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令和7年度大学・大学院入学式

武蔵野大学ならびに大学院に入学された新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。武蔵野大学教職員一同、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。

また、これまで長い間、皆さんの勉学を支えてこられたご家族、関係者の皆さまにもお慶びを申し上げます。数年後、皆様のお子様方、御家族の方が卒業を迎えられる時に、この大学に進学してよかったと感じていただけるよう、教職員一同全力で教育の充実につとめてまいります。ご理解とご協力をたまわりますよう、よろしくお願い申し上げます。  

また本日は、学校法人武蔵野大学の横山理事長をはじめとした理事者の皆様、建学の精神の堅持継承を担う釈総長、ならびに学校法人武蔵野大学後援会の工藤会長、武蔵野大学の同窓会であるむらさき会の平山会長、名誉教授の先生方をはじめとしたご来賓の皆様にご臨席をたまわり、教職員列席のもとに、令和7年度の入学式が挙行できますこと、大変ありがたく存じております。心より感謝、御礼申し上げます。

また、海外から入学された皆さんにもお祝いの気持ちをお届けします。ご入学おめでとうございます。今年は、このご挨拶の英語訳が両方の画面に表示されると思いますので、日本語ネイティブでない方にはそちらが助けになるかと思います。

実は私も、この4月から新たに学長になり、初めての入学式の式辞を述べることになり緊張しています。
昨年学校法人武蔵野大学は100周年を迎えました。今年は101年目にあたります。本学の学長はずっと男性でしたが、私は初めての本学の女性学長です。皆様とともに101年目の新しい一歩を踏み出していきたいと思います。

まずは本学の基本精神を表したブランドステートメント「世界の幸せをカタチにする」を御紹介しましょう。そのためには、本学の学祖である高楠順次郎先生についてご紹介する必要があります。
高楠先生は世界的な仏教学者で、文化勲章を受けられた方です。明治時代からヨーロッパやインドにも赴き、国際的な仏教研究を行ってこられました。
本学は、高楠先生によって、1923年9月1日に起こった関東大震災の翌年、1924年に東京の築地本願寺で産声を上げました。震災から半年後、ようやく復興に向けて歩み始めた頃、築地本願寺境内に仮設されていた日本赤十字社診療所跡を仮校舎として本学の前身である武蔵野女子学院はスタートしました。
関東大震災で亡くなった人は10万人を超えています。日本でこれ以上に多くの人が亡くなった自然災害はありません。特に東京の下町は悲惨な状況にありました。予期せぬ衝撃的な出来事の中で立ち尽くしている人々の中で、高楠先生は、復興を願いつつ、これからの時代を担っていく志ある子女を教育したいという願いのもとに武蔵野大学の前身である武蔵野女子学院を設立されたのです。
高楠順次郎先生に従って、武蔵野大学では建学の精神について、仏教の根本精神である四弘誓願を基礎とする人格教育にあると定めています。この建学の精神を受け継ぎ、今日的に具現化していくため、9年前に新しいブランドステートメントとブランドマークを発表いたしました。ブランドステートメントは、「世界の幸せをカタチにする。」(Creating Peace & Happiness for the World)、ブランドマークは虹色の螺旋によって表された武蔵野大学のイニシャル「MU」です。

集う人々の多様な輝きが一つになって、武蔵野大学を構成している。本学に集う者すべてが、連帯しながら、ブランドステートメントの達成に取り組んでいく、その願いと決意を表しています。そして、その真ん中には地球が描かれています。地球に生きるすべてのものが幸せであるように、との願いがこめられています。

私は心理学と医学の教育を受け、精神科の医師でもあります。基本的な仕事は、人がより良く生きるためのサポートをすることです。そういう意味でも「世界の幸せをカタチにする」というブランドステートメントには共感を持ってきました。またそれとともに、難しい、奥深い目標だなとも思ってきました。そもそも世界の幸せと言っても大きすぎて、現実的に考えられない、どうすれば世界が幸せになるのかが複雑すぎてわからない。と思う人もいるかもしれません。
確かに自分の小さい力では、ひとりの人を幸せにすることも難しい状況もあります。私は30年間近く、複数の災害支援や犯罪の被害者支援にかかわってきましたが、災害支援をやっていますと、その惨禍を前にして、いったい自分に何ができるだろう、支援に来て迷惑をかけているだけではないかと立ち尽くす経験があります。どんな支援者にもあると思います。しかし今になって思えば、そうやって問題の大きさと自分の無力さを知ることこそ、次への一歩につながると思っています。そうでないと、力で幸せを押し付けるようなことが起こりかねません。

