学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第43回 臨床心理学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第43回 臨床心理学通信教育部 人間科学部 松野 航大 講師
人との関わりに目を向け、こころを支援する
今後の展望
認知行動療法に家族療法の視点を
これまでの認知行動療法は、主に困難を抱える個人に焦点が当てられることが多く、個人に対してどのように心理療法を提供していけるかに重きが置かれてきました。もちろんそれは絶対に必要なことではあるのですが、一方で、認知行動療法において家族にスポットが当たることは、あまりありませんでした。
家族療法では、「人は世の中にポツンとひとりで存在しているのではなく、常に誰かと関わり合い、影響し合いながら存在している」という捉え方をしていて、その関係ごと視野に入れて困難の解決策を探っていきます。その視点を認知行動療法に取り入れる。つまり、認知行動療法と家族療法の統合を図ることで、個人に対しても、家族に対しても、より効果的な支援が期待できると考え、今後はそこに重点を置いて研究を深めていくつもりです。

また、産業カウンセリングの領域では、職場のメンタルヘルスの問題をできるだけ予防していくこと、ひとりでも多くの人が楽しく働ける職場を増やしていくことを目指しています。研修などの機会や、社会人の学生さんが多く集まる大学の通信教育部での授業を通して、広くたくさんの方に心理学の研究成果を発信し、世の中のために役立つことをお伝えしていきたいと考えています。
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教育
「あえて理想を語る」のが自分の役割
通信教育部には、現役の社会人としてバリバリ働いている学生さんがたくさんいらっしゃいます。通信教育部の教員になった当初、私にはとても不安に感じていたことがありました。それは、講義で学術的、理論的な話をしても、社会経験豊富な学生さんから「いや、先生はそう言うけど、現実はそんなにうまくいかないよ」と言い返されてしまうんじゃないか、ということです。
ところが、実際に授業をしてみると、そんな心配をする必要はなかったんだとすぐに分かりました。通信教育部の学生のみなさんは、少しでも多く心理学の知識を持ち帰り、自分の生活や仕事に生かそうという、強い想いと目的意識を持って学んでいらっしゃるからです。また、実社会で理想を学べる場所は少なく、大学の授業で私が理想を語らなければ、学生さんはどこで理想を知ることができるんだろう、とも思いました。少し格好をつけすぎているかもしれませんが、そこからは、理想をそのまま伝えることが私の役割であり、学生さんにはそこから取捨選択してもらえばいい、という考え方にガラッと変わりました。ですので、授業では「私は理想を語ることが自分の役割だと思っています。それをどこまで実生活に生かしていただくかは、みなさんにお任せしますね」とお伝えしています。ただ、もちろん理論と実践ができるだけかみ合うような内容を意識して、ワークやグループディスカッションをたくさん行い、学びを職場などで使いやすくする工夫もしています。学生さんには授業で学んだことを少しでも日常生活に還元してもらえたら良いなと思っています。
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人となり
音楽、コーヒー、食。好きなことに囲まれて
ひとつの趣味に没頭するとか熱中するということがあまりないのですが、音楽は昔からずっと好きで、中学は吹奏楽部、高校は軽音楽部、大学でもバンドのサークルで活動していました。以前はギターやドラムの演奏もしていたんですけど、最近は聴く方がメインですね。聴くのはもっぱらジャズやフュージョン。ライブにもちょこちょこ行きます。
ひとつのことにハマらないかわりに、好きなことは結構多くて、音楽のほかにも、美術館に行ったり、落語を聴いたり、おいしいお店を探して食べに行くのも好きです。コーヒーも毎日のお供で、その日の気分によって豆や淹れ方を変えて楽しんでいます。自宅で好みのコーヒーを淹れて、チョコレートやポテチを食べながら、撮り溜めたテレビ番組の録画を観てまったりするのが至福の時間です。
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スキューバダイビングで海と一体になる
頻繁に行けるわけではないのですが、スキューバダイビングも趣味の一つです。大学院の博士課程の時に、知り合いの先生と一緒に八丈島にライセンスを取りに行って、そこからですね。海の中にいると、冷たくてふわふわした浮遊感があって、無心になれる。広い海と自分が一体になったような感覚があって、それがたまらなく好きです。八丈島で潜った時は、ウミガメも見られて感動しました。でも一番思い出に残っているのは沖縄の海。現地のインストラクターさんが太鼓判を押すほどコンディションが良く、水がきれいで、水中で見た光景もこの世のものとは思えないぐらい美しくて、本当に感動しました。ここ数年はコロナ禍もあってなかなか海に行けていないので、またぜひ行きたいですね。
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―読者へのメッセージ―
心理学は、自分にも他人にもやさしくなれる学問だと思っています。私たちが生きていく上で、自分を含め、「人」と関わることを避けて通ることはできません。心理学は、一人ひとりのこころについての学問です。心理学を学べば学ぶほど、ご自身や周りの人への理解が深まり、自分も他者も、一人ひとり違うかけがえのない存在であることを認められるようになるはずです。そして、その学びは、きっとみなさんの生活を豊かにしてくれると思います。ぜひ気軽に心理学に触れ、学び、たくさんの“いいこと”を見つけてもらえたらうれしいですね。
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取材日:2024年1月