学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第34回 租税法・EU法
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第34回 租税法・EU法経営学部 会計ガバナンス学科 髙橋里枝准教授
日本にも大きな影響を持つEU租税法
今後の展望
日本にも示唆を与えるEU法研究を進めたい
EUは今、さまざまな分野でEUの基準をグローバル基準にすること、つまり「ルールメーカー」になることで影響力を高めようとしています。実際、EUのデータ保護法制であるGDPRはほかの国のデータ保護制度にも影響を及ぼし、日本の改正個人情報保護法もGDPRの影響を受けています。
 
また、グローバル化が進んだ現在、租税回避のような国境を超える問題には、一国の国内法だけで対抗することはできず、国際協調が求められます。2012年には、多国籍企業の過度な租税回避を防ぐため、OECDを中心に各国が協調して対処するBEPSプロジェクトが発足しました。このプロジェクトには日本も参加しているのですが、日本は租税回避に関する議論がEUなどに比べて進んでいないのが現状です。
 
そうした点を踏まえて、EU租税法の理解は、将来の日本の税法制にも示唆を与えうるものだと考えています。日本では、EU法の研究は憲法的視点や政治政策が中心で、租税分野の研究はまだそれほど多くありません。今後さらにEU法を広く見通し、日本への影響を含めた研究を進めていきたいと思います。
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教育
難しい租税法に少しでも興味を持ってほしい
担当する租税法などの授業では、税に関する問題について、法律学と会計学や経済学を関連付けて学生に学んでもらっています。ゼミには税理士や国税専門官を目指す学生が多いのですが、みんな学びに対して真面目ですね。

租税法は複雑で難しい分野なので、授業では、具体的な税額計算の問題を解くなど、学生の興味を引くような工夫を心掛けています。授業を受けている学生の表情を見て、「分かってないな」と思ったら個別にフォローすることもありますし、アプローチを変えて別角度からの説明を加えたりしながら、できるだけ学生の理解を促すようにしています。ただ、自分の専門分野の授業は、話したいことがあふれてきてつい早口になってしまうこともあるので、学生がちょっと困っているようです(笑)。

社会の一員である以上、私たちは税と切っても切れない関係にあります。人生のさまざまな場面に関わる税がどんなルールに則っているのか、一人でも多くの学生に興味を持ってほしいと思いながら授業をしています。
人となり
理学部で学び、税理士になり、研究の道へ 
実は、大学では経済学部や法学部ではなく、理学部化学科で学んでいました。それがなぜ租税法の研究者になったかといえば、就職氷河期が原因です。ちょうど学生時代に就職難がやってきて、「これはいけない、就職するには国家資格でも持たないと」と思って取ったのが税理士資格でした。税理士を選んだのは、実家が事業を営んでいたので経理や税務が身近だったからだと思います。
 
大学卒業後は税理士として働いていたのですが、難度の高い案件を任されるようになるにつれ、税法の条文や判例との格闘が始まりました。税理士は会計の資格のように思われるかもしれませんが、難しい案件ほど訴訟がつきもの。法律の知識とスキルは不可欠です。それを実感して、あらためて租税法を勉強するために大学院の商学研究科に入り、さらに法学研究科でEU法の学びを深めて、研究の道を歩み始めました。
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「趣味の日」はヨガとトランペットとボイトレ
今年の4月から、週に1日「趣味の日」を作ることにしました。趣味の日は、午前中にヨガ、午後はトランペットとボイストレーニングのレッスンに通っています。楽器はずっとやりたいと思っていて、ジャズが好きだったこともあってトランペットを選びました。音楽は聞くのも歌うのも好きで、一人カラオケで3時間歌い続けたりしています。学生にそれを話したら、「授業であれだけしゃべったのに、まだ歌うんですか?」って半分あきれられました(笑)。

コロナ禍前は、年に1度のヨーロッパ旅行が楽しみでした。初めはイギリスとフランスにハマって、その後はスペイン、最近はアイスランドがお気に入りです。ヨーロッパではよく温泉に行くのですが、向こうの温泉は日本人にはちょっとぬるいんですよね。でも、火山国アイスランドは温泉も熱めで、日本人好みだと思います。ヨーロッパの中でも壮大な美しい自然が残っている国なので、ぜひまた行きたいと思っています。
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▲アイスランドの大自然の中にある温泉

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▲スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア

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▲スロバキアの首都ブラチスラヴァ
―読者へのメッセージ―
税は、みなさんが「嫌いだな」「苦手だな」と感じるものの一つだと思います。しかし、スポーツで勝機を見出すためにライバルを研究するように、嫌いなものや苦手なものほど、相手をよく知る必要があるのではないでしょうか。日本以外の国のことを知ると、日本の良いところや足りないところが見えてきますから、EU法や外国の法律に触れることが、日本の税制度を理解するヒントになるかもしれません。また、多くの企業が海外に拠点を構えている今、日本以外の国の租税法の知識を持っていることは、ビジネスシーンで大きな強みになると思います。税や租税法はたしかに難しいものではありますが、ぜひ多くの方に少しでも興味を持っていただければうれしく思います。
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取材日:2023年4月