たとえば、日本語で「三万年」と言うときの3つの「ン」がそれぞれ違う「音」であることに気づいていましたか? それぞれ[ m ][ n ][ ɴ ]と違う「音」なのですが、日本語ではそれらを“同じ音”=「ン」として認識し扱っています。音声学的には違った「音」であっても、各言語でその扱い方が違ってくる。こうしたことへの“気づき”が「音声学・音韻論」の面白さの始まりです。“違い”の意識化は、母語への内省、英語や中国語など他言語の学習向上、さらには学習者の発音指導などにも役立ちます。それゆえ「音声学」は、日本語教師を目指す皆さんにはぜひ学んでいただきたい学問なのです。また、「音声」についての“気づき”は、さまざまな分野に興味を広げてくれます。声優や声楽家、歌手の魅力的な声の秘密は? 管楽器と発声の共通点は?……などなど。「音声」や「音」の物理的、生理的な実体に“気づく”と、周りの「音」と「知識」がとたんにリンクして、知的好奇心がワクワクし始めます。そんな“気づき”から言語や文化を捉えて、世界へ「日本語・日本文化」を発信できる“人財”となってほしい、これが私が「音声学」を通じて伝えているメッセージです。