学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第7回 宗教学・近代仏教
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第7回 宗教学・近代仏教教養教育部会 碧海 寿広 准教授
近現代の日本人は、仏教に何を求め、どう受容してきたのか
今後の展望
仏教の視座は、現代人の役に立つ
仏教に限ったことではありませんが、これからの時代、宗教の受け止め方はますます個人化していくでしょう。また、現代社会は、学校のクラスメイト、職場の同僚、家族など、人間関係が生み出す悩みや苦しみを抱える人であふれています。そうした時代にあって、私は今後、研究を通じて「現代人の役に立つ仏教とは何か?」を明確にし、分かったことを世の中に伝え、同時代に生きる人たちの精神生活を少しでも豊かにしていきたいと考えています。

現代の日本では、「宗教」と聞くと身構えてしまう人が多く、忌避感を抱いている人も少なくありません。しかし私は、現代人の暮らしの中で、宗教が哲学や思想とは異なる形で「役に立つ」ことを確信しています。それは、宗教が人間世界を超えた次元でものを考える視座を持っているからです。

仏教には輪廻転生や生まれ変わりという考え方がありますが、宗教は総じて、現世を超えたものとの関わりから人間や世界をとらえる世界観を持っています。さまざまな悩みや苦しみを抱える現代人にとって、そうした世界観に触れることは、目の前の悩みから距離を置き、物事の考え方の幅を広げることに繋がるはずです。人々が生き続けるために役立つ力を持つ宗教の世界観は、人々が伝統的な信仰心から遠のきつつある現代にあっても、尊重するべきものであることは間違いありません。
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人となり
本は読むのも書くのも好き
昔から本を読むことが趣味で、幅広いジャンルの本を、たくさん読んでいます。「ザ・人文学系研究者」という感じですが、視力は落ちるし、家が本だらけになって足の踏み場がなくなるし、結構大変です(笑)。最近は、情報収集のために本の一部をピックアップして読むことも多くなっていて、逆に一冊を読み通した時には、「この本は自分にとって重要な一冊だったんだな」と後追いで感じたりしています。

近年一般向けの本を執筆するようになり、読むことはもちろん、書くことも好きだということに気付きました。一つ一つの物事を丁寧に説明する必要がある一般書の執筆は、専門書や論文とは別の難しさがありますね。でも、これからもっと多く書いていきたいと思っています。
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「鬼滅の刃」を仏教を理解する導線に
休日や空いた時間には映画鑑賞をすることも多く、毎週1、2本は観ています。最近では、大ヒットしている「鬼滅の刃」も観に行きました。コロナ禍で映画館に行けない時期がありましたが、映画館で観るのと自宅のPCで観るのとでは、集中力や気持ちの持ちようが全く違います。映画館で映画に没入する時間がいかに大事なものかを、あらためて痛感しました。

本学の建学の精神を学ぶ科目として、仏教に関する講義を多く受け持っていますが、講義ではよく映画や本と仏教を結びつけて話をしています。先日も、菩薩行についての講義で、「鬼滅の刃」の主人公の利他主義的な行動や、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を例に挙げて説明しました。毎年初回の講義で、学生に仏教に対するイメージを聞いてみるのですが、「堅苦しい」「難しい」という答えが少なくありません。学生が共感できそうな話題をうまく使い、仏教を理解する導線を引いてあげられたらと考えています。
―読者へのメッセージ―
人間関係とは、喜びと苦しみの両方をもたらすものです。しかし、常に他者と繋がり続けるインターネット社会、特にSNSの世界においては、苦しみの方がより多く人々に降りかかっているように思えてなりません。

とはいえ、人間関係の苦しみは、そもそも仏教が生まれた理由ともいえるものです。現代人の苦しみも、釈尊が生きていた時代から存在する苦しみのバリエーションにすぎないといえるのかもしれません。

授業で仏教のさまざまな話をしていると、「今の社会にもっと仏教の考え方を広めると、インターネットの世界も、もう少し健全になるのではないか」と意見を寄せてくれる学生が多くいます。本の執筆や授業を通じて、若い世代にも、現代社会において仏教の教えが役に立つことを、少しでも伝えていきたいと考えています。
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取材日:2020年11月