学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第41回 英語教育学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第41回 英語教育学教育学部 教育学科 江原 美明 教授
「使える英語」を教える教師を応援したい
今後の展望
教師同士のコラボを進める提言をめざして
今、英語を学ぶ方法は学校以外にもたくさんあります。やろうと思えば、1人でいくらでも勉強することができるでしょう。そうした時代にあって、これからの学校での英語教育の役割とは何でしょうか。それは、クラスの仲間や先生と英語でやり取りをしながら生徒に「通じた!よかった!」という体験をさせることであり、そのためには教師同士がコラボレーションし、同じ方向を向いて進むことが必要だと私は考えています。
 
最近、教育現場では職場の教員同士が協働し支え合う関係性を意味する「同僚性(collegiality)」という言葉が注目されています。教員は学校でチームの一員として働いていますから、たとえば、自分はコミュニカティブに授業をしたいと思っていても、周りの教員がそうでないのでなかなか踏み出せない、といったことが起こりえます。
一方、少し手前味噌になりますが武蔵野大学の教育学科は教員間の仲が良く、情報交換もまめに行っていますし、将来教員になる学生を大事に育てようという目標も共有されているので、同僚性という意味では理想的な環境です。そうした同僚性の高い環境をいかに作るかが、英語教育において今後さらに重要になるでしょう。
 
英語学習方略の研究で得られたこれまでの知見を整理し、さまざまな学習方略の実践的な使い方を現場の教員に分かりやすくリマインドする。そうした私の取り組みが教員間の共通理解をつくり、職場に良いコラボレーションを生み出す助けになってほしいと願っています。教員同士のコラボに繋がる提言を一つでも多く発信できるよう、今後も研究に力を注いでいきたいです。
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教育
「教師の目」を持つ学生と互いに学び合う
現在担当しているのは、教員免許取得のための「英語科指導法」や「英語科教育法」、さらに語学講座「Comprehensive English」といった授業です。
 
教育学科の学生と接していて感じるのは、「みんな小中高で学校教育を真面目に受けてきた学生だな」ということです。学生の姿から、日本の英語教育の成果と改善点が見えてくることがあります。
たとえば今の学生は数年前に比べて、口頭でのコミュニケーションがとても上手になりましたが、一方で、高校で学んだはずの重要な文法の知識を忘れてしまっていることがあるようです。それは学生の勉強不足だけが原因というより、高校で学ぶべき文法があまりに多岐にわたり、しかも大事な要素とそうではないもののメリハリがつけられていないことにも原因があるように思います。そういった課題も見つけつつ、学生のみなさんとともに学びを深めているところです。
 
教師を目指している学生は、私たち大学教員を見る目が鋭いですね。「学生としての目」ではなく、すでに「教師としての目」で見られている気がしています。授業を受けながら「この先生は教え方が上手だな」とか「今の説明は分かりにくいな」とか、批判的に分析しているのが分かるので、正直、授業をするのがちょっと怖いんです(笑)。とはいえ、学生に自分を良く見せようとすると必ず失敗するので、できるだけありのままの自分を見てもらいながら、学生と私がともに学ぶ姿勢をいつも大切にしています。
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人となり
社会人になってから趣味でスキーを始めて、今も年に1回は新潟にスキー旅行に行きます。毎年カナダ人とアメリカ人の友人と3人で行くのですが、私はスキーのアドヴァイスをして、彼らからは英語を教えてもらっています。たとえば、気持ちよく滑っていたのに転んでしまった時、「油断するなよ」と自分に言い聞かせるんですが、ある時「これって英語ではどう表現するんだろう?」と疑問に思って彼らに聞いてみたんですよね。そうしたら、アメリカ人の友人は“Don’t get too comfortable. ”が近いんじゃないか、って。直訳すると「心地よくなりすぎるなよ」という感じです。なるほど! と目から鱗でした。そういう瞬間が楽しいですね。
実は、スポーツと英語の習得には共通点が多いんです。どちらもHow To本を読んだり動画を見たりするだけでは上達しないし、場数を踏まないとうまくならない。だから英語と同じように、スキーの練習でも学習方略のポイントを絞って、頭の中に備忘録を作っていました。たとえば、スキーの小回りの場合には、「ストックはブーツの踵の横方向につく」みたいな方略を、一度に1つだけ意識する。意識して体を使っていくと、ある瞬間から意識しなくてもできるようになって、方略がスキルに変わるんです。そうやって一つずつスキルを増やしていくことが、スポーツでも語学でもきっと大事なんですよね。
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―読者へのメッセージ―
語学学習は、いつの時代のどんな人でも常に0からのスタートです。一つ一つ頑張って学んでいくしかありません。しかし、それを乗り越えて外国語でコミュニケーションできるようになると、気持ちが世界へと広がっていきます。さらに、広い世界で起きていることに興味がわき、それまでにない新しい出会い、新しい気付きを得られます。それは、とても素敵なことではないでしょうか。ほかの国の人たちと自由にコミュニケーションを取る楽しさをぜひたくさんの方に味わっていただきたいです。そのために、私は研究を通して英語の先生方を応援し、英語を学ぶみなさんの役に立っていきたいと思っています。
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取材日:2023年11月