学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第8回 異文化コミュニケーション学・日本語教育学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第8回 異文化コミュニケーション学・日本語教育学
グローバル学部グローバルコミュニケーション学科 島田 徳子 教授
「違いに気付くこと」が異文化コミュニケーションの第一歩
今後の展望
「誰かを救う」ための研究を続けたい
「研究の宛先はどこ? 救いたいのは誰?」。私が学生に対して、口癖のように発しているフレーズです。そう問いかける背景には、会社員時代に培った問題解決に対する強い意識があるのだと思います。私自身、研究を調査だけで終わらせずに、成果を誰に届けたいかを意識し、問題をどう解決するのかまでをセットで考えていきたいと思っています。

また、これまでの私の研究は、個人や職場をターゲットにしたものがほとんどでした。今後は、より大きな視点で、組織全体を対象にした研究や実践にも取り組んでいきたいと考えています。

日本の職場における人材の多様性が、付加価値を生み、職場の生産性を高め、さらに社会の豊かさや個人の幸福に繋がるようなメカニズムについて探究すること。さらに、その成果を踏まえた教材や研修を開発し、組織や職場の人材育成に活かせるようにしていくことが、これから目指すところです。
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(2019年10月 ベトナム日本語・日本語教育学会主催 第2回 日本研究・日本語教育ワークショップ後の記念撮影 於 フェ外国語大学)

人となり
社会人のスタートはシステムエンジニア
高校時代からことばや文学に興味を持っていました。大学での専攻は英文学。でも、実は英語学より英語教育や日本語教育が好きで、教育にはとても興味を持っていました。コンピュータが社会で活用され始めた時期でしたし、「これからはテクノロジーが学習や教育を変えるんじゃないか」と感じて就職活動ではコンピュータメーカーを志望したんです。とはいえ、まだ女性が活躍できる日本企業が限られていた時代。外資系のメーカーに絞って就職先を探していて、出会ったのが日本アイ・ビー・エムでした。女性が生き生き働いていましたし、社員の教育をとても丁寧に行っているところにも魅力を感じて、システムエンジニアとして入社しました。
SE時代の"意識"が研究の土台に
SE時代の5年間は、徹底してお客様の問題解決を意識したシステム開発をしていました。厳しいお客様もいらっしゃって、今だから話せますけど、灰皿を投げつけられそうになったりもしたんですよ(笑)。納期やコストに対するシビアな意識、プロジェクトマネジメントの手法、社会人として必要なコミュニケーション力も、そこで身につきましたね。いろいろな経験をしながら、常に「問題はどこにあるのか」「問題が改善されたらどんな未来が描けるのか」と考える習慣が身につきましたし、現在の研究のやり方も、その経験がベースになっていると思います。

英会話学校や専門学校へのシステム導入など、教育に関わる案件を担当していたのですが、仕事を続けるうちに、教育とテクノロジーをより直接的に結びつけるような仕事に関わりたいと思うようになりました。そこで、会社の教育休職制度を使って母校の大学院の修士課程に入学し、日本語教育へのコンピュータ利用の研究を始めました。1年ほど後には会社を退職。退職金を大学院の学費と留学資金に充て、本格的に研究の道へ進むことになりました。
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最近の楽しみは"大人の部活"
最近、気の合う友人や研究仲間との時間が大事だなと感じることが多くなりました。今、楽しみにしているのは、高校の同級生たちとの"部活"です。みんなちょうど子育てが落ち着き、趣味を楽しむ時間が持てるようになった時期。私は"散歩部"の部長で、お花見や紅葉狩りを企画したり、日本酒の蔵元やウイスキー工場の見学に行ったり、仲間との時間を満喫しています。ほかには、登山部や座禅部なんていうのもあって、あちこちの活動に顔を出して楽しんでいます。ウイスキーの熟成を「エイジング」というんですが、お酒のように年を重ねることが価値のあることだという考え方は、素敵だなと思いますね。

また、理事を務めている一般社団法人経営学習研究所(ⅲ) の活動でも、ラジオ番組風なイベントをオンラインで配信したり、多文化街歩きイベントを企画したり、さまざまなイベントや企画を実施しています。大学の外に出て、新しい世界に触れ、いろいろな方と出会えることが、とても良い刺激になっています。
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―読者へのメッセージ―
差別や偏見は、人間である限り、おそらくずっと向き合っていかなければならない問題です。ステレオタイプ化や偏見を持つことは、どうしても避けられない側面があるのは確かです。しかし、それを受け止めた上で、どうやって心の境界線を超えていくのかを私たちは考え、また学んでいかなければならないと思います。

その第一歩は、「違いに気付く」ということにあります。

多様な人が集まってチームを作り、一つの目標に向かう時、最初にやらなければならないのは、それぞれが何を大切にしていて、何に価値を置いているのかを明確にすることです。人と仲良くなるためには「共通点を見つけましょう」とよく言われますが、共通点を探すのと同じくらい、その人らしさを見つけて共有することも重要なのです。個の違いを共有した上で、共通のゴールを探し、共有する。そのステップを踏むことが、チームがうまく前進する秘訣のような気がしています。

人間も、職場も、組織も、本当に多様です。その一つ一つに向き合いながら、共通の土台を創り、成果を見出していく。研究においても、そうした姿勢で取り組んでいきたいと考えています。
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(ⅲ) 一般社団法人経営学習研究所 MALL(Management Learning Laboratory:経営学習研究所:モール)は、大学の研究者、実務家が資金を出し合い、2011年に設立した非営利の一般社団法人。
取材日:2020年12月