学問の地平から
教員が語る、研究の最前線
第30回 人工知能学
本学の教員は、教育者であると同時に、第一線で活躍する研究者でもあります。本企画では、多彩な教員陣へのインタビューをもとに、最新の研究と各分野の魅力を紹介していきます。
第30回 人工知能学データサイエンス学部 データサイエンス学科・大学院データサイエンス研究科
ウィラット ソンラートラムワニッチ 教授
人工知能に「思考」させるために、人間の思考パターンを知る
今後の展望
人間が得てきた知見同士をどう結びつけるか
人間の知的活動(言語理解・知識表現・問題解決など)を解明することで、人間・社会・環境を支援する仕組みを築き上げることが目標です。タイのデータベース構築で行ってきたことを、より規模を広げて取り組んでいきたいと考えています。人間がこれまでに得てきた経験や知識をいかにして繋げるかが最も大切ではないでしょうか。人間が想像して作ってきたものは元を辿っていけば必ず何か共通点があるはずです。その共通点さえ見つかれば、音楽や舞踊などといった「媒体」が異なっても、応用することができると信じています。
 
誰のスタイルなのか、誰の作った音楽なのか、どんな気持ちだったのか……。まずはこうした人間の特徴をパターンとして理解させること。そして人工知能自身で表現できるようになれば、もっと幅広い展開が見込めると思います。人間の発想と結び付けることで、人工知能は大きく進化していくはずです。人間の知識をいかにして抽出するか、そしてそれをどう表現・統合していくか、非常に興味深いです。
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▲「スーパーAIエンジニア」2022年11月放送、
 タイのテレビ番組のプロフェッサー役

教育
原理に興味を持つことが研究者の礎
私はタイと日本で教育を受ける機会がありました。今も、タイと日本を行き来してそれぞれの学生と接しています。同じアジア圏であっても、国民性は違います。日本の学生は責任感が強く、タイの学生は自由な発想を持っています。どちらが良いというわけではありません。ただ、互いの違いを知ることは大切です。最近は海外経験のない学生が少なくないですが、日本でも交流の機会はあります。自ら異文化に飛び込むことを意識してほしいです。
 
学生には早いうちに、自分の興味ある分野に出会ってほしいですね。そのためには、パソコンが便利、スマートフォンが楽しい、SNSが面白い……。とユーザーとして楽しむだけでなく、その奥の仕組みにまで興味を持ってほしいと思います。
 
私の授業では原理から説明することが多いと思います。作り手としての知識や経験をきちんと伝えていきたいですね。グループワークを積極的に取り入れるなど、創造力を高める授業を心がけています。
人となり
新しい文化に触れることでリフレッシュ
旅行は視野を広げることにとても役立っています。リフレッシュになりますし、いろいろな文化に触れることで自分の研究への新たなひらめきが生まれることもあります。印象に残っているのは中央アジアの国々です。宗教も食べ物も、もちろん言葉も全く違い、非常に奥深くて面白い場所だと感じました。旅行の前には多少言葉も勉強しますので、それが研究のヒントになることもあります。違う国の言葉でも、どこかしら共通点が見つかるものです。
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珍しいスポーツへの挑戦
体を動かすことが好きで、なるべく毎日30分運動するようにしています。日本に留学していた頃は、できる限りほとんどのスポーツを体験しました。特にスキーはタイではできないスポーツなので、よく出かけていました。スキューバダイビングにもハマって、ライセンスを取りましたね。新しいことを見つけると挑戦したくなる性格で、変わったこと、面白そうなことを見つけるとやってみるようにしています。
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―読者へのメッセージ―
言葉は人間の知的活動の成果物であり、 人間の感性や想像性を追求できる一つの糸口である――。この言葉をいつも念頭に置いて研究に取り組んでいます。言葉は人間の成果物です。言葉を真に理解できれば、人間の思考をある程度までは理解できるのではないかと思います。そして、言葉の仕組みが分かれば、思考を機械的にすくい上げることも可能だと信じています。
 
人間の知識は、ほとんど計算できない「多次元的な表現」という領域にあります。それを人に伝えようと言葉に変換することで、どうしても「二次元的な情報」になってしまう。この時に行われている「変換」が、非常に複雑で非常に面白いところです。どれだけ研究を重ねても人間の思考は本当に興味深く、飽きません。
 
私が研究を始めた頃、人工知能がまさかここまで進歩するとは夢にも思いませんでした。研究環境がかなり良いものになっていますので、いつか人間のように思考することのできる人工知能が生まれることを期待しています。
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取材日:2022年11月