実際どうやって武蔵野大学の学生さんたちがしあわせをカタチにしていってくれているのか、例をお示しします。 ひとりはたぶん本学の学生さんの中で、最もテレビのニュースに登場したアントレプレナーシップ学部の学生大武優斗さんです。 アントレプレナーシップ学部は、2021年に日本で初めて本学にできた学部ですが、「自分の志を大切にして、事を成し遂げる」人を育てる教育を進めています。 コロナ禍のもとで高校野球が一度中止になりました。大武さんが取り組んだのは、「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児 野球大会」を甲子園球場で開催する活動です。マスコミなどでもずいぶん紹介されましたので、ご存知の方も多くおられるかと思います。大武さんはそのプロジェクトの発起人代表として、2023年の11月29日、多くの人の協力のもと、その大会を実現させました。
もう一人はたぶん皆さんは御存じないかと思いますが、修士課程の院生です。人間社会研究科の私のゼミに3月まで在籍していた大川梨恵さんです。大川さんはもともと国際支援のNPOでアラビア語を生かした支援をしていました。今回大学院に入ったのは、シリアや中東関係を支援する日本のNPOに心理学を専門とする人が非常に少ないからだったそうです。国際的な難民キャンプ支援などでもメンタルヘルスの重要性は認識されつつあるのだそうですが、その具体的な手法や効果を知る方法がわからない。2年間の修士課程を終えた、4月中旬からは、大川さんはイラクに駐在することになっているそうです。
彼女の修士論文はシリアの国境近くにいる難民の青少年のメンタルヘルスをテストで調査したものです。正直、初めて調査した論文ではうまくいかないことがたくさんありました。アラビア語で、しかも識字率さえも低い集団の中で、欧米で開発された心理テストを行ってもうまくいくとは限りません。彼女は途中から、テストのことを最初からもっと知っていれば、違う方法がとれたのにと言っていました。確かに修士の年限だけで、専門家としての臨床能力、研究能力が身につくわけではありませんが、むしろ心理テストの限界や統計の扱い方は、きっと彼女は骨身にしみてわかったのだと思います。そういう人が、今後日本の中東難民支援のNPOにいてくれることは、本当に世界に役立つことです。

他にも武蔵野大学には、何人もユニークな世界を幸せにする活動を在学中から行っている人が大勢います。こんな風にお話しすると、人がやらないすごいことをしないといけないのかと思われるかもしれませんが、そういう風に言いたいわけではありません。人に必要とされる資格を取ることも、今後人の幸せに貢献できる方法ですし、自分を含め周囲の人の幸せをカタチにすることも大事なことです。それぞれの人にそれぞれのカタチがあるはずです。それを大事にしていきたいと思います。

大学を出てからどうしたいか、それぞれ目標は違うはずです。でも一つ共通していることがあると思います。皆さんは皆さんが社会の中核となる20年後、30年後に社会がどう変わっているか、具体的に想像することができますか?どんな仕事が必要になると思いますか? 少なくとも今とは変わっていることは間違いありませんが、正確には思い描けないですよね。
デジタル技術の進歩を見ていますと、これがこれからの社会を急速にかつ根本的に変えていくことは間違いないでしょう。すでに、車の自動運転は実現されつつあります。AIの進歩で教育の方法も大きく変わりつつあります。また私の領域でいえば、脳科学などは身体の研究の最後に遅れて発展してきて、まだまだ広大な未知の領域を抱える分野ですが、心の問題の捉え方も、きっと大きく変わっていくことでしょう。 私たちは将来の予測が困難な世界に生きているのです。こういう変化の速い社会の中では、自分で考え自分で行動する力、また批判的にものを見る力が必要です。資格のある学部だって同じです。資格のある仕事のかなりの部分がAIで代替可能になるかもしれません。例えば私の医師という仕事も、診断と標準化された治療の選択という点では、おそらくそんなに遠い先でなく機械にかなわなくなると思います。でも医師という仕事がなくなるかと言えばそうではない。そのような道具を使いこなして、その限界も知り、より創造的な仕事を行うという力が要求されそうです。  

私たちは昔のように、「こうしたら成功する」とか「こうやったら幸せになる」という前例をそのまま信じることができない社会に生きています。ですから、どんな状況でも自分で課題を知り、考え、判断し、行動できる能力が大事です。武蔵野大学ではすべての学部のすべての学生さんに、その様な力を身に付ける4年間、6年間を送ってほしいと思っています。そして卒業を迎えた時に、皆さん方自身が武蔵野大生としてどれだけ充実した大学生活をおくれるか、そして入学時に思い描いた夢や希望を卒業時にどれだけ実現して巣立っていくかを大学教育の成功の基準としたいと思います。本学ではそのことをスチューデント・サクセスと言っていますが、皆さんの成長実感、達成感、納得感の得られる大学生活にしていくこと、その最大限のサポートをしていくことが武蔵野大学の使命であると考えています。どうぞ明日からともに歩んでいきましょう。

令和7(2025)年4月3日
武蔵野大学学長 小西 聖子