数学を探せ!
「パターンに潜む数理」
ところで、この拡散現象と化学反応による説明に基づいてパターンが形成される様子を再現するにはどのようにすればよいのでしょうか?一つの方法として、微分方程式を使って現象を定式化(数理モデル化)し、計算機で計算するという手法が挙げられます。今回は、反応拡散系と呼ばれる連立の微分方程式を用いて、化学物質の濃度の各時刻における場所ごとの変化を記述し、化学物質の濃度が場所ごとにどのようになっているかを計算機に計算させます。ここでは、反応拡散系の一つとして知られているGray-Scottモデルを紹介します。
数学のどの領域の話か
さらに、計算機に微分方程式を計算させるために 数値解析という分野の知識も必要となります。計算機は、微分方程式を直接計算することが出来ません。そこで、計算機が計算できるように、微分方程式を離散化する必要があります。この離散化という操作で差分方程式が得られるのですが、この差分方程式は、高校数学の 数列の単元で学習する漸化式の複雑なものとなっています。つまり、漸化式を計算することでパターンが形成される様子を観察できるのです。
数式を用いた解説
写真に使われている数式
$\displaystyle \begin{align} \cases{ \eqalign{ u_n^{s+1} &= \frac{m_u(u_n^s)+\delta \left(m_u(u_n^s)w_n^{s+1} +a \right)}{ 1+\delta \left\{ \left(w_n^{s+1}\right)^2 +a+1 \right\}} \cr w_n^{s+1} &= \frac {m_w(w_n^s)+\delta\left\{ m_u(u_n^s)\left( m_w(w_n^s)^2 +1\right) +b\ \right\}}{1+\delta \left(2m_u(u^s_n)+b\right)} } }\tag{ii}\\ \end{align} $
$$\displaystyle m_u(u_n^s)= \frac{u_{n+1}^{s}+u_{n-1}^{s}}{2}, m_w(w_n^s)=\frac{w_{n+3}^s+w_{n-3}^s}{2}$$
解説
(ⅱ)は(ⅰ)のGray-Scottモデルを離散化して得られた漸化式で、 $\delta$ は正のパラメータです。高校までだと、漸化式で求める数列の一般項 $a_n$ の添え字は、$n$ の一つだけですが、今回の場合は $u_n^s$ といったように添え字が $s, n$ の二つとなっており、複雑になっています。この漸化式を計算機に計算させた結果の一例が、3番の写真です。縦軸が時間に関する変数 $s$ 、横軸が空間に関する変数 $n$ に対応し、 $w$ の値を色で表した図となっています。
今回は、パターンが形成される様子を数理モデル化した偏微分方程式を計算機で計算し、現象がどうなっているかを観察することが出来ました。パターン形成に限らず、様々な現象を微分方程式で数理モデル化し、計算機で計算し現象の解明につなげることが出来ます。あなたはどんな現象を調べてみたいですか?
参考文献

担当教員プロフィール
准教授 松家 敬介
高校までは、複雑な計算を経て方程式を解くといった数学自体の内容に対して魅力を感じていました。しかし、大学で数学をはじめとして物理、化学さらに生物と混在した学際領域の学科に進み、数学とさまざまな分野が融合した領域にも興味をもつようになりました。数学を新しい場面で如何に応用できるかを考えていくことで数学に対する魅力をより一層感じる様になりました。
今回紹介した話題は、「生物」に出てくるパターンを拡散現象という「物理」の現象と化学反応という「化学」の内容で説明し、そして、それらを「数学」で記述するといったようにさまざまな分野にまたがったものとなっています。数学はもちろんのこと、さまざまな分野についても積極的に吸収していくことで、視野が広がり、自分が本当に面白いと思える新しいものに出会えるのではないでしょうか。