニュースは学生に共有し、「どう思う?」と問いかけて社会について考える機会をつくっています。

人となり

餃子づくりには自信あり

趣味と言えるものはあまりないのですが、昔からよく料理を作っています。小学生の時から、母が帰ってくるまでにご飯だけ炊いておいたよ、味噌汁だけ作っておいたよ、みたいなお手伝いをしていて、中学生になった頃には晩ご飯のおかずに出てくるような料理は一通り作れるようになりました。

▲先生こだわりの手作り餃子

得意料理は餃子ですね。シャキシャキ感が欲しいのでタケノコを入れるのがこだわりと言えばこだわりですが、それ以外は冷蔵庫の中身や気分次第で変えています。挽き肉がたくさんあったら肉多めだし、野菜が残っていたら野菜多め、味付けも目分量で、毎回ちょっとずつ違うものができます。高校時代、アメリカでホームステイ中に「何か作って」と頼まれた時も餃子を振る舞いました。ホストファミリーの家族が11人いたので80個くらい作ったかな。
振り返ってみると、母の手伝いのスタートが餃子を包むことだったんですよね。「包むだけ」から始まって、「中に何が入ってるんだ?」「野菜さえ切れば作れるじゃん?」とだんだん進歩していった気がします。ちゃんとした料理を作れるようになったのは、餃子が初めてかもしれません。

選挙に行ったのは人生で1度だけ

選挙の研究をしていると「選挙に行かない人ってどう思いますか?」とよく聞かれますが、私も選挙には行きません。行ったのは、大学院に入った頃に一度きり。私の場合は投票行動や有権者の心理を追究するという研究者という立場において、投票に行くこと(特定の候補者・政党に投票すること)によって、純粋な調査・観察ができなくなりそうな感覚を持ってしまったからです。自分にバイアスをかけたくない意識を持っている、ということです。ただ、私のような人は当然珍しいのですが、そうでない若年層もなかなか投票に行かない。しかし、それも実は仕方がないことで、彼らにはシンプルに投票するメリットがあまりないんです。社会に出れば、たとえば自分がいる業界の利益と政策のつながりが見えてきたりして、「行く要因」ができることがある。でも大学生はそういうことがないし、時間と手間というコストだけがかかるので、あまり行かないんだと思います。

ところが、18歳で選挙権を持った直後は、みんな選挙に行くんですよね。年齢別の投票率を見ると18歳はすごく高くて、19歳でガクンと落ちる。この現象は「19歳の壁」と言われていて、みなさん割と「19歳で落ちること」を問題視するんですが、むしろ「18歳が高いこと」の方が不思議なんです。「権利を得たから行使してみるか」というある種のお祭り感覚なのかもしれませんが、なぜ18歳の時だけ行くのか、その時だけ政治意識が活性化するのか、ということには興味がありますね。

読者へのメッセージ

選挙において一番重要なのは「自分の選好を表現できること」、つまり自分が望む社会や利益を体現してくれる候補者や政党にきちんと投票できるか、自分が持っている態度と一致する投票ができるか、ということです。そのためには、やはり情報を意識的にいろいろな媒体から取る意識を持っていただきたいですね。一つのメディアが全てを語ることはありません。いろいろなメディアに目を通して、自分なりの判断ができること、さらにその判断に基づいた一票が集積されることが、より良い社会をつくるのではないでしょうか。




取材日:2026年7月

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