学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第15回 経営学
(マーケティング)
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第15回 経営学(マーケティング)経営学部 経営学科 古川 一郎 教授
商品やサービスを選択する消費者の心と行動を読み解くために
今後の展望
「情報革命」がマーケティングを大きく変えた
この四半世紀で世の中は大きく変わりました。その原動力となったのはインターネットや情報デバイスの普及など「情報革命」です。

この20年あまりで私たちの身の回りの情報空間は1万倍近く膨張したと考えられています。あっという間に私たちの生活の隅々までIT技術が浸透し、誰もが簡単にあらゆる情報へのアクセスが可能になりました。スマートフォンが手放せなくなった今の私たちの生活を、20世紀に誰が想像したことでしょう。ここ数年でもSNSやAI技術の出現は企業と消費者のコミュニケーションのカタチを大きく変えました。

当然ながら、この情報革命の中で消費者の生活環境と意識も、そしてそれに向き合う企業のマーケティングの役割も大きく変わってきています。私は、情報革命がますます進む社会の中でマーケティングにどのようなイノベーションが起きてくるのか、とても興味があります。たとえば、限りある資源のなかで人口爆発が起こっています。このような中で、生活の中心である「食」分野にもさまざまなイノベーションが起こりつつあります。AI技術を取り入れた「ガストロノミー」、つまり食材の調達から消費・廃棄に至る食文化の世界に起こっている変革も、これからの私たちの食生活を大きく変えていくことになるでしょう。

これからも多くの人々にとって望ましい社会を創り出すという視点を大切にしながら、様々な分野に好奇心を働かせながら、時代が求めるマーケティングについて引き続き考えていきたいと思っています。
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▲古川教授の著書

教育
理論と現実の対応をイメージするために
―東京の街は面白いことの宝庫―
学生のみなさんにマーケティングを教えることは私にとってはチャレンジと言えるかもしれません。今でも悩みながら授業を行っています。なぜならほとんどの学生は商品やサービスを送り出す側である企業活動の経験がないので、マーケティングを自分の問題として捉えて考えることが難しいからです。授業やゼミで学んだマーケティングの知識や理論が、現実のマーケットでそのような現象として現れているのか? 頭でわかってもなかなか実感できないでしょう。体験知の総量が絶対的に不足しているのです。

しかしながら東京の大学生はその点、とても恵まれていると私は思っています。ファッション、グルメ、アートなど、東京の街は面白いことの宝庫です。街を歩いているだけで人々の消費活動とマーケティングの関係を理解するヒントになるものとたくさん出会えます。

経営学部がある有明キャンパスから有名ブランドショップが軒を連ねる銀座もすぐ近く。立派な門構えで、正装した店員が恭しく客を迎えるブランドショップに足を踏み入れるのは、大学生にとって勇気がいることかもしれません。でも、ドキドキしながら思い切って入ってみると、有名ブランドがなぜ多くの人々の心を捉えるのか、その理由の一端が見えてくるかもしれませんよ。マーケティングを学びたいという学生には好奇心旺盛に身の回りで起きている消費活動をつぶさに観察して、マーケティングの理論と現実の対応をイメージするトレーニングをしていただきたいと思います。
―現実の企業から与えられたテーマに基づく商品企画―
マーケティングの専門知識と現実社会をつなげる試みとして、私のゼミナールの3年生は、実際の企業から与えられたテーマに基づいて、様々な大学生チームが商品企画を競う企画コンペティション(競技会)に毎年参加しています。全国約30大学から130近いチームが参加するこの企画コンペに参加することで、教科書的な知識を実際のマーケットに当てはめながら実践的にマーケティングを考える機会が得られます。学生たちは、消費者が求める商品やサービスを求めて学外での現場取材など積極的に行い、意欲的に商品企画に取り組んでくれています。このコンペに優勝すると、テーマを出した企業が実際に商品化してくれるので、いつの日か武蔵野大学経営学部発の新商品が市場に登場するかもしれません。
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人となり
山梨と東京でたくさんの楽しみを味わい尽くす
―生活拠点は自然豊かな八ヶ岳の麓―
現在、私の生活拠点は山梨県北杜(ほくと)市です。東京に仕事場こそ置いていますが、オフの時間は八ヶ岳の麓にある自然豊かな環境で家族や友人、研究仲間に囲まれて充実したプライベートライフを楽しんでいます。ここは日照時間が日本一だそうで、良質の水源にも恵まれているので、近くにはサントリーの白州蒸留所や銘酒「七賢」など山梨が世界に誇る酒造メーカーがあります。甲州ワインも有名ですね。食材も豊かで、最近は東京で腕を磨いたシェフたちが開店したレストランもできており、食の楽しみが増えました。美味しいものを食べながら、人と話すことが何より幸せです。そのほか庭の手入れや家庭菜園、テニス、ゴルフ、山歩きなど、山梨でもやることは山ほどあります。
―進化するオペラに夢中―
性格的に一つの趣味に執着するのではなく、あれもこれも楽しむのが好きです。そういう意味では、面白いことの宝庫である東京からも目が離せません。

最近、ちょっとハマっているのがオペラです。特にクラシック音楽が好きだったわけではなく、むしろそうした高尚なものは敬して遠ざけていました。ところが機会があって新国立劇場でオペラの舞台を見て、強い感銘を覚えました。イメージしていた厳かで、古典的な雰囲気のオペラではなく、鉄パイプをそのまま使った前衛的・現代的な舞台装置に驚きました。古典芸術といえども時代と共に進化していくのですね。

世界的に評価が高いアーティストたちの演技を見ていると、変化していく時代の中で同じことを繰り返していては生き残れないという、彼らの気迫と覚悟がひしひしと伝わってきます。常にチャレンジをしている人が、世界的に評価され、生き残って行くのですね。その点、芸術表現も、マーケティングも同じだと思いました。

自分が元気なうちに、有名なオペラの演題はすべて見ておこうと、今では月に1回ほどのペースで観劇を楽しんでいます。
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―読者へのメッセージ―
武蔵野大学の学生は、みんな誠実で優しい。他人のことを思いやることができるし、勉強でもあまり背伸びをせずに自分のペースで素直に取り組んでくれています。
 
でも、教える側からしたら、「もう少し背伸びをしてくれてもいいんだよ」と思うこともあります。もう少し背伸びをしたら、それまで見えなかったモノが見えてくるかもしれません。

経営学部では「響創的学び」というコンセプトを掲げています。「競争」や「共創」ではなく「響創」です。多様な価値観を持つ人たちが、学び合い、話し合い、刺激を与え合いながら、美しいアンサンブルを響かせるように新しい価値、モノ、社会を作り上げていく。そんな理想を掲げて教育・研究を展開しています。

これからの時代、自分たちだけが競争に勝ち、儲ける経営は、消費者に見放され、時代に取り残されていきます。多様な価値観が交錯し、変化の激しい時代の中で「世界の幸せをカタチにする。」を実現できるのは、「響創」ができる人々だと思います。学生の皆さんには、武蔵野大学経営学部の4年間で存分に「響創的学び」を体験し、新しい社会を創造する担い手となって巣立っていただきたいと思っています。
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取材日:2021年9月