学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第2回 惑星磁気圏物理学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第2回 惑星磁気圏物理学工学部環境システム学科 田所 裕康 講師
膨大なデータとの格闘から、磁気圏の謎を解き明かす
 研究者としてのあゆみ
スタートは、ありふれた「天文少年」
何か大きなきっかけがあったわけではないのですが、気がつけば、小学生の頃から宇宙好きの子どもでした。
ただ、研究者の少年時代として連想されるような、熱烈な天文少年というほどではなく、いくつかある好きな分野のひとつといった感じでした。親や祖父に天体望遠鏡を買ってもらったのですが、それで木星や土星を見て、図鑑と違うぼんやりした姿にがっかりしたくらいですから(笑)
天文と並んで好きな分野が歴史でしたので、「わからないこと」「未知のこと」を知るのが好きな子どもだったのだと思います。
高校時代に文系・理系の選択を迫られた際には、歴史学の文系にするか天文学の理系にするか大いに悩みました。その際、その道に進まなくても、趣味として継続していけるのはどちらかと考え、「歴史は趣味でも楽しめるが、天文は高度な数式が理解できないと楽しめない」と考え、理系に進みました。実際に、大学時代には趣味で日本史検定1級を取得しました。
tadokoro_pic06

偶然の積み重ねで、磁気圏研究の道へ
大学では、当然天文のある宇宙地球物理学科を志望したのですが、化学科に振り分けられてしまいました。2年次に転科することには成功したのですが、そこでも、天文学専攻ではなく地球物理学専攻になってしまいました。しかし、そこで、宇宙との関わりが深い、磁気圏研究の存在を知り、専攻分野に選んだという次第です。
物理学の研究というと、たくさんのデータや複雑な数式というイメージを持たれているかと思いますが、地球物理学の場合は少々異なります。一般的な研究の流れとして、「観測装置を作るー>観測するー>観測データを分析ー>シミュレーションなどによって説明ー>新たな謎が生じるー>それを解決するための観測装置を作る」といったループで成り立っています。
研究者は各フローに得意分野があります。私は、元来の「知ることが好き」という性質のせいか、ものづくりよりも、「観測データの分析」「シミュレーション」の畑に進むことになりました。
tadokoro_pic07

衛星設計コンテストで大賞受賞
大学院時代の思い出としては、天文や航空宇宙関係の学会、JAXAなどが共催で行っている衛星設計コンテストで設計大賞を受賞したことが挙げられます。
以前から工学部は参加していたのですが、理学的な知見も必要であるということで、理工連携でチームを組み、チャレンジしたのです。
私の大学からは理工合同となって初の大賞受賞ということで、大学の広報からも取材を受けました。
そのときの経験で、耐圧や耐熱などの検証を入念におこなう工学的なアプローチに触れられたことは、研究者としての見識を広げるのに大いに役立っています。2015、2016 年には、今度はコンテストの実行委員という立場で関わりましたが、非常に良い経験をさせてもらうとともに、当時を思い出す良い機会となりました。
tadokoro_pic08

衛星設計コンテスト出場時の発表の模様

今後の展望
過去の観測データからも、
新たな知見を生み出していく
研究内容を紹介すると、どうしても新しい衛星や観測装置を活用したデータ収集のことが注目されます。もちろん、新しいデータを使用した研究から得られる「初めて自分が見る」という感動は、何ものにも代えがたいものがあります。ただ、個人的には、過去の古いデータの解析に取り組むことも重要視しています。
観測装置や衛星は、実に多様なデータを膨大に収集しています。このため、古いデータでも、自分の研究テーマに合った手法で視点を変えれば、新しい現象が見つかることもあります。実際に、修士課程の研究は、過去の衛星データから新しい現象を見つけた、といったものでした。
また、シミュレーションを使用した研究も、自由に世界を設定できるという面が非常に面白いと思っています。「シミュレーションから現象を予測し、観測によってその現象を実証する」といったことも、近年注目されている研究手法の一つです。
これからも、データの分析とシミュレーションを中心に、研究を進めていきたいと思っています。
tadokoro_pic09

読者へのメッセージ
磁気圏というものは目に見えるものではありません。そのせいか、その存在の重要さ、研究の大切さを知っていただくのが難しい分野ではあります。しかし、太陽を出発点とした磁気嵐は、衛星の故障の原因になったり、地上のインフラに影響を与えたり、私たちの生活にも密接に関わっています。
また、壮大な話になってしまいますが、将来的に、人類が地球以外の惑星にも活動領域を広げていくことが想像できます。そういったときに備えて、他の惑星についての研究も欠かせません。さらに先の未来においては、太陽系外の惑星への進出…ということも十分考えられます。
そういうときに備えて、惑星磁気圏物理学という分野が、人間環境や活動を考える上での基礎的な学問になっていってほしいと思っています。
tadokoro_pic10