学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第39回 建築学・建築設計
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第39回 建築学・建築設計工学部 建築デザイン学科 水谷 俊博 教授
人生を豊かにする「良い建築」をめざして
今後の展望
AIにはできない建築設計を追求したい
「良い建築は人生を豊かにする」と先ほどお話ししましたが、良い建築とは、心地よさを感じさせることがすべてではなく、何らかの刺激や新しい感覚を与えるような建築も大切だと思います。これからも、設計の実務や研究を通して、みなさんに新しい刺激を提示する建築をつくることに力を注いでいきたいと考えています。

また、AIの発達によって、世界は大きな時代の転換期を迎えていますが、それは建築設計の領域も例外ではありません。実際、授業の演習で学生が設計するレベルの建築ヴィジュアルであれば、すでにAIに描かせることは可能になっていきますし、いずれ建築設計の在り方もAIによって激しく変化していくでしょう。こういうトピックは、変化のスピードが速いもので、例えば10年後くらいには遠い昔の話になっている可能性もありますが、“超アナログ人間”の私としては、やはり「AIにはできないこと」を追求していかなければならないと思っています。そのためにも、まずはAIについて知り、たとえAI全盛の社会になっても、誰かを刺激するような良い建築の設計を自分の手で生み出していきたいです。
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教育
設計から施工まで経験して実践力を高める
研究室では、机上の研究を建築設計や空間デザインに落とし込む力を付けられるよう、学生たちが実際に建築の設計から施工まで行うプロジェクトに取り組んでいます。仮設のカフェやイベントのインフォメーションセンターなど、小さな建築ではありますが、デザインや設計から実際のサイズで建てるところまで、すべての過程を経験することで、高い実践力が養われます。もちろんうまくいくとは限らず、プロジェクトが頓挫してしまうこともありますが、それも大事な経験です。一方で、うまくプロジェクトが進み、成果が評価された時には、大きな達成感を味わうことができます。例えば、武蔵野キャンパスにある「むさし野文学館」は、文学部と私の研究室の学生が協働で整備した施設ですが、2020年度のグッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD 2020)を受賞することができました。
 
また、実践力だけでなく、構想力と構築力を身に付けてほしいという思いから、特に1、2年生には「長編小説を読むこと」と「3時間以上の映画を観ること」を薦めています。建築設計と聞くと、設計図を描く作業をイメージされる方が多いと思いますが、実は、コンセプトなどを的確に表現する言語能力も欠かせません。建築を設計するという行為は、「ある空間の中で物語を作る」と言い換えることもでき、長い物語を読み解いて新しい価値を発見する力は、建築を学ぶ学生にとって大切な能力だと考えています。
人となり
学生時代からバンドマン
学生時代にロックバンドを組んでいたことがあり、その流れで、今もバンド活動を細々とではありますが続けています。コロナ前までは、新宿や六本木のライブハウスで“おじさんバンド”仲間と対バン形式でライブもやっていました。今は、たまにスタジオで集まってセッションするくらいですね。
 
楽器ができないので、ずっとボーカルをやっていますが、最近は年齢のせいか声が出にくくて限界を感じています(笑)。楽器は年をとってもできる、と今更ながら分かってきて、ほかのメンバーがうらやましくなってきました。でも、ミック・ジャガーは80歳になっても、あの通りまだ現役なので、泣き言は言っていられませんね。
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▲バンドでライブをしていた当時の様子

音楽も映画もアナログ派
音楽は聞くのも好きで、昔からずっとアナログのレコードにハマっています。大学に近い吉祥寺の中古レコード屋には、2週間に1回ペースで通ってレコードを探しています。いわゆる“掘る”というやつです。もちろん買わない時もありますが、2週間以上空くと“禁断症状”が出てしまうんですよね(笑)。
 
アナログといえば、映画もアナログ派で、配信ではなく必ず映画館で観る主義です。最近は老舗の名画座が次々になくなって寂しい限りですが、代わりに新しいミニシアターもできているので、足を運んで楽しんでいます。
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▲レコードコレクションに囲まれた研究室の様子

―読者へのメッセージ―
世界的な視点で見ると、残念ながら、日本人の建築に関するリテラシーはまだまだ低いように思います。身近な建築である住宅をみても、日本中どこでも同じような形の家が建てられ、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返しているのが現状です。良い建築とともに生活することは、私たちの人生に何かしらの刺激やプラスの影響を与えてくれます。ぜひみなさんにも、自分にとっての「良い建築」「気持ちのいい空間」がどのようなものかを、日常の中で意識してみていただきたいと思っています。
私も、微力ではありますが、良い建築をつくり、良い街、良い都市環境づくりに貢献していきたいと考えています。
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取材日:2023年9月