学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第28回 社会福祉学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第28回 社会福祉学人間科学部 社会福祉学科 永野 咲 講師
声を聞かれてこなかった人たちとともに
今後の展望
声を上げられない人たちの声をすくい上げる
ケアリーバー調査と当事者参画に力を入れていきます。ケアリーバー調査については、前回の調査内容をより深く分析すること、他国の制度を参考にすること、そして、調査で掴めなかった残り86%のケアリーバーの動向を知るべく、取り組みを続けています。

当事者参画については、今パラダイムシフトが起こりつつあると感じています。「子どもの権利」を中心に据えるという当たり前のことがようやく動き出しそうな気配を感じているのです。実のある制度になるよう、これからも注力していきます。
福祉は国ごとに抱える問題が異なるので、完全に真似ればうまくいくというようなロールモデルになる先進国があるわけではありません。しかし、ケアリーバーが語る「誰かが自分の人生をコントロールしている感覚」というのは世界で共通しています。他国の人に教わる・教えるのではなく、「共に考える」ことに意義があるのだと信じています。

ケアリーバーの大学等進学率は20%程度と低く、また中退する割合も高いです。この格差をなくさなくてはなりません。本当に子どもたちをケアできる社会的養護のシステムを整えること、社会的養護のもとで生活したことが不利益にならないようにすること、ケアリーバーも当たり前の暮らしができること、そして社会的養護が子育てとして当たり前になること。そんな社会をつくっていくことが大きな目標です。
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教育
学ぶことで、見えなかったものが見えてくる
学びを通じて、たくさんの「アンテナ」を育ててほしいと思っています。自分が思っている以上に、知らないこと、見えていないことはたくさんあります。今まで見えなかったものが見えるようになる、より広く世の中を見られるようになるのが、学びの醍醐味です。

例えばケアリーバーやジェンダーギャップ、LGBTQなどの問題を少しでも知ると、頭の中に「アンテナ」が立ちます。すると、ニュースを目にした時に、「あっ、これがあのことか」と気付けるようになる。そのアンテナが、あなたの指針になるかもしれません。
大学は、自分の興味あることをとことん突き詰められる場です。「どうしてこんなことが起こるの?」「矛盾していない?」と、小さな疑問を大切にしてほしいです。私も大学2年生で実習へ行くまでは、真面目な学生ではありませんでした。気になったことを追求していたら、いつの間にか研究の道に入っていたのです。自分の興味を突き詰めていくと、どんどん面白くなっていきますよ。

あくまで、学ぶのは学生自身です。教員はいくらでも力を貸しますが、1から100まですべてを教えることはできません。受け身ではなく、主体的でいることを忘れないでください。知りたいことはどんどん質問してほしいですね。どの先生も喜んで教えてくれるはずです。
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人となり
編み物に没頭してリフレッシュ
小学生の頃に祖母に教えてもらったことがきっかけで、編み物が好きになりました。仕事に行き詰まった時、考えれば考えるほど頭がごちゃごちゃしてくることがあります。そんな時に編み物を始めます。編み図を見て、手元に集中するので、他のことは何も考えず、無心になれるのです。メディテーションのようなものですね。現実を忘れて没頭できるのが好きなのかもしれません。最近では、子どもにニット帽を編みました。
 
カナダに住んでいたときには自然の中を歩くトレッキングも好きでしたが、それにも同じ効果があるかなと思っています。
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▲永野先生が編んだニット帽

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▲カナダでのトレッキング

細切れで見られる海外ドラマ
先日出産したのですが、育休中に『THIS IS US』という海外ドラマにハマりました。邦題の副題が「36歳、これから」となっていて、ちょうど同じ年代だったこともあって観始めたのですが、1話目でやめられなくなってしまいました。授乳中などに細切れの時間で見ることができるので、あっという間にシーズン6(45分×全106話!)まで観終えてしまいました。社会的養護、養子縁組、里親など、研究に関するテーマもたくさん登場し、興味深かったです。
―読者へのメッセージ―
社会的養護で暮らす子ども・暮らした経験のある若者たちは、「かわいそう」と思われることが多いのですが、そんなことはありません。とても強い人たちです。なぜなら、強くならなければいけなかったから。どれほどの経験をしてきたのだろう、どうしてこれほど努力してこなければならなかったのだろう、と不条理さを思わされます。彼らの過去を思うと切ないですが、その強さに触れて、心震える瞬間があります。

「私は恵まれていてよかった」と線を引いて欲しくはありません。今、私たちが生きている社会に、不条理がある。見過ごされていることがある。そのことに怒りを感じたり、悩んだり、考えたりしていきたいと思っています。家族とは、血縁とは何か。人が生きていくとはどういうことなのか…。一緒に考えていきましょう。
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取材日:2022年10月