学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第36回 地域・在宅看護学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第36回 地域・在宅看護学看護学部 看護学科 遠山 寛子 准教授
療養者の家族も支える在宅看護の在り方とは
今後の展望
家族支援が「ボランティア」でなくなるために
訪問看護師にとって療養者のご家族との関わりはとても濃く、重要なものです。ただ、公的保険の制度上、療養者以外の人への支援は、診療報酬を算定できません。つまり、訪問看護師による家族支援は無報酬、「ボランティア」で行われているのが現状です。

在宅での看取りの後、多くの訪問看護師はご家族のグリーフケア(悲嘆へのケア)のために一度は担当したお宅を訪問するのですが、保険活用者である療養者がすでに亡くなっているので、その訪問もボランティアということになります。もし今後、研究を通して、たとえば「看護師の関わりが、遺族の病的な悲嘆状態を予防する」といったエビデンスが得られれば、グリーフケアのための訪問を診療報酬の算定対象とすることが可能になるかもしれません。在宅看護における家族支援が、保険点数が算定できる「看護ケア」になることをめざして、これからも研究を積み重ねていきたいです。

また、最近は看護の現場でもケアプランなどにAIを活用する動きが広がっています。今後、看護教育の場面でもAIをどのように生かせるのか、これまで培ってきた知識をベースに検討していきたいと思っています。
教育
看護師ができる“ほんの少し”を見つめて
看護学部では在宅看護や家族看護、終末期看護に関する授業を担当しています。講義で大切にしているのは私が一方的に話すのではなく、必ず学生を巻き込むこと。座学の授業では学生の反応を見るために、ずっと教室中をぐるぐる歩き回っています。学生にとっては、ちょっとウザい先生かもしれないですね(笑)。
 
また、自分の看護経験を含めて、できる限り具体的に説明することも心掛けています。看護は実践の学問ですから、学術的な知識と臨床での実践をつなぐことが重要です。学生がリアルだと感じる実体験を例に挙げながら授業を行うと、その話が知識と実践の橋渡し役となり、より知識が定着しやすくなっているようです。
「看護師が患者さんや家族にできることは、ほんの少し背中を支えることくらい」。これは過去の経験から私が本当に実感していることで、授業でもそのことを繰り返し学生に伝えています。学生の言葉や行動を見ていると、決して悪気はないのでしょうが、患者さんに対していろいろなケアを「やってあげる」という感覚でいると感じることがあります。しかし、療養者の“ホームグラウンド”である自宅にお邪魔する在宅看護の現場では、こちらにできることは本当にわずかです。学生には看護師にできる“ほんの少し”を見つめながら精一杯学修し、看護師としての感性を磨いてほしいと願っています。
 
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人となり
療養者のために始めたアロマセラピー
訪問看護師をしていたころ、療養者さんを癒やしたいという思いからアロマセラピーの認定資格を取り、主治医に許可をもらった上で、実際に療養者さんに精油を使ったマッサージや足浴をしていました。だるくて眠れないとおっしゃっていた方がマッサージを始めてほんの数分でぐっすり眠ってしまったり、足浴で血行が良くなってむくみが解消されたり、たくさんの方に喜んでいただきました。
 
今はもっぱら家族や自分をマッサージするくらいですが、大学の授業でデモンストレーションをすると、興味を持ってくれる学生もいるので、いずれ演習の時間に取り入れてみたいと思っています。

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踊ることは長年の趣味
ほかに趣味と言えば、昔から踊ることは好きですね。幼少期にはバレエ、高校ではダンス部、大人になって始めたフラメンコは妊娠中も続けていました。最近は子どもたちがチアリーディングとチアダンスを習い始めたのに影響されて、私もチアリーディングを始めました。先日、チアリーダーとして初めてスポーツイベントに参加したら、たまたまボランティアの医療スタッフとして教え子が会場に来ていて「先生、何やってるんですか?!」と声を掛けられてしまって、あれはなかなか恥ずかしかったです。
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―読者へのメッセージ―
これまで私は、たくさんの在宅でのお看取りをお手伝いしてきました。どの方も、本当に眠るように、おだやかな最期を迎えられました。「あんなふうに生き抜ける在宅での最期は素敵だな」と、今も心から思っています。

日本は今、超高齢社会と同時に多死社会の時代を迎えています。年々亡くなる人の数が増える一方、病院のベッド数は減り、今後は自宅で最期を迎える方が確実に増えていきます。しかし、現時点では日本人の多くが自宅での看取りを経験したことがなく、「自宅で死ぬ」ということの具体的なイメージを持っている方は決して多くないのではないでしょうか。

人生の最期をどのように迎えるかは、ご本人とご家族の準備がどれだけできているかにかかっています。死をタブー視せず、より良く生き抜いた先でどんな最期を迎えたいのか、ご家族同士で話し合う時間をつくっていただきたいと思っています。
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取材日:2023年6月