学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第13回 発達科学・発達心理学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第13回 発達科学・発達心理学教育学部 幼児教育学科 今福 理博 准教授
未来を担う子どもたちのため、真理を探求し続ける
今後の展望
研究成果で子育ての悩みに応えていく

いつの時代も、そして誰しも子育ての悩みは尽きないものですが、このように科学的に解明された発達のプロセスを知り、赤ちゃんや子どもの行動の意味がわかってくると、親や保育者は確信を持って子どもと接することができるようになるでしょう。複雑な人の心を学際的なアプローチで解き明かすことで、子どもも、大人も幸せにする……。これからもそんな研究を目指すとともに、講演やインターネットなどで積極的に研究成果のお話をしていきたいと思っています。

一般向けの書籍として、子育てや保育の現場など、研究成果を多くの方々に伝えていくために『赤ちゃんの心はどのように育つのか:社会性とことばの発達を科学する』(ミネルヴァ書房)を出版しました。最近では1歳から親子で楽しく106の名詞を覚える指さし遊び絵本『どこかな どこかな?』(エンブックス)も制作しました。多くの親や保育者に活用していただけたらと思います。

日本では小中高の学校教育と比べると、保育者の待遇などを見ても乳幼児教育の重要性がまだ十分に理解されているとは言えません。欧米では就学前教育や乳幼児の認知発達に関する研究が盛んに行われており、乳幼児期の教育のあり方に関心が集まっています。私も子どもの心の発達をテーマとする研究者の一人として、研究活動を通してわが国の教育政策や乳幼児教育の価値に関する社会の認識を変えていく働きができればと考えています。

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▲今福准教授の著書
教育
走りながら考える:読んで、書いて、研究して、社会に伝える
これからの乳幼児教育を担う学生たちの教育も私の重要な責務です。担当する「発達心理学」や「教育心理学」の授業では、映像やイメージ、自分の経験談などを交えてできるだけ私たちの日常生活に即して理解できるよう工夫しています。またグループワークを通して多様な考え方に触れ、自身の思考を深める学生同士のディスカッションも重視しています。もうひとつ私の授業の特色の一つは「たくさん読んで、たくさん書く」。専門書や論文などをしっかり読んで、その内容を読む人を意識してわかりやすくまとめる機会を設けています。「伝える力」は、あらゆる分野で求められるものだからです。

保育者であれば親から子育てなどについての相談をされることがあるでしょう。そんなとき、相手にわかりやすく自分の知識や経験を伝えることができれば、それまで抱えていた子育ての不安や迷いを解消することができるかもしれません。私のゼミでは現在、学生たちがさまざまな親の子育ての悩みを発達心理学の立場から考察し、アドバイスをするというプロジェクトを進めており、近い将来にその成果を1冊の本にまとめる予定です。

大学の授業での学びは、一人ひとりが将来に向けて考えるための出発点です。学生たちには、授業を通して自分自身の問いを立て、考え、学問研究につなげてそれぞれの具体的な問いを深めていってほしいと思います。そのためには一歩踏み出して、研究室を訪ね、教員と対話してみることをおすすめします。きっと見える世界が広がります。また、研究・実践してみたい時にも教員に相談してみてください。手足を動かし、走りながら考えましょう。

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▲今福准教授の著書
人となり
―まる子のゆるゆるした日常に癒やされる―
オフの日でも研究や論文執筆、授業の準備をしていることが多いです。専門分野の最新の研究成果のチェックなども欠かせません。今はコロナ禍が人の心にもたらす影響についても考えています。ゼミの学生たちも卒業論文に「コロナ禍における親子のストレス」「コロナ禍における子どもの外遊び」といったテーマを選ぶようになっていますから、最新の研究成果を参照しながら自分自身の考えを深めています。

頭を働かすためには身体を動かすことも大切です。学生時代はテニスをしていましたが、現在はもっぱらサイクリングとランニング。また自分ではプレーしませんがプロ野球を観戦するのも好きです。子どもの頃に赤のチームカラーに惹かれて広島カープファンになって以来、年に数回球場にも足を運び、ずっと応援してきました。

日常の気分転換は音楽を聴くこと。受験生時代からずっと好きなYUKI(元JUDY AND MARY)や最近ではあいみょんがお気に入りです。それから心の癒やしは「ちびまる子ちゃん」の作品世界。まる子のゆるゆるした日常感覚が共感できるんです(笑)。私の研究室に来たら、きっとまる子好きの〝痕跡〟をいくつか発見できると思いますよ。
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▲ゼミの学生たちと

―読者へのメッセージ―
これから子育てや保育に関わる人は、最先端の専門的知識が必要です。なぜ最先端かというと、こうしている今も世界中でたくさんの研究・発見がなされており、それに伴って現在「常識」とされていることが、新たな「常識」に置き換わる可能性があるからです。

子どもの発達を理解すれば、子育ての不安だけでなく、たとえば「発達障害」や「LGBTQ」などのマイノリティ(少数派)に対してマジョリティ(多数派)が抱く偏見や差別の解消にもつながります。発達科学・発達心理学は、自分とは異なる存在を理解し、受け入れ、多様性のある社会を築くための知恵をもたらしてくれるからです。

私は、真面目で、前向きな武蔵野大学の学生たちに心から期待しています。在学生、そしてこれから入学される方々にも、幼児教育、発達科学・発達心理学の世界に関心を持っていただき、共に未来を担う子どもたちのために真理を探求していきましょう。
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取材日:2021年5月