学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第42回 行政学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第42回 行政学法学部 政治学科 渡辺 恵子 教授
多様な公務員が力を発揮できるための職場環境を考える
今後の展望
公務員のウェルビーイングを目指して
教育行財政の分野では、探究学習に関する研究のほかに、地方教育行政制度、教員給与制度の国際比較などの研究にも取り組んできました。こうした研究の蓄積を生かして、これからも政策や制度の根拠にできるような研究を積み重ねていきたいと考えています。さらに、公務員に関する研究では、現在、公務員独自のやりがいや成長実感がどのような要因に支えられているのかを明らかにしようと、パブリックサービスモチベーション研究にも取り組んでいます。

また、最近は近年行政学で議論されている代表的官僚制論にも関心を持っています。社会には「子育て中」「介護を担っている」「障害がある」などさまざまな属性を持つ人がいますが、そうした多様な人が公務員にもいること、つまり公務員の構成が社会の構成を代表しているような官僚制が民主的統治に必要ではないか、というのが代表的官僚制の考え方です。現実には、たとえば長時間労働が常態化している霞が関では、育児や介護を担う職員はほとんど働くことができず、このままでは施策が国民の一般的な意識からどんどんずれてしまう可能性もあると思っています。公務の仕事は、広く国民や住民のウェルビーイングの向上を目指して行われるものです。みなさんのウェルビーイングを支える公務員自身のウェルビーイングもまた、実現されるべきものであり、そのために調査研究や実証を続けていきたいと考えています。
教育
実例を通して見えにくい行政の活動を知る
私たちはさまざまな場面で行政と関わって暮らしていますが、行政の活動は普段目立たない「縁の下の力持ち」的なものですから、授業を受けるまで行政が身近であることに気付いていない学生も少なくありません。そこで講義では、実例を数多く挙げることで、身の回りの行政の働きや政策に気付いてもらえるよう心掛けています。たとえば先日は、いわゆる大麻グミに含まれる薬物が「指定薬物」に指定されたニュースを例に、指定薬物は省令で指定されること、省令は国会の議決が必要な法律ではなく担当大臣が決定できるものなので、迅速に指定して規制できることなどを解説し、行政の活動をリアルに感じてもらうことができたようです。

さまざまな政策や行政の活動を自分ごととして考え、意見を持つ力は、主権者、有権者、納税者、行政サービスの受給者として生きていく上で必要なものだと考えています。社会に出る一歩前の大学生には、授業を通して知識を学ぶだけでなく、ぜひそうした力を養ってほしいと願っています。
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人となり
学生時代はバックパッカーで格安旅
若い頃から旅行が趣味です。学生時代はバックパッカーでイギリス・ベルギー・ルクセンブルクを40日間かけて周ったこともあります。格安の航空券と1泊目のホテルだけ日本で予約して、あとは全て行った先でユースホステルのような若者向けの安宿に泊まったり、バスで何時間も移動したり。ほかにもいろんな国へ行きましたが、今でもやっぱり、団体旅行より行きたいところに自由に行く旅が好きですね。国内もあちこち旅をしていて、昨年、出張を含めてですが47都道府県すべてに行くことができました。旅先では、美術館巡りや史跡巡りも楽しみの一つです。日常から離れて、その土地の歴史に思いを巡らせたり、自然が作る雄大な景色に触れたりすることで、本当にリフレッシュできます。

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▲松本市美術館(長野県)

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▲一乗谷朝倉氏遺跡(福井県)
2019年W杯でラグビーにハマりました
ハマっていると言えるほどではないかもしれませんが、最近はラグビーの試合をテレビでよく見ます。日本代表のファンクラブにも入りました。いわゆるにわかファンですが、先日初めてリーグワンの試合を家族とスタジアムで観ることもできました。

ハマったきっかけは、2019年に日本で開催されたW杯。たまたまテレビで試合を観ていて、倒れ込みながらもボールをつないだり、自分でキックしたボールを自分でキャッチしたり、初心者でも一目で分かるすごいプレーがたくさんあって、そこから興味を持ちました。ラグビーは個人の力もすごいのですが、一人ひとりが自分の役割を果たしながら、チーム全体が強くなる組織力もすごい。そういうところは、組織に属する大人になると、よりぐっとくるポイントかもしれないですね。実は高校時代、ラグビーが好きな友達がいて「面白いよ!一緒に行こうよ!」と誘われていたのですが、毎回断っていた記憶があるんですよね……。今度彼女に会ったらお詫びしないといけないなあ、と思っています。
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―読者へのメッセージ―
多くの公務員は、世の中を良くしたい、みなさんの安全を守りたい、必要なサービスを届けたい、といったそれぞれの目標を胸に日々奮闘しています。ただ、公務員にスポットが当たるのは不祥事を起こした時くらいで、そうした姿は見えにくいのが実情ではないでしょうか。不祥事が起きないように監視することも、もちろん大切です。しかし、多様な公務員が安心して力を発揮できるためにも、働き方改革を含めた職場の環境整備が重要であり、それが国民や住民にとってもプラスになります。そのことをより多くの方に理解していただけるよう、研究に力を尽くしていきたいと思っています。
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取材日:2023年12月