学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第32回 建築生産・資源循環学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第32回 建築生産・資源循環学工学部 サステナビリティ学科 磯部孝行講師
住宅建築の脱炭素化に役立つ仕組みづくりを目指して
今後の展望
「直して長く使う」を社会の共通認識に
研究者として環境問題の解決を考えた時、どうすれば企業がビジネスとして取り組んでくれるか、消費者が理解してくれるかにアプローチしていくことも大切なことだと思っています。今取り組んでいる2つの研究がどちらも企業や業界団体と連携しているのは、そうした思いからです。環境にやさしい建物の在り方、建材のリサイクルの仕組みを明確に打ち出し、社会に定着させることを目指して、これからも研究を続けていきたいです。
改修工事によるCO2排出量削減の研究を通して、CO2削減効果のほかにも、見えてきたことがあります。それは、「壊れても直して使い続ける仕組み」の重要性です。

改修工事では、再利用できる部材を増やすことがCO2削減に貢献するポイントとなります。ところが、研究をとおし、修理すればまだ使える部材があっても、必要な部品が廃番で修理できず、結局再利用できないケースがあることが分かりました。

今、企業の多くはモノを売ることで利益を上げています。しかし、持続可能な社会をつくるためには、壊れたら「新しいモノを売る」という仕組みから、「修理して長く使い続けサービスを提供する」仕組みへの転換が求められているように思います。そのためには、消費者側も意識を変える必要があるでしょう。研究の成果を社会に還元することで、今ある住宅を直して長く使おうという認識が社会全体に広がることを願っています。
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教育
興味のあることを学び続けてほしい
講義やゼミナールでは、基本的な知識は教えますが、学生それぞれが興味を持つ分野を自ら発見することを重視しています。私自身の経験を振り返っても、興味が持てないことは、学んでもすぐに忘れてしまいます。自分の発想や興味関心に従って、継続的に学び続ける人物になってほしいと考え、こちらから「これをやりなさい」と指示することはありません。
プロジェクト型の授業では、環境にやさしいものづくりに取り組むプロジェクトを立ち上げて担当していますが、私から学生に与えるテーマは「木の廃材で何か物を作ってください」という、ただそれだけです。学生たちはそれぞれの発想を膨らませ、不ぞろいな廃材から手探りでものづくりを進めていきます。アートのような作品だったり、椅子のような実用的なものだったり、さまざまなものができますが、試行錯誤するうちにクオリティが上がっていくのを見ると、やはり興味を持ったことをやり続けるのが一番だなと感じますね。

環境やサステナビリティの分野は、ここ数年を見ても注目される事象やテーマが大きく変化しており、これからも変わっていくはずです。今、社会ではサステナビリティやSDGsについてどのような取り組みがなされ、現場が何を考えているのかに触れるため、住宅メーカー、建材メーカーなど企業に赴き、学生と直接話をしていただく機会を設けるようにしています。これから社会に出る学生には、さまざまな人と交流して多様な考え方を知り、視野を広く持ってほしいと思っています。
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▲学生と作成した木材のオブジェ

人となり
「社会が求める建築」を考えて環境に注目
もともと大学では、建築の設計を学びたいと思い建築学科に入りました。当時の建築分野の学生は、かっこいい建物をつくろう、住みやすい設計をしようという考えが主流で、社会が建築に何を求めているのかにはあまり目を向けていないところがあったように思います。ちょうどそのころ、地球温暖化をテーマにしたドキュメンタリー映画『不都合な真実』がアカデミー賞を獲ったり、音楽で環境保護活動を支援するBank Bandが活動を始めたり、環境問題に対する社会的関心が高まりを見せていました。そんな社会の動きに影響を受けて環境に関連する研究に目を向けるようになり、建築廃棄物のリサイクルの研究を始めたことが今の研究の出発点になっています。

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楽しみは子どもとの時間と甘いもの
子どもの頃からずっと甘党です。昔はこってり系の甘さが好きでしたが、最近豆大福のおいしさに気付いて、ここしばらくは豆大福ブームが来ています。ほかにも、ソフトクリームはずっと好きですね。道の駅や空港でご当地ソフトを見かけたら、ついつい買ってしまいます。今は樹脂窓の実証実験でよく北海道によく行くので、新千歳空港のソフトクリームは毎回マストで食べています。

5歳の息子がいるのですが、息子と買い物をするのが今すごく楽しいです。私が子どものころからあるポケモンやドラゴンボールのカードを息子と一緒に見ていると、思わず童心に返ってしまうこともありますね。おもちゃの買い過ぎはよくないのですが、つい私もほしくなって買ってしまうので、そこはちょっと反省しています(笑)。最近は息子にカードのキャラクターの絵を「描いて!」とせがまれることが多くて、それが結構大変です。
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▲先生と息子さんが描かれたイラスト

―読者へのメッセージ―
住宅は、みなさんの生活と切っても切れないものです。しかし、改修や解体が環境にどのような影響があるかに目を向けたことがある方は、あまり多くないのではないでしょうか。ぜひ一度、建てる時から壊す時まで、お住まいのライフサイクル全体を想像して環境負荷について考えてみていただきたいと思います。

また、新しい家に住みたいというのは、多くの方が望まれることだと思います。ただ、中古住宅を改修する方が低コストで広い家に住むことができるなど、今ある建物を長く使い続けることにもさまざまなメリットがあります。お住まいを選ぶ際には、直すこと、使い続けることも選択肢に入れていただきたいですね。
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取材日:2023年2